第3話 あと4時間13分…
真剣に見つめる少女に、僕は笑顔で答えた。
「それは、映画の小道具なんだ」
「映画の小道具? 」
「明日、無事に教育実習が終わったら、すぐに撮影に入れるよう準備のため持ち歩いているんだ。僕、一様、映画サークルの部長だから…ね」
「へえー…」
そう言うと、少女は、次々と僕の頭陀袋から映画の小道具を出して、前の机の上に並べていった。
「サバイバルナイフ、ピストル、ヘルメットに手榴弾…いったい、どんな映画ですか? 」
「アイデアだけで、まだちゃんとシナリオも決まっていないけど、『ぼくらの7日間戦争』みたいに、学校に立てこもって、社会という化け物と戦う映画…かな? 」
「フーン…で、これって全部、本物ですか? 」
「まさか…カッコだけ、おもちゃだよ」
「本物みたい」
「画面の写りが良いように、頑張って作ったからね」
「え、先生が作ったの? 」
「ああ、手先は起用なんだ」
「ほんと、起用ですね。この機関銃なんか本物みたい」
少女は機関銃に手を伸ばした。
「あ、だめ…」
と僕が言う前に、少女は引き金を引いた。
――ダダダッ! ダダダダッ! ダダダダダダダッ!! ――
銃声が教室に響き渡った。僕は、慌てて少女から機関銃を取り上げた。
少女は耳を押さえた。
「大丈夫? 」
「なんとか…」
「この機関銃は迫力が出るよう、本物以上に音が大きくなるように作ったんだよ…」
僕が機関銃をしまおうと、教卓の下から頭陀袋を取り出した。
「危ないから、しまっておこう」
と僕が袋の口を大きく開けたとき、少女は頭陀袋の奥にあった長い筒に気がついた。
「それは何ですか? 」
「これ? 」
僕は、頭陀袋から長い筒を取り出し、少女に手渡した。
「何だと思う? 」
「何かの武器? 」
「いいや、マッチさ」
「マッチ…」
「筒の蓋を開けてごらん。中に入っているから」
少女は長い筒を開けて、中から長い爪楊枝になったマッチを取り出した。
「ほんと、長いマッチ…」
「それは時代劇『帰ってきた木枯らし紋次郎』の映画で、主人公の紋次郎がくわえていた長い爪楊枝をモデルにしたマッチなんだ」
「帰ってきた木枯らし紋次郎? 」
「僕が尊敬する映画監督、市川崑先生の作品で、日本映画では名作なんだけど…知らないか」
「うん。ごめんなさい」
「いや、いいんだよ」
僕は少女からマッチを受け取ると、口にくわえた。
「こんな感じで、口にくわえて格好いいセリフを言うんだ」
「へえ! 」
「これを去年の春、京都の嵐山に行ったとき、たまたまお土産で見つけたんだ。その時、
定員さんに『これが最後の1個で、もう生産はしていないどすえ…』て、言われて、ついつい買ってしまったんだ」
「フフ…どすえ最強! 」
「そう、最強だよ! 」
僕と少女は笑い合った。
「でも僕は市川崑先生みたいな映画を作りたいていう思いがあったから、このマッチを僕の小道具入れ、この頭陀袋にお守りみたいに入れてあるんだ」
「お守り、マッチが…」
「そう、マッチが…僕の夢の導火線に火をつけてくれる希望の火さ」
「かっこつけてる」
僕の話を聞きながら少女が笑っていた。
「そうだ、まだ、お互い自己紹介してなかったね。僕は、教育実習生の榊原友貴。ニックネームはトモさん。よろしく! 」
「あ、はい、トモさんですか」
「で、君の名前は? 」
「私は…塚口オメガです」
「ニックネームは? 」
「ニックネームは…ないんです。私、あまり目立たないし、友達もいないから…」
と言って、一生懸命、笑顔を作った。その笑顔に
――ドキッ――
とした。
「それじゃ、ツ・ツヵ・グチさん…いや…ええっと、ご・ごめん。僕、き・緊張すると、うまく話させないんだ」
僕は、ふうーと深呼吸した
「あの…オメガさんって呼んでもいいかな? 」
「あ…はい」
「じゃ、オメガさん、質問があります」
「質問? なんですか」
「生徒は、とっくに帰っている時間なのに、君は、どうしてこんな時間に教室にいるのですか? 」
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