悲しき恋物語

彼は静かに、彼女を見つめて、こう聞いた

「どうして、ずっと携帯に出てくれない?

メールの返事もくれない  僕の事、嫌いになった?」


「・・・・」悲し気に目を臥せる


「寺崎くん、あの話、覚えてる? 私の父の話」


「お父さんの話

君の本当のお父さんは、どこかのお金持ちの学生だった・・と?」


「一ケ月前、母が話してくれたの」


「そう、学生だった父、その金持ちのメイドだった 私の母」


「身分違いと結婚を反対され、母は私をお腹に宿したまま、

父にその事を話さず、姿を隠した しばらく遠い街で暮らしていたけれど


忘れられず、この街に帰って来た

母がメイドとして、働いていた金持ちの家、それは貴方の家!!『寺崎家』」


「じゃあ、僕達は」「姉弟なのか」「・・・・・」

寺崎くんを見つめ、泣きじゃくる綾香


抱き合う二人を横目に、

そっと『みさき』ちゃんは自分の机の引き出しから

小袋(ポーチ)を取り出す、その極彩色のポーチの中から、マイクを取り出す。


マイクの名前は『どこでも一人でも「カラオケちゃん」だ!』


小型のコンピュータが内蔵されて

マイクの下に取り付けられた小さなスピーカーからの自動伴奏付き!


記憶チップには200曲入っており、

インターネットでの新しい曲のダウンロードも可能!!


スイッチを入れ、歌うのはもちろん!!!最近流行りのTVの悲しい恋の物語

フル・バージョン!!!


目に涙を浮かべつつ、課長も自分の机の引き出しの中から、

なぜか小さなハーモニカを取り出す


そのハーモニカを口元にあて

みさきちゃんの甘く切ない歌に伴奏を添える。


燐粉のかかったテイシュ箱からテイシュを取り出し、涙と鼻水を取る

ちょっと純な若いサラリーマン。


それを部屋の外の廊下から伺う二人組

「くううう?可哀想なぼっちゃまあああ・・」

と高級なスーツがぼろぼろの会長の第一秘書



「はて?」 「どうしたんです、執事の五丈原さん?」


「変じゃのうう

たしかにメイドと恋に落ちた、学生という話があったのじゃが

それは、会長の一つ下の弟君のはずじゃが」


「・・・・」「・・彼女の勘違い?」


「・・・じゃあ、姉弟ではなく従姉(いとこ)」


「今、あの状態の皆さんに、声をかけるのも、なんですし」


「まあ、あのOL嬢の歌が終わって、教えてあげましょう」


「う?むううう」「今度はどうしたんです?執事の五丈原さん?」


「何か大切な事を忘れている気がするのじゃが・・・」


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