第11話 オレのバディが、死ぬほどオレを信じているんでな

 源子が平平の首元に、渡された布を巻きつけはじめた。それは遠めにはネクタイを締めてあげているように見える。

 源子はすぐ目の前の平平の顔を正面から見ながら、すこし声を強めた。

「現在の状況を再度整理します」

「あぁ、頼むわ」

「こちらは2回のクリティカルヒットをもらって、青属性の『チョキ』、赤属性の『グー』をうしないました」

「あぁ、もう緑属性の『パー』しか出せねぇ。マジピンチだ」

「いいえ、よく見てください。正確には、75%パー、25%グーの「黄色」、75%パー、25%チョキの「アクア」そして100%パーの「緑色」が出せます」

「どっちにしても勝ち目はねぇんじゃないか」

 平平のネガティブな発言に腹が立ったのか、源子は首に巻きつけていたサラシをギュッと締め上げた。

「3つの手が出せるのと、まったく手が出せないのは大きな違いです」

 平平は首が絞まっていき、苦しそうな顔になっていく。

「わ、わかった、わかった」

 源子はサラシを巻いている手をとめて、上を見あげた。

「万丈先生。いただいたこの布、どうも中途半端な長さのようですが……」

 上空からふたりを見おろしていうアミの口元が嫌みにゆがんだ。

「わたしはそこまでお人よしじゃないのでね。そいつは偶然手に入れた『おむつに短し、ふんどしに長し』なアイテムだ。ぴらぴらにピッタリだろ」

「おい。どーいう意味だよ」

 源子はうんざりとした顔でふーっとため息をつくと、囁くように平平に言った。

「少し布が余りました。うしろに垂れさがりますが、堪えてください」

「まぁいいさ。ヒーローっぽくていいじゃねーの」

 源子はサラシをしっかりと固定しながら静かに言った。

「へいべい君の命、わたしにお預けいただけますか?」

 平平はサラシで巻かれた首元を残ったほうに手でさすりながら、うんざりとしたような表情を浮かべて文句を言った。

「みなもとうじぃ、いい加減にしてくれや」

 平平は戦場のほうへからだを一歩踏み出し、ミナコに背中をむけたまま言った。

「そんなのずいぶん前から預けたままだろ。ちったぁ利子がついてるっていうもんだぜ」



 空中から刀を召喚しながら、うしろを振り向きもせず源子に言った。

「さあ、ひとおもいに、命令してくれ」



 前からとぼとぼと歩いてくる平平の姿をみて、驚き半分、興味半分でコールマイナーが目を細めて言った。

「ほー、まだ生きてたのか?」

「あたりまえだろ。最初から言ってるじゃねぇか。どんなクソみたいな『幽霊』でも浄霊するって」

「虚勢をはってもその姿ではな。おまえに勝ち目はない」

「ン、ま、それに関しちゃあ、てめぇと同意見なんだけどね……」


「オレのバディが、死ぬほどオレを信じているんでな」


 平平が刀身をぶんと振ると、下弦にかまえる。

「浄霊させてもらう!!」

 カチャリと音をさせ、剣を立てると、平がコールマイナーに向って、一気に走り出す。

ミナコの目に映るそのうしろ姿は、正面からは鎧や籠手で隠されていてわからなかったが、左肩から腕を失い、どてっぱらには大きな穴が開いて、壮絶なまでに満身創痍だ。


「これで採掘終了だよ」

 コールマイナーがツルハシを振り降ろした。平平の剣とツルハシが交錯する。

 平平の剣は『黄色』。75%パー、25%グー

 コールマイナーの剣は『紫色』100%チョキ。


 音無まひるがその結果におもわず、天を仰いだ。

「あン霊力バカ、クリティカル喰らわんかったが、また負けたぜよ!」

「みなもとはん。50%の負け、まずいんと違いますぅ」

 音無姉妹はふたりとも源子を心配して、そのうしろ姿を見守っていた。もしなにかあったときは、自分たちがなんとかしなければという思いが伝わってくる。

「ご心配なく」

 はずむような声で返事をした源子は、自分が放った矢が刺さっている目の前の戦略護符タクティクス・チャームをじっとみていた。


『REVERSE (勝負の結果を相手に返す)』——。


 源子はほっとしたように顔をほころばせて、音無姉妹のほうへ顔をむけて言った。

「へいべい君。きっちり負けてくれるって信じてました」


 コールマイナーと刃を交えたままで、まんじりとも動かずにいる平平。と、コールマイナーのツルハシの一角が、パーンという派手な音とともに砕けた。今度は、平平の剣が一閃し、コールマイナーの腕を斬りつけた。コールマイナーの腕から血が噴き出した。

「な、なにぃ」

「切り札をきったのさ」

 コールマイナーの頭上に「ー500」の数字が一瞬浮かびあがり、うしろに浮かんでいる魔力陣の一部にヒビが入った。


 だが、それだけだった。コールマイナーの腕にすこしばかりの傷をつけ、魔力陣にうっすらひびをいれた。それだけだった——。

 その結果に、おもわずまひるが額に手をやり、もう一度天を仰いだ。

「おい、おい、ちょこっとしか削れんかったぜよ」

「みなもとはん、『REVERSE』つこうても、たった50%勝ちでは、かすり傷程度ですえ」

 みかげもさすがに焦りの色は隠せない。 

 だが、平平は流麗りゅうれいな刀運びですっと鞘に収めると、コールマイナーを正面から凝視した。

「ほう、逃げないとは、貴様、いい度胸だ」

 コールマイナーがうしろから声をかけた。

「いいや。あんたのからだに埋まっている、そこのいけ好かない副生徒会長をね……」

「この勲章か?。奪えるものなら奪ってみろ」

 平平はコールマイナーに背中をむけたまま、自分の首にまかれていたサラシをむしりとるように外して言った。

「わるいな。とりあえずは……」


「おまえに奪われたオレの身体、返してもらうよ」


「は、生意気な。このていどの傷をオレにつけたからといって……」

 そこでコールマイナーはやっと、平平の首がいつのまにか、元に戻ってくっついていることに気づいたらしい。

「ちょっと待て……。おまえ、なぜこの程度の勝ちで、そんなに再生している?」

「あぁ、それは浄霊完了したからだ」

 平平が鎧の上からお腹周りをさすりながら答えた。そのときふっと吹いた風で服がまくれあがり、平平の胴体が見えた。が、どてっぱらに空いていたはずの穴はもうなかった。


「おい。からだに空いた穴はどうなっている……」


 コールマイナー同様、ノンがおなじように不思議な光景に声をあげた。

「アミさん、あれ、どういうことなんですか?」

「あれが、ぴらぴらの『霊力バカ』の由縁だよ」

「意味が……」

 アミはすこしあきれ顔で、ため息交じりに答えた。


「あいつの霊力な。馬鹿強いンだわ。ちょっとかすった程度で、あり得ないほど相手のマナを奪い取る」

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