第10話 正霊媒士の作戦本部

 正霊媒士の作戦本部——。

 中世の古城のなかに設置された。

 一番おおきな部屋はバスケットコートほどのある大きな部屋で、落ち着いたヨーロッパのアンティーク調の調度品に囲まれていた。チョイスした人物のセンスを感じさせる品々が部屋を落ち着いた雰囲気にしたてあげていた。華美になりすぎず、しかも古さにとらわれない、居心地の良いバランス。

 だが、その豪華な印象は部屋の半分だけだった。反対側の壁には大きなモニタスクリーンとその周りにも100を超えるサブモニで埋め尽くされ、現在戦っている霊媒師たちの戦闘の様子を映し出していた。

 その下方にはコンピューターの端末が並べられ、それに張り付いて操作している人員に、そのうしろでタブレット端末で現況を確認している人員等が所狭しと入り乱れている、

 メインスクリーンの前に、あごに手をやって立ったまま戦況を見守っている男がいた。

 ガブリエル・バーンズ——。

 頬がいくぶん落ち込み、すこし病んだようにみえる感じの顔立ち。細いフレームのシャープなシェイプのメガネのせいで、ある種の異様な魅力が感じられる。だが、そのメガネの下から覗く鋭い目をみたら、その印象は180度変わる。どこか爬虫類を思わせる強烈な目力に、だれもがこう思うはずだ。

 あいつに出し抜かれないように気をつけろ——と。


 一人の部下がバーンズに声をかけた。

「バーンズ大司佐。各所の同時多発憑依の浄霊状況を報告します」

 バーンズは画面から目を離すことなく言った。

「端的に頼む」

「はっ。ヨーロッパ15箇所、北アメリカ20箇所、南アメリカ10箇所、アフリカ7箇所はすべて浄霊完了いたしました。アジアサーバーは8ヶ所中1箇所、ユーラシアサーバーは4ヶ所中1箇所残すのみとなっています」

 バーンズは報告係のほうに顔をむけた。

「アジアサーバーはどこだ?」

「日本です」

「誰が任にあたっている?」

「ジョン・ランス中司尉率いる分隊ですが、現在は援護の地元学生たちが浄霊中と……」

「まさか。ジョン・ランスがやられたのか?」

「はい。そう報告を受けています」

「で、学生とは?」

「はい、あの万条アミ氏が担任を努めている高校の生徒と……」

「そうか……」

 バーンズは口元をゆるめると、急に興味を失ったような顔をして、くるりと背中を向けた。

「では、もういっぽうのユーラシア・サーバーへ増援を!」

「日本のほうは……」

「不要だ」

「は?」

「君も彼女のことを、『あの』と呼んだじゃないか」

「えぇ、まぁ…」

「我々の仲間の多くが被害にあった、あの基地局喪失サーバーバニッシュドで唯一無傷で生還した伝説の少女だ……」


「わたしには彼女が失態をおかすところを想像できない。


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 どてっぱらに大穴をあけられた平平が戻ってきた。背骨が無くなっているので、からだのバランスがとれず、歩くたびに右や左にからだが揺れて落ち着かない。

 平平の首が悔しそうに言った。

「すまんみなもとうじぃ、マジで追いつめられた」

 そうしゃべったとたん、口からどぼどぼと血が流れ出る。すでにまひるは両手でもった平平の頭を思いっきり前に突き出して、自分から遠ざけている。

「えぇ、追いつめました」

「みなもとうじぃ。ちょっとした冗談の代償にしては罰が重たすぎねーかぁ」

「ただの半殺しですよ。完全に死んでいるわけではありません」

「いや、意味がよく……」


 そのとき、空中に浮かんだ雲の上からアミが、強い口調で叱り飛ばしてきた。

「ぴらぴら、げじげじ!。次で終わらせろ」

 アミは思いっきり不服そうな表情をしていた。

「で、ないと、実技、赤点にするからな」

 アミはそう言うなり、白い布を下にいるふたりのほうへ放り投げてきた。はらはらと落ちてき布を、源子が受け取る。

「先生、これは?」

「ぴらぴらの首をそれで身体に括り付けておけ。いくらぴらぴらが頭のないヤツだと言っても、ガチで頭なしで戦わせるわけにはいかん。それで負けたりしたら、担任として監督責任を問われるかねんからな」

「なるほど……。一応、担任として善処した、という形にしておきたい、という解釈でよろしいですか」


 どうやらアミの痛いところをついたらしい。アミは源子に恨めしげな目を投げつけると、「どうとでもとって構わん」と言い捨てた。

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