第29話 王立軍出現

「空間……転移……?」


 森のうえにまばゆい光が輝きはじめた。

 それが森のなかへゆっくりとさがってくると、バリバリと木が裂ける音がして、そのあたり一体が切り開かれはじめた。


 ぼくは目の前に現われた光景を信じられない思いで見ていた。


 森を切り開いて、光のなかから現われたのは——



 軍隊だった。



 王立軍の旗がはためく。

 騎馬隊にくわえ、弓隊、重装歩兵隊、歩兵隊、そして魔法部隊……。

 ざっと見渡しだけでもその数は300はくだらない。 


 中隊……いや、大隊レベルのガチの編隊が、いきなり森のなかに出現した。


 隊がまんなかでザッとわかれた。

 そのあいだを奥から、ゆっくりとした歩調で騎馬がやってくる。

 先頭にいた騎士が叫んだ。


「第二師団所属 第13大隊 ラグランジュ少佐である」



 ラ、ラグランジュ……少佐……



 ぼくはがく然とした。

 正面から闊歩してくる騎馬をみる。

 

 まぎれもなく、ラグランジュが乗っていた。


 からだのラインを強調した甲冑は、どす黒い赤を基調としたデザインで、露出がすくないのに、なまめかしさいっぱいだ。


 ラグランジュは、ぼくのところまで歩をすすめて来てから言った。


「へぇ、ベクトールちゃん、まだ首がつながっていたのね……」



 やぁ、ラグランジュ、元気そうだね。 

 やぁ、ラグランジュ、バイアスは元気かい——

 やぁ、ラグランジュ、たいした出世じゃないか——



 バカか、バカか、バカか!!!



 ぼくを直接殺しにきたんじゃないか——



「クランツェ……、クランツェ・オーディン師団長ではないですか!」


 さきほどラグランジュの名前を告げた騎士が、クランツェを見つけておおきな声をあげた。


「ムランか……」


「なぜ、あなたがここにいるのです?。あなたは反逆罪で国を追われたはず……」

「いや、わけあって、この村で隠遁いんとん生活をしておったのだ」


「ですが、ここはまだ我が国領内……」


「後生だ。見逃してくれ。ムラン……」



「これは僥倖ぎょうこう。賞金首がもうひとつあるとは……。そなたの首、ラグランジュ隊がもちかえらせてもらおう」


 ラグランジュはいつも上から目線だったけど、いまはそんなものじゃない。

 高圧的で、支配的で、無慈悲だ——。

 


「それにしてもシノビ!」

 ラグランジュがシノビ・スレーヤーたちをにらみつけた。

「まったく役にたたなかったな」


「はっ。ラグランジュ様、まことに申し訳ありません。見ての通り、突然ワーラットの大群に襲われまして……」  

「いや、かまわん……」


「そなたらの仕事は、ベクトールを探しだして、その場所を『感応魔法テレパシー』で知らせることだったのだからな」


「は?」


「もう用はない。ムラン大尉、やれ!」


 弓兵たちから一斉に矢が放たれ、シノビ部隊はあっという間に矢のえじきになった。


「なんということを!」

 リーダーのシノビが叫んだ。

 リーダーは脚や腕や肩を貫かれながら、なんとか致命傷をまぬかれていた。


「さいしょから……、さいしょから、われらは使い捨てか……」


「は、シノビ、などというのは、それがさだめであろう。むしろ天命を果たせたと感謝してもらいたいものだ」


 ぼくははらわたが煮えくりかえる思いだった。

『ケンジュウ』をつかって騎士団を皆殺しに、いやありとあらゆるポーションを駆使して、この大隊を全滅させてやる——

 

 だけど、そのあとどうする——


 王立軍を敵にまわして……


 ぼくだけじゃない。

 アリス、パケット、ロランも一生追われることになる——

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