第二章 食べ物がなくなった村

第7話 殺気立つ村人たち

 ぼくらは次の日、近くのソムリア村にむかうことにした。


「ロラン。なぜ、ソムリア村なのさぁ?」

「おぬし、勇者になりたいんじゃろ?」

「そ、そりゃぁ。ボクには野望がありますから……」

「ギルドのある『バテンデー』にいくには、そこを通るのが近道なんじゃよ」

「あの、なんで『バテンデー』みたいな、おおきな街へ?」


「勇者になるには、パーティーを『ギルド』に登録せんといかんじゃろうがぁ」


「そうなんですか?」

「ベクトール。そんなことも知らないの。無知ね」

「あ、いや……」


 なんにも言い返せない。


 バイアス・パーティーにいたときは、そういう面倒な手続きは、ラグランジュがぜんぶやってくれていた。


 ほんとうに、ぼくは役立たずだったのかもしれない……


「ほんとうに、ベクトールって使えない奴だったのね!」


 いや、今、ここで、あらためて口にださんでも!!


「ははは、アリス、きみ、意地がわるいねぇ」


「えぇ。わるいわよ。とくに使えない人にはね」


 んぎぎぎぎ………

 あんたも、そうとう使えないヤツだったはずですけどぉぉぉぉぉ。


 どこからくるんですか。その自信!!


 レベル7ごときの、ただの胸デカ、スタイル良し、のブサイクのくせにいいぃぃ。



「あ、ベクトール、いま、わたしのこと、カワイイと思ったでしょ?」



 思ってませんよ。


 えーー、思ってもみません。


 思ってやろうとも、思いません。


 思ってたとしても、思ってあげませんしーーーーー。



「わたし、しょげてるベクトールって、ちょっぴりカワイイって思っちゃった」



 ん、まぁ、かわいい、と思ってやらんこともない……かな。






 ソムリア村はレンガ作りの家が、ひしめいているちいさな集落だった。


「ずいぶんみすぼらしいですね。家のレンガもボロボロじゃないですか」

「ここは鉱石掘りで生計をたてている村じゃと聞いているがのぅ」

「儲からない鉱石でも掘ってるんでしょ」

「あそこに食堂がありますから、まずは朝食でもとりましょう」


 ぼくらは広場のちかくにある食堂にはいった。

 店ははやっているらしく、まだ朝だというのに客でいっぱいだった。みなうなだれてテーブルに突っ伏しているので、酔いつぶれているのかもしれない。


 しかたなく、はじっこのほうの席にすわった。


「主人、ご飯をたべたいんですけど、なにか『オススメ』ありますか?」


 その瞬間、店にいた客がいっせいに、こっちをにらみつけてきた。いつのまにか、さっきまで顔をふせていた連中まで、おきあがっている。


「『オススメ』だとぉぉぉ。そんなものがあると思っているのか!!」


「よそ者のくせに生意気だぞ」


 いや、ぼく、食事を注文しただけよね?。


 なんで? そうとはとても思えない反応——


「すみません。メニューがないので、テキトーになんかないかなぁって……」


「適当に、だとぉぉぉ。そんな自由があるとでも思ってるのかぁぁぁ」


「あ、いえ、すみません。も、もしかしてここは、一品モノの専門店かなにかで……」



「ふざけるな。ここに、食えるモンなんかねぇんだよ」


「食えるものがない?」


「なに。よそ者に食わすものはないと申すのか?」


 ロランがぎろりと客をにらんだ。


「食い物そのものがねぇんだ。オレたちはもう一ヶ月近くロクなモン食ってねぇ。王都の森に生えてる、くせぇ葉っぱとか、硬い根っことかを食って、飢えをしのいでンだよ」



「じゃあ、いいわ。行きましょ。ベクトール。隣の村までいってブランチにしましょ」


「隣の村だと? そこにいけないから、こんな目にあってるんだよ」

「精霊の森を抜けられないからな」



「なんで抜けられないんですか?」



「木の精霊たちが大暴れして、隣村への道をふさいでいるんじゃよ」


 殺気だった客をかきわけるようにして、ひとりの老人がでてきた。 



「この村は植物が育たない岩で囲まれた村でのう、食べ物はすべてほかの村に依存しておるのじゃ。だからそこへつながる道をふさがれてしもうては、ワシらはなにもできんのじゃ」


「王都の森にはいればいいじゃないの。あそこなら動物とかいるし、食べられそうな野草も生えてたわ」


「あの森はばかでかい怪物が、うようよいるからダメだ。クマの体に【アレ】がついた卑猥な、いやおそろしい怪物だ」


「あ〜あ、あれ。あれはもう退治してきたよ」


「ほんとうか? あんた」



「うん。ぼくら、アリ・トー……」

「ええ、わたくしのパーティー、『アリス・パーティー』が駆逐してさしあげましたわ」



 いや、ガッツリ、自分の名前だけになってンじゃねぇか。ぼくの名前、カケラすらはいってないし、どういうこと?。



「ありがとうございます。アリス・パーティーのみなさまがた」


 老人がぼくらにむかって頭をさげると、まわりの人々も口々に礼を言ってきた。




「では、みなさん。今から王都の森にいって、狩りをしようではありませんか」


「村長、でも、だれがいくんです?。あっしら自慢じゃねぇですが。誰も狩りなんぞできやしやせんぜ」


「そもそも、腹がペコペコで森までたどりつけませんよ」


「捕まえたところで、どうやって料理を? ここにゃあ、調味料なんか、なんにも残っちゃあいねぇよ」


 さきほどまでのわずかばかりの高揚感がしぼんで、一気に葬式のようになった。



「おい。ベクトール。おなかが減った。なにか食わせろ」


 ロランが机をたたいた。


「ロラン。今、ここで語られていた、この村の悲惨ないきさつを聞いてなかったのか? あんたわぁぁぁ」


「知らん。とにかく腹が減ったのじゃ。お腹が満たされんと、わしは『専守防衛の誓い』を破ってしまいそうになるのじゃ」


「な、なにをする……のでしょう?」


「先制攻撃をする」


「な、なんにぃ?」



「まわりの連中に八つ当たりするのじゃ」



「ロラン!! あんたのレベルでそれやられたら、こんな村、消減すんだろうがぁぁ」



「もう、ベクトール、なんとかしてよ?」



 アリス。そこはぼくにまる投げかよ!



「アリス。きみはアリス・パーティーの団長なんでしょ。きみがなんとかするしかないんじゃないかな?」


「さ、さっきはちょっといい間違えただよぉ」



 そう言ってアリスはわざとらしく、しなをつくってきた。


 うわ目使いでぼくを見つめて、ぼくの胸元をひとさし指でぐりぐりぃぃぃぃ。



 あからさますぎる!


 でも、カワイイ——




 ぼくはため息をついてから、手をテーブルの上にかざした。




 取り寄せアポート!!!

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