第135話 援軍は敵を求めてます

 王姉であるカサンドラ元王女の婚家が、国家として独立した。喜ばしい知らせに沸く獣国ルベウスに、さらに吉兆が続く。王家の遠縁であるアンヌンツィアータ公爵家のご令嬢ヴィルヘルミーナと、クリスタ国王ベルンハルトの婚姻が決まった。


 政略結婚が好まれないルベウス国だが、今回は完全な恋愛結婚だ。互いに一目惚れで決まった話は、あっという間に民に広がった。政略結婚に怯える兎の姫を、半獣人の王が優しく抱き締める物語は絵本となり、幼い子供も知る御伽噺の仲間入りをする。


 そんな喜び続きのルベウスの民は、クリスタ国を襲う欲深い人間達の戦を許さなかった。美しい妻を迎えるため、悲壮な覚悟で13カ国の連合軍に立ち向かう若き王――いつのまにかベルンハルトは、悲劇の王に祭り上げられていた。


「クリスタ国を支援する! 志願兵を募れ」


 ルベウス国王の号令は、わずか数日で国中を駆け巡った。足の速い獣人が積極的に広報活動に従事し、空を飛ぶ獣人は離れた村や集落に知らせを届ける。志願兵は膨らみ過ぎ、なんと抽選のクジ引きが行われる騒ぎとなった。転移魔法陣で送る関係もあり、かなり兵力は絞られる。最大でも200人規模が限界だった。


 強さを誇る種族の肉食系獣人なら、数匹で人間の国を滅ぼすと言われる。200人は過剰戦力だとさらに絞られ、最終的に150人まで減らせた。国王と周囲の努力の結果、頑張ったのだが……。


「なるほど……叔父上のご厚意でしたか」


 まだ多すぎる。


 駆けつけた屋敷で、婚約したばかりの姫を抱き寄せたベルンハルトは、事情を知って苦笑いした。屋敷に馬を乗りつけるなり、二階から飛び降りた兎獣人のヴィルヘルミーナは、抱き留めたベルンハルトから離れようとしない。カサンドラも咎めないため、ずっとお姫様抱っこで移動した。


「多過ぎたのね」


 遅かったとは思いたくない。邪魔だと言わないベルンハルトの優しさに気づいたヴィルヘルミーナの耳が、へなりと倒れた。しょげてしまった耳に、ベルンハルトは口付ける。


「そんなことはない。同盟国ベリルの支援も行わなくてはならないし、戦場はまだ残っているよ」


 婚約者を喜ばせたい一心で、勝手に新たな戦場を作り出すベルンハルトだが、実際にベリル国は包囲の危機に瀕していた。それを見通したような言葉を吐いたベルンハルトの元へ、伝令が駆け込む。


「ベリル国より鳥文あり。不動であった5カ国と、明朝交戦とのこと。以上」


 鳥に文を結び、遠距離を最短で飛ばす伝令は緊急用だ。それを届けたベリル国は、クリスタ国と内々に同盟を結ぶ予定だった。まだ同盟国ではないが、見捨てる選択肢はない。


「おお! 敵がいたぞ!」


「よかったわ」


 敵がいて喜ぶのは、何かおかしい。そう思いながらも、ベルンハルトは彼らを転送する方法を考え始めた。

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