第133話 過剰戦力なのに援軍が来た
砦から見える景色は、あまりに壮絶だった。引き付けて防衛する。それは相手の補給線を最大まで伸ばし、今後の戦を減らす目的があった。今回の戦で金を使い、軍が壊滅状態になれば、しばらく新たな戦争を起こす余裕はなくなる。補給を伸ばして消耗させることで、国力を削ぐことも可能だった。
えげつない方法だが、彼らが戦を仕掛けなければ使わない。悪いのは敵だと割り切ったベルンハルトの案に、父や英雄達は賛成した。魔王は手ぬるいと指摘し、さらに搾り取るべきだと主張する。だが魔族と違い、人間は弱い。今回参加した国の半数は、国としての形を保てなくなり滅びるだろう。それを説明し、ようやく納得してもらった。
人間の戦いならば、人間が決めるが良かろう。そう妥協した義弟になるイヴリースだが、不吉な言葉をひとつ残した。それはまるで予言のようだ。
――オレが引いても、兎や狐が引くとは限らぬぞ。
獣人のことだろう。見た目の愛らしさを裏切る獰猛さをもつ兎は、獣国ルベウスの宰相を務める公爵家を示している。狐は言うまでもなく王家だ。どちらもベルンハルトの親族であり、人間に対して強者であった。
「王太后様より伝令! こちらを」
駆け込んだ使者の手紙を受け取ったスヴェンが、開封した手紙を開かずに渡した。取り出して開き、わずか1枚しかない報告に苦笑いする。
「ご苦労だった、援軍を歓迎すると伝えろ」
一礼した使者が踵を返し、階段を下りる靴音が響いた。今の言葉で、執事スヴェンもある程度の状況は理解したらしい。アルブレヒト辺境伯改め、侯爵に手紙を渡す。さっと目を通し、隣で待つ老齢の男性に差し出した。ヘルマン男爵だった伯爵は息子ブルーノへ、そして控えていた重鎮に回されていく。
「過剰戦力ですな」
苦笑いしたヘルマン伯爵の言葉に、その場に集まる指揮官達が肩を竦めて同意する。貴族平民関係なく、実力や部下からの信頼度を基準に選ばれた軍の重鎮は、年齢も経験も多種多様だった。護衛に特化した平民出身の若者もいれば、国を守り抜いた英雄も混じる。
「今回の敵はアゲート国を主軸とした13カ国の連合だったが……」
唸るように前提条件を確認するアルブレヒト侯爵へ、若者が口を開いた。
「打って出ますか?」
「いや、父上や魔王陛下に恨まれるぞ」
ベルンハルトの呟きに、全員が顔を見合わせた。目に物見せてくれると息巻いたアウグストの姿を思い出せば、下手に加勢すると恨まれそうだ。ただでさえ敵が足りない状況で、さらに援軍を送られるとは……有り難いはずなのに、素直に感謝できなかった。
獣国ルベウスへ割り当てる敵がいない。
「俺は一度屋敷に戻る。指揮権をアルブレヒト侯爵に移譲、後を頼む」
馬を用意しに先に下りるスヴェンを見送り、護衛に名乗りをあげたブルーノと平民出身の指揮官を伴って砦を出た。馬を走らせながら、ベルンハルトは悩みを溜め息にして吐き出す。とにかく味方が有能すぎて、敵が足りないのだ。援軍になんと説明したらいいか。贅沢な悩みを抱える国王は、街道を屋敷へと駆け上がった。
街はいつもと変わらぬ、平穏な日常を繰り返す。外で起きている戦を知りつつも、負けぬと確信して生活する民は逞しかった。
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