第42話 報復は覚悟の上ですよね
長くしなやかな大蛇の鱗がぎしりと音を立てる。いや、音を立てたのは彼女ではなく……巻かれたメフィストの骨だった。大蛇は身体をくねらせながら、少しずつ締める輪を小さくしていく。みし、ぎち、嫌な音が続けざまに部屋を震わせ、ごきんと肩の関節が外れて砕ける音が響いた。
「……っ!」
声にならない激痛を噛み殺すメフィストの耳に、蛇は長い舌をちらつかせながら囁いた。
「ねえ、陛下の居場所だけでいい。それだけ教えたら、楽にしてやるわ」
離すとも一息に殺すとも取れる誘いに、メフィストは虚勢を張った。無理やりに笑みを作り、何でもないように振舞う。足の骨が折れる音が聞こえた。痺れて全身の半分はもう痛みも感じなくなっている。
「……あの、方が……本気なら、あなたは」
見つけられない。目と鼻の先にいながら、蛇の鋭い嗅覚も魔力による感知もすべて跳ねのける主君を誇るように、メフィストは笑った。そんな余裕はないはず……苛立ちと焦りから、メドゥサは一気に身体をくねらせて搾り上げる。
「ど、やって……知っ、た……ので、すか」
この状況になっても丁寧で嫌味な口調が崩れないメフィストに、メドゥサは得意げに答える。蛇に本気で締め上げられ、逃げ出した獲物はない。最後は丸呑みして、魔力も能力も吸収するつもりだった。魔王の側近として名を馳せた彼を殺せば、さぞ素晴らしい能力が手に入るだろう。
誰が邪魔しようと構わない。惚れた男を手に入れるためなら、死体の山を築いてやろう。この私の存在を無視できないほどに、目の前に出て対峙するしか手段を選べなくなるくらい、魔族も人間も殺せばいい。
「私にもね、利害が一致する人はいる。
勝利を確信したメドゥサの口は軽かった。複数の骨が折れる音に、唇を噛み切ったメフィストの顔が青ざめる。口の端からあふれた血が、ぽたりと地面に赤い王冠を作り……。
一瞬で弾けた。
音も振動もなく、ただ膨大な光が質量をもったかのように広がっていく。眩しさに紫の瞳を背けたメドゥサの目に、思いがけない人物が映った。
「あ、ありえない。なぜ」
紫に染められた唇がわななき、恐怖を吐き出す。震える息まで支配する驚愕に、瞼のない蛇の目が潤み見開かれた。
「逆に、どうして私を捕らえられると考えたのか。
まだ大蛇が締め上げる人物が、目の前に立っていた。寸分違わぬ姿で興味深そうに、殺されかけたメフィストを見つめるメフィスト――状況の理解を拒むように首を振るメドゥサに呆れ顔の男は、空中に器用に腰掛けて肘をついた姿勢で覗き込んだ。
「さて、随分と私を甚振って楽しんだようですが、当然報復は覚悟されての行いですよね」
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