いや、金に困らない生活がしたいって言ったけどさぁ……

第1話 

「……苦しい……誰か、助け……」

 新型ウイルス性の伝染病のニュースが連日テレビを賑わす猛暑続きの夏、木造で築50年以上風呂無し、勿論エアコンなんてついてないアパートの一室で、俺は突然の胸の痛みに倒れた。

 痛い……苦しい……死にたくない……いや、もう良いか……ろくでもない人生だったけどさ……借金も返し終わったし……もう、楽になってもいいだ……ろ……


「えーっと、金田金一さん享年45歳、死因は過労死ですねー。 それでは次の転生先を決める為に、今までの人生見させていただきますねー、走馬灯スタート!!」 

 ピンクの髪の毛の頭の軽そうな少女の言葉と同時に、目の前のスクリーンに俺の人生が早回しで流れていく。

「ん~、子供時代は普通ですねー、何の問題も無いですー、つまんないなー……えっ、あははは……あ~、これは酷いですね~、面白~い」

 今思えば幸せだった、俺の子供時代をつまらなさそうに見ていた少女は、俺の人生の転換期となった大学時代から、身を乗り出すようにスクリーンを見て、楽しそうに笑っている。

 人の不幸が、そんなに楽しいか?

 流行の大人数アイドルみたいな可愛い顔してるのに、性格悪いなコイツ。


 俺の20歳の誕生日、親父が会社の金を横領して愛人と姿をくらませ、お袋はその話を親父の上司から聞かされた日に倒れ、そのまま数日後に死んじまった。

 成人はしたものの頼るべき親戚も無く、アルバイト以外まともに働いた事も無い学生の俺に相続放棄などの知識があるわけも無く、数百万の借金を抱える羽目になり……

 大学を退学して就職しようにも就職氷河期と呼ばれる時代。

 大学中退だけでも問題なのに、親父の事件がテレビで取り上げられた事もあり、俺を雇ってくれるような会社はどこにもなかった。

 住んでいた家や家電、服や家具に食器など売れる物は全て売り払い、食事は一日一食おにぎりか菓子パン一つ。

 睡眠時間を削って、日雇いやアルバイトを掛け持ちし、利息で膨らみきった借金を返し終わる頃には、俺の体はボロボロだった。

 だから、世間では新型のウイルスがと騒ぐ中、俺はただの風邪で呆気なく死んだらしい。


「あ~面白かった!! 楽しませてくれたお礼に、特別に転生先について希望を聞いてあげる。 まあ、希望が叶うかどうかは、分からないけどね~」

 俺の苦労を笑いものにしてくれたこの少女は『転生を司る神の使い』らしいのだが、希望を聞いてやると言いつつ、ニヤニヤ嫌な笑いを顔に貼り付けているところを見ると叶える気はないんだろ。

「次は、金に困らない生活がしたい」

「オッケー、お金に困らないね。 じゃ、いってらっしゃーい」

 ま、言うだけは無料だとダメもとで言ってみたら軽い口調で許可が下り、そのまま俺は意識を失って、この世界に転生した。



「あー食った食った、女将さん今日も、美味かったぜ」

「はいはい、いつもありがとうよ。 今日は581ラシドだよ」

 ラシド公国西端の港町ファソにある食堂フラットの昼時は、早くて安くて美味いと港で働く労働者達でいつも満員だ。

 かくいう俺も、この店にはよく世話になっている。

「ほい。500……80……1ラシド! また明日も、よろしくなー!!」

 おいっお前、机に金を叩きつけるな! 

 1ラシド硬貨は薄くて軟いんだぞ、曲がったりしたらどうするんだよ!!

「はい確かに、こちらこそ明日もよろしくね」

 そんな台詞と共に、ちょっとぽっちゃりした女将さんの指につまみ上げられた俺は、鍵付きの箱の中に入られた。


 蓋が閉められた箱の中は真っ暗で、自分の意志では身動き一つ出来ない。

「次は、金に困らない生活がしたい」

 そう願った俺は、この世界シンフォニーの大国、ラシド公国の最低単位の硬貨、1ラシド硬貨に転生したんだ。

 確かに金には困らないさ、自分が金だからな……だからって前世の記憶持ちの上、視覚、聴覚、痛覚があって暑さ寒さを感じる状態で無機物に転生って巫山戯んなー!!!

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