後日談56話、勇者遺産、修復中


 ゴールデンウィング二世号で浮遊島にやってきたライヤーたちは、そこでしばし逗留を選んだ。


 ソウヤやミスト、ジンといった仲間との旧交を温める一方、ライヤーは確認したいことがあった。


「なあ、ジイさん、プラタナム号ってひょっとしてここにある?」


 魔王との最終決戦で墜落し、しかしその後、姿が消えた勇者遺産の飛空艇。ライヤーはソウヤの生存を信じる一方、プラタナム号についてもある種確信をしていた。


「あるよ」


 ジンの答えに、ライヤーはニヤリとした。


「やっぱりここにあったか! 見に行けるかい?」

「案内しよう」


 かくて、クレイマンの浮遊島の持ち主である老魔術師と共に、ライヤーは浮遊島の一角にある、飛空艇用ドックへと向かった。

 その一つに停泊しているのが、白銀色の船体を持つ鋭角的フォルムの飛空艇。どこか宇宙船のようにも見えるそれが、勇者遺産であるプラタナム号である。


「へえ、割と直ってるじゃねえか」


 外観を眺め、ライヤーは笑みを浮かべる。


「修理にきたのに、もう終わっちまってるってか?」

「さあ、どうかな。私たちは何もしていないからね」


 ジンの言葉に、ライヤーはキョトンとする。


「何もしていない?」

「そうだ。船体の修理は、プラタナムが自分でやっている」

「何だって!?」

「知らなかったか? あの勇者遺産は、エネルギーさえ供給すれば、損傷も自動的に修復されるんだ」


 さも当たり前のようにいうジンである。ライヤーは目を丸くする。


「メンテ入らずとは聞いていたような気がするが……。修理も自前でできるのかい」


 へぇ……、とライヤーは感嘆する。さすがは勇者遺産と言われるだけはある古代文明の飛空艇である。


「じゃあ、おれの出番なかったかもな」


 独り言ちながら、ライヤーはジンと、プラタナム号の船内に入る。


『ご無沙汰しています、マスター・ジン。それにライヤー』


 天井から男の音声――プラタナム号の管理システムである『プラタナム』が声を掛けてきた。


「お邪魔するよ」

「よう、プラタナム。久しぶりだな。調子はどうだ?」

『いつもと変わりませんよ。ここではのんびり惰眠を貪っていますよ』


 惰眠――ライヤーは面食らう。


「お前さん、また少し人間に近づいたんじゃないか?」

『それは褒め言葉なんですかね?』


 プラタナムは皮肉げだった。


『船体の修復状態の確認でしたら、95パーセントほどの進捗です。船内でまだ損傷は残っていますが、外板の再生は終了。全力を出さないなら今すぐでも航行可能です』

「そりゃよかった」


 壊れていたら修理を手伝う気満々だったライヤーとしては、思いのほか直っていて喜ばしいと同時に少し寂しさも覚える。贅沢な心境ではあるが。


『――マスター・ジン、ライヤー。勇者ソウヤが呼んでいます。お戻りになられますよう』


 プラタナムが、外部からの呼び出しの件を伝える。ライヤーは眉間に皺を寄せる。


「ソウヤが呼んでるって?」

「例の魔王軍残党の件だろう」


 ジンは踵を返した。


「ドラゴンが魔族への報復を本格化する前に状況を抑えようという話だ」

「せっかく魔王を倒したのに、残党が悪さを企んでいたらたまんねえもんな」


 ライヤーも続く。せっかく取り戻した平和。皆が戦災から立ち直り、明日へと頑張っているものを邪魔されるのは面白くない。



  ・  ・  ・



「最終的には暗黒大陸へ行くことになると思う」


 ソウヤは告げた。


「ただ、あの魔族兵は、火山島に来るまでに幾つか訪れているようだから、寄り道しながらになる。……もしかしたら、立ち寄った場所にも残党のアジトなどがあるかもしれない」

「俺たちも手伝えばいいか?」


 魔獣使いのコレルが言う。その場には、ジン、ライヤーの他、フラッドやミストらドラゴンたちもいる。


 そこでソウヤは微妙な顔になった。


「いや、その辺りは自由参加かな。手伝ってくれるのは嬉しいけど、オレも正直、加減ができない状態だからな。あまり近づくと、巻き添えにしてしまうかもしれない」


 だからソウヤ個人としては飛空艇を使わず、現地にはドラゴン形態で直接向かう。誰かのサポートがないと、飛空艇のドアも開けられないから、乗っていくという選択肢は捨てている。


 しかし自由参加と言ったのは、魔王軍残党と聞いて、黙っているメンツではないのを、ソウヤは知っているからだ。


「どうせ暇しているんだ、手伝うよ。……いいな、フラッド」


 コレルが確認すると、リザードマンは首肯した。ライヤーは頬をかく。


「ここに来て、おれも当面やることなくなっちまったからな。付き合うぜ」


 そして視線は、ドラゴンたちへ向く。


「ワタシは行くわよ。当然」


 ミストも、我が子のように面倒を見ているフラムの件もあるから、すでに報復モードに入っている。

 一方で他のドラゴン代表者たちは様子見という待機状態。ただしソウヤやミストに何かあれば、即参戦するぐらいの心境だったりする。


「それじゃ、残党狩りの始まりだ」


 ソウヤが見回せば、一同は頷いた。



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