後日談33話、百人殺しの異名の真相


 パルラント王国は、国としてはさほど大きくない。国土としては山が多く、足腰が強くタフな人間が多いのが特徴だ。


 十年前、召喚された勇者ソウヤを中心とした、魔王を討伐するパーティーが編成された時、パルラント王国は、そのパーティー枠に自国から1名を派遣することになった。


 果たして、誰を送るのかとなった時、魔王軍、すなわち魔族と戦うのだから、国一番の剛の者を送ることになった。


 騎士や剣士、戦士といった者を集めて、最後まで勝ち残ったチャンピオン、すなわち国の勇者を選抜する大会を開かれた。


 メリンダ・カーライルは、当時、王都警備隊の一騎士だった。可もなく不可もなし。取り立てて強いわけではないが、冗談にも付き合える親しみやすさがあって人間関係は良好だった。


 そんな彼女も、参加資格があったため、候補者として参加した。もちろん、誰も彼女が優勝するなどとは思っていなかった。


 ヒラ騎士だったから、参加を辞退することもできた。しかし、メリンダは参加した。優勝は無理でも上位の成績を収めれば賞金が出たからだ。


 付き合っている彼氏との結婚資金にしよう、と、世界の命運をかけた戦いに参加する国の勇者を選抜する大会にしては、些か不純な動機ではあるが。


 勝負は百人同時の模擬戦。最後まで残った者が勝ちというものだ。初期配置に強敵がいないか運要素も多分にあったが、いざ戦場となれば相手は選べないし、お行儀のよい戦いなどはできない。だから乱戦上等の戦いを制する、タフさと強さ、そして運の良さを確かめるにちょうどよかった。


 結論から言ってしまえば、最後まで勝ち残ったのは、メリンダだった。

 女性騎士には珍しい大型盾持ちであり、敵を正面に捉えて攻撃を盾で凌ぎつつ、ロングソードを使ったカウンター戦術を得意とする。


 彼女は乱戦にあっても、常に一対一になるように巧みに動き、一度正対したなら、盾を構えて亀となり、敵の攻撃を凌ぐと、反撃で倒していった。


 人数が少なくなっていく中、彼女の戦いを見ていた者たちは、自然とその戦いぶりを注視していた。


 亀のように防御を構えた姿勢なのに、常に動いているのだ。しかも狙いを定めた相手を正面に捉えたが最後、盾を構え、身を縮めたまま突進するのだ。敵がメリンダの正面に向くと、彼女はピタリと前進をやめて、盾を構えたまま敵の周りをグルグルと回り出す。

 相手も回り込まれまいとその動きについていくと、渦に飲み込まれるが如く、いつの間にか距離が詰まっていて、武器を振っても力が出ない間合いに入り込まれた。


 相手が全力を出せない攻撃を盾でいなして、必殺のカウンター。メリンダはそれをひたすら繰り返して、参加者たちをひとりずつ脱落させていった。


 そして不思議なことに、人数が多い乱戦時、一見守りを固めていた彼女は、意外と周囲の参加者から見逃された。


 周りは敵だらけ、その中で自分に攻撃を仕掛けてくる相手は、最優先で潰す。そうでなければやられるからだ。だから守りを固めている、相手にすると時間がかかりそう、かつ自分を狙っていない相手は、自然と後回しになる心理が働いた。


 気づけば、メリンダは乱戦を潜り抜けて、最後まで残っていた。最後の相手も、正面から挑み、必勝パターンに引きずり込んで倒してしまった。


「メリンダ・カーライル。貴様を我がパルラント王国の代表とする!」

「へ?」


 優勝したメリンダは、まさか自分が最後の一人になっていたことに気づいていなかったので、審判長を務めていた王太子の言葉にも、間抜けな表情を浮かべた。


『百人殺しのメリンダ』


 その称号は、本当に百人を殺したわけではなく、百人の強者たちの頂点に立った、という意味ではあるが、周囲には過大な伝われ方をすることになる。小国であるパルラントとして、他国に軽んじられないために、代表者に箔をつけたかったのだ。


 結婚資金のための賞金目当てだったものが、気づけば王国の代表として、魔王討伐に参加することになった。

 婚約者とはしばしの別れ。魔王を倒して帰ってきたら結婚しようね――メリンダはそうして旅立った。



  ・  ・  ・



 苛烈な戦いの中、何人もの仲間が死んだり、勇者ソウヤのアイテムボックスに収容された。


 数人の補充があったが、戦いの中、とうとうメリンダも重傷を負って、アイテムボックスのお世話になることになる。


「――戦いの前に、フラグなんか建てるから……」


 ソウヤから凄い剣幕で言われた。薄れゆく意識の中、何故、彼がそんな怖い顔をするのかわからなかった。ただ故郷で、恋人と結婚するんだ、って話しただけなのに……。


 その後は、次に復活するまで一瞬だった。

 時間経過無視のアイテムボックスに入っている間、メリンダの時間も止まっていたからだ。


 しかし、外の世界では十年の月日が流れていて、婚約者がメリンダの妹と結婚して家庭を築いていることを知り、絶望することになる。


 それで十年前の戦いで戦死したことになっているのは好都合とばかりに、銀の翼商会のお世話になり、そこでレーラの警護役を自認し、守ってきた。

 そのレーラが、銀の翼商会に出るとなった時、当然のようにレーラも同行を志願し、今に至る。


 銀の救護団として活動するレーラや他のメンバーが、自主的に動いているのを尻目に、自分は何をやっているんだろう、とメリンダは悩んだが、そこをかつての仲間であるカマルから指摘された。

 そして突きつけられる、故国のことはいいのか、という言葉。



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不定期更新です。次巻製作中! お楽しみに。


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