後日談26話、十年前の聖女と仲間たち


 聖女レーラは、勇者ソウヤと共に魔王討伐のパーティーに加わった。


 物書きであるトド・アンダールは、勇者の足跡を追い、その過程で聖女についても取材を試みた。


 一般には、十年前の魔王討伐の際、聖女レーラも志半ばで倒れたとされていて、つい最近まで、その生存について知られていなかった。

 まさか、勇者ソウヤの立ち上げた銀の翼商会に同行していたと知ったのは、新たな魔王ドゥラークの襲来直後のことだった。


 聖女レーラとは、どのような人物で、十年前の戦いではどうだったのか、当時の勇者パーティーの面々に聞いてみた。



 ――聖騎士カーシュ。エンネア王国の聖騎士。

「聖女様が僕たちの旅に加わると聞いた時、それはとても光栄なことだった。魔王軍の脅威を前に、レーラ様が立たれたというのは、人類の未来のための、結束の象徴でもあった。けれど、同時にあの方の身の安全を危惧する声が聞かれた」



 ――騎士アンドルフ。エンネア王国子爵。

「世界に唯一かもしれない、神聖な力を持つお方だ。彼女の存在は、希少そのもので、もし失われた時の人類の喪失は、計り知れない。……だから我々も、彼女の警護には、気をつかった」



 ――槍術士ペルタ・ランドール。

「綺麗な娘だったよ。10代だって聞いていたけど、とても大人びていた。そりゃあもう、歩く姿だけで画になった。笑顔も素敵だった。癒しだね」



 ――軽戦士カマル。エンネア王国諜報員。

「しかし箱入り娘だった。グレースランド王国の王女でもあり、聖女の素養を認められてからは教会で育った。……正直に言って、迷惑していた者もいた。お姫様を危険な冒険に同行させるなんて……。少し考えればわかることだ。足手纏いだと」



 ――猛獣使いコレル。

「料理はできない、人がだいたい出来ることができない。……まあ着替えくらいは、一人でできたらしいけど。お世話の人間が必要なくらいで、最初は色々大変だったみたいだよ。――迷惑していた? いいや。オレの従魔たちと親しくしてくれたからな。オレは嫌いじゃなかったよ。始めはビビってたけど(笑)」



 ――フラッド。リザードマンの術士兼戦士。

「彼女は、その者の本質を見分ける力を持っていたでござる。某や、コレルの獣たちも本能的に危険ではないとわかっていたので、実に……偏見もなく、対等に接してくださった」



 ――騎士メリンダ。パルラント王国の女騎士。別名『百人殺しのメリンダ』

「回復や補助の魔法、主に癒しの力で皆を守ってくださった。正直に言って、居てくださるだけでよかったのよ! 他のことは全部些末な問題だったわ。……レーラ様の悪口を言う奴がいたら、私が叩きのめしたわよ」



 ――魔術師クレア。アンドルフ子爵夫人。

「最初はやっぱり、慣れない旅で苦労はしていたのね。でも、彼女が周囲の信頼を勝ち得るのに時間はかからなかったわ。能力もそうだし、旅を続けていく中で、彼女に助けられた者も多かった。私もそう。……最初は、箱入り娘がどこまで耐えられるか拝見していた連中も、彼女の笑顔と、常に凜として、周りを勇気づける姿に何も言えなくなっていったわ。……そもそも、彼女は弱音を吐かなかった」



 ――ロッシュヴァーグ。ドワーフの重戦士。

「大した娘じゃったよ。お姫様と聞いていたが、我慢強く、傲慢な人間にありがちな不平不満を口に出すこともなかった。常にニコニコしておったが……正直、あれは腹に一物を抱えておった。……こんなことがあった。レーラは、わしと酒の飲み比べをした。わしはドワーフじゃ。酒には強かったし、自信があった。しかし、結果は引き分けじゃった。大したもんじゃと思ったが、……後で知ったことじゃが、あやつ、ズルしておった」



 ――ダル。エルフの治癒術士。

「表面上は温厚で、平等。絵に描いたような聖女様でした。魔族や魔獣に怯えることもなく、全力で仲間を支えていた。……ただ、裏の顔というか、素の部分は、結構したたかでした。いつだったか、ドワーフのロッシュヴァーグと飲み比べをした時も、レーラ様は自分が飲む分のアルコール分を魔法で除去して飲んでいたんですよ。……何でバレたかって? 別の機会に、ソウヤさんに進められたお酒をカップ一杯飲んで潰れちゃったからです。まさか彼女がお酒に弱かったなんて、あの時まで誰も気づかなかった」

(ダル、ここで一息つく)

「色々ありましたが、仲間たちはレーラ様を受け入れた。それでも聖女としての扱いは崩さなかった。ただ一人の例外を除いて」


 誰あろう、異世界から召喚された勇者ソウヤである。彼は、レーラを聖女と知りつつも思ったことは口に出して指摘したらしい。


「ソウヤさんから見て、レーラ様は無理をしていると思っていたようです。周りが警護の延長で、聖女様をお守りしていたのですが、ソウヤさんだけは、もう一歩踏み込んだところで気遣っていました。……僕らが聖女様に対して指摘するのは失礼なんじゃないかって遠慮していることも、ズバリ言ってしまうという感じですね。ただ――それは正解だった。ソウヤさんと接する機会が増えるたびに、段々レーラ様の笑顔が優しくなっていくのが、僕らにもわかりましたから」



 勇者ソウヤとの旅は、周囲から敬われる聖女の心にも何かしら影響をもたらしたようだった。


 ともあれレーラは、仲間たちから信頼を得て、勇者パーティーの一員として、魔王軍と戦ったのは間違いない。

 しかし、旅の途中、彼女は呪いによって戦線離脱を余儀なくされた。その後、勇者ソウヤの死――十年前のそれは偽装だったが、それと共にレーラや勇者パーティーの何人かが死亡扱いとなった。


 それから十年後、勇者の帰還と共に死亡とされていた仲間たちも帰ってきた。そして魔王軍の戦いの後、彼らはそれぞれの道を歩み出したのである。


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