後日談18:イーデンの海と沈没船と親睦会?
「あらまあ、懐かしいものが出てきたわ」
ミストがフラムに人間社会のお話をしながら荷物を漁っていると、そんなことを言った。
「何だ?」
「なあに?」
あぐらをかくソウヤ。その膝の上には幼女姿のフラム。ファイアードレイク種の幼子は、すでに人化を覚え、言葉も多少は話すことができるようになった。フォルスの時もそうだったが、子供の成長は早い。
「これよ、これ!」
ミストが取り出したのは……下着――ではなく女性用水着。黒のビキニである。異世界でありながら、ソウヤが元いた世界の現代風水着。……元を辿っていくと、かの異世界を渡り歩く王様が関わっているのだが。
「覚えてる、ソウヤ? これ」
「イーデンの町で買ったやつな」
あれは確か、エンネア王国の魔法大会で、セイジが優勝して、銀の翼商会に新人が多く入った直後だった。
バロールの町のタルボットの醤油蔵で、醤油を買い付けている頃、マーク・タルボットは言った。
『ソウヤさん、
聞けば、バロールの町の北にある海に面したイーデン町で、沈没船ツアーをやっているらしい。それで、水中で呼吸ができる水吸飴という魔法の飴が売られているという。
『ソウヤさんのところで、水吸飴って扱ってます?」
初耳だったので、ソウヤはもちろんないと答えた。実家の方で、その飴について関心があるらしく、もし銀の翼商会で扱っていたら、と思ったらしい。
『船乗りも水の中で呼吸できる飴があるなら、って興味ある人もいるらしいですよ』
そうまで言われれば、ちょっとイーデンの町とやらに行って、水吸飴とやらを見てこようとソウヤは思い、銀の翼商会で向かったのだ。。
ミストが持っている水着も、そのイーデンの町に行った時に買ったものである。
「どう?」
「わっ、いつの間に――!」
ミストが水着に着替えていた。豊かな胸に、白い肌。黒の水着とのコントラストが映える。黒い衣装を好む彼女は、あれで中々肉感的なスタイルをしている。
フラムは『わー』と手をパシパシ叩いた。子供にはちょっと早いと思う。
「おとーたん、フラムもあれいい」
子供というのは周囲のものに何でも興味を持つものだ。何がいいのかわかってないが、とりあえずいいのだろう。
「フラムは、あれがいいのか?」
「いい!」
ペンと彼女の小さな手が、ソウヤの顎に当たる。ミストは手を叩いた。
「じゃあ、行ってみましょうか、イーデンの町に」
「行けるわけないだろ!」
ソウヤは突っ込んだ。現在、力をコントロールトレーニング中なのだ。腕には超重量リストバンドをつけていて、膝上のフラムにも気をつけて触れている始末。――以前、ぶん回した腕がフラムに直撃し吹っ飛ばしてしまったことがあったから、より用心しているのである。……ドラゴンの子でなければ死んでいたかもしれない。
「それに、オレは世間じゃ死んだことになっているんだぞ? イーデンなんて、行ったことのある場所へ行ったら、大騒ぎになるぞ」
「やあね、別に人のいる場所にいかなくてもいいじゃない。海岸行ってひと泳ぎよ。フラムにもいい経験になるわ!」
変われば変わるものだと、ソウヤは思う。最初にミストに泳いだことがあるのかと聞いたら、バカにするなと言われた。自分は魚じゃないから、云々。
そんな彼女が『ひと泳ぎ』なんて言葉にするとは意外である。
「……そうは言ってもファイアードレイク種だぞ、フラムは。そもそも泳げるのか?」
「およぐぅ……?」
――ほら、わかんない、って顔をしているぞ、フラムは!
「まあまあ、浜辺で遊ぶだけでもいいわ。そもそも、フラムは水着が着たいのよねぇ?」
「ミズギ、きたい!」
――絶対わかってないぞ、この子。
「いいから! たまには、違う場所を見せるのも教育っていうものよ。はい、決まりー!」
自分が遊びたいだけではないか、とソウヤは思ったが、言わなかった。ミストの水着姿にムラムラときた。明らかにミスト側が誘っているのは、彼女の目を見ればわかる。ここで下手に逃げようとすると、フラムを巻き込んで、もっと教育上よくない状況になりかねないので、波風立てず、健全に済ますことにした。
・ ・ ・
そして、ソウヤたちは、イーデンの町、そこからやや北にはずれた砂浜にいた。
「海だーぁっ!」
「バカ! アクアドラゴン! そのまま突っ込むな!」
青い巨竜が浜辺から海にダイブすれば、それは波も立つというものだ。人工の波から守るべく、フラムを持ち上げる。
彼女は赤のキッズ水着。スカート状のヒラヒラがついて露出は控えめ。お腹を出すのはまだ早い。
「アクアドラゴン! 向こうには人も大勢いるんだから、目立つような真似すんな!」
ソウヤが抗議すると、アクアドラゴンは『えぇー』と不満の声をあげつつ、青髪ツインテール少女姿に化けた。
やれやれ、と灰色髪美女姿のクラウドドラゴンが、ミストと一緒に波間に近づく。はちきれそうなダイナマイトボディに、白ビキニ。
イーデンの町での水着選びでもそうだったのだが、ドラゴンはかなり露出強めを好む。そもそもドラゴンは服など着ないから、布を纏うということを窮屈に感じる傾向にある。
水着いるの?――なんて真顔で言うドラゴンには、種族ギャップを感じたものだ。
ちなみに彼女らの水着は、ジンの保有する通称、クレイマンコレクションだったりする。買ったのはイーデンの町だが、現代風水着の出所は、天空人遺産――つまり、クレイマンの遺跡から発掘されたものをベースに作られていた。だから、クレイマンコレクションとも言われている。おかげで水着はやたら発展しているわけだ。
なおそのクレイマンであるジンは、アースドラゴンと浜辺で日向ぼっこしている。
「おとーたん」
ピタピタと、フラムがソウヤの頬に触れた。下ろしてほしいらしい。ソウヤは抱えていたフラムを下ろすと、彼女は緩やかに押し寄せる波に近づき、そして逃げた。
キャッキャと歓声を上げて、引いては押し寄せる波を追いかけたり逃げたりを繰り返す。
――子供ってこういうの好きだよなぁ。
ソウヤは、波間で遊ぶ幼女ドラゴンを見守る。彼女は炎属性ドラゴンだから、万が一波に巻きこまれたら、どうなるのか想像がつかない。大したことないかもしれないし、大事になるかもしれないので、監督は必要だった。
――そういえば、皆元気にやってるかな……。
ソウヤの思考は、かつて仲間たちと訪れた時まで遡った。
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次回、不定期更新。
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