後日談15話:進展する関係?


 腕白娘、フラムは見るもの全てが珍しいのか、元気だった。

 ソウヤとミストが中心になり、生まれたばかりのファイアードレイクの赤ん坊の面倒を見た。


「フォルスも構ってちゃんだったけど、フラムも大概だな」


 影竜親子の子供の面倒も多少は見たソウヤだが、銀の翼商会にいた時は、手の空いている時だけでよかった。


 だが今回は、ほぼフルで見守る必要があった。ミストが半分引き受けてくれていたが、すっかり親役である。


 ――おかしいな。これ俺の子じゃないんだけど……。


 しかし、生活のメインが子供となると、影竜はフォルスとヴィテスの面倒をしっかり見ていたのだと実感する。


「ワタシたちの子供ができたら、こうなるのかしら?」


 ミストがフラムを甘やかしていたが、ソウヤは耳を疑った。


「私たちって言った?」

「ええ、言ったわよ。ワタシとアナタの子供」

「……!」


 これには仰天するソウヤである。


 ――いや、確かに彼女は以前から好意的ではあるが。


 相手はドラゴンだぞ、というのは、人間だった頃の言い訳だ。異なる種族同士、恋人になれても、それ以上の関係には物理的な障害が立ちはだかる。性格などを言えば、確かに彼女と呼んでも差し支えない程度には親密ではある。


 ――認める。ドラゴン化してから、日に日に異性として気になってきているのは。


 だが、そもそも、ドラゴンは結婚しないのではないか?


「詳しい話を聞いてもいいか?」

「ええ、いいわよ」


 ミストの元からフラムがこちらにやってきたので、ドラゴン化して高い高いしてやる。


「普通ドラゴンというのは、時がきたら卵を産むものなの。影竜もそうだし、時がくればワタシもだぶんそう。まだその時はきていないけれど」

「他の種族でいう性交渉はないんだっけ?」

「そう、普通はね。ただ、例外はあるらしいのよ――」


 ミストはそこで難しい顔をした。


「何でもドラゴンの中には、オス因子とメス因子というものがあって、卵を産む時というのはメス因子が強くなるものなのよ。基本、男性ドラゴンも、メス因子が増えて卵を作るんだけど」


 ――それって、オレも、その時がきたら、勝手に卵ができるってこと?


 あれかな、女性ホルモンが増えて、体が女性に近くなるアレ。男性ホルモンで、女性も男性に近くなるというものと似たようなものだと、ソウヤは解釈した。


「ただ、オス因子が強すぎて、卵ができないドラゴンもいるのよ」

「へぇ……」


 卵ができなければ、その属性やら能力を持った後継となるドラゴンはできないということになる。


「これはワタシも聞いた話なんだけど、そういう場合は、他のドラゴンに協力してもらって卵を産んでもらうんですって」


 そこでミストが、ソウヤを見た。それは、他の多くの生き物同様、交尾ないし生殖活動をするというか。


「お爺ちゃんに聞いたら、ソウヤの場合は、ほぼオス因子で固定だから、卵を自分では作れないんですって」


 ジンが、診断したところによれば、ソウヤは自分を『男』であると認識しているから、外部から変えていかないと十中八九無理なのだという。それはとても困難なことで、面倒くさいのでもう諦めたほうがいいレベルらしい。


「で、そういう卵が作れないドラゴンは、他のドラゴンに協力してもらうわけだけど……」


 すー、とミストの目が泳いだ。


「幸いというべきか、そういう異性との交渉については、ワタシは銀の翼商会にいた時に学習する機会を得た。つまり……ワタシは、アナタのパートナーとしてあげてもいいよって話」


 何故か、そこで赤くなるミストである。ツンと横顔を向けているものの、異性として意識しているのだろう。ソウヤの方でも赤面である。


「本当、アナタは運がいいわ。ドラゴンは縄張り意識が強いから、他ドラゴンとそうした交渉自体難しいのだから。話のわかるいい女がいてよかったわね、ソウヤ」

「そ、そうだな……」


 では、いずれその時に――ソウヤは頷いた。


 聞けば、自力で卵を作れないドラゴンが、他ドラゴンと交渉をする例は、多くはないが少なくもないらしい。


 複数属性を持つドラゴンがいるのも、そのドラゴン同士の接触の結果だという。一般的なドラゴンも、先祖のどこかで別ドラゴンの血が混じったりすることは、割とある話らしい。


「ちなみにソウヤ、あなた、自分の属性について覚えてる?」

「爺さんの診断によると、大地属性と聖属性が強いんだと」

「ワタシは水と風なのよねぇ。……こういう場合、どっちの親の属性が強くなるのかしらね」


 うーんと考え混むミストである。その辺りは、さすがのジンもデータ不足でわからないと言ったらしい。


 とか言っていたら、フラムがソウヤの首にしがみつき、そして落ちそうになる。――お、苦しい。


 ドラゴン姿のソウヤは頭を下げて、子供ドラゴンを床に下ろす。落ちても怪我しないのは、ドラゴンフィジカルだが、まだ赤ん坊の年齢と考えると、つい人間の感覚で心配になるのだ。


「早く、下りなさい」


 足をバタバタさせて足掻くフラム。手がしっかりソウヤの首に回されて離れない。――しょうがないな。


 首を振ってブランコもどき。ファイアードレイクの赤ん坊が、キャッキャッとはしゃいだ。まだ喋れないのであるこの子は。


「おーい、ソウヤ」


 そこへ、仙人――アースドラゴンがやってきた。


「これから、一族への挨拶まわりにゆくぞ。支度をするのだ」

「へ?」


 挨拶まわりとは?――ソウヤは面食らうのである。


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次回、不定期更新。

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