第609話、戦勝の流れ
人類連合、魔王軍ジーガル島を攻略!
その報は、大陸中を駆け抜けることになった。
ジーガル島攻略作戦を終えて帰還した各国の連合艦隊は、一度それぞれの国に戻った。勝利の報告は、各国それぞれが大々的に発表したことで、ソウヤたち銀の翼商会も、各国からの戦勝会やら式典に引っ張りだことなる。
「……」
「そんな憂鬱そうな顔をしても駄目ですよ」
レーラが、ソウヤをなだめるのである。
「勇者ソウヤの復活――あなたは一度亡くなったことになっていたのですから」
「おかげで、色んなところから何かしらの招待が来ているよ」
ソウヤは、あからさまな溜息をつくのだった。
エンネア王国で、銀の翼商会として活動する際、勇者と同じ名前の別人で売り込んでいたソウヤである。
今回のジーガル島攻略は、その勝利を喧伝し、人類側に魔王軍の脅威を知らせ、対抗するための団結を促すものとして重要だった。
だから、ソウヤは本物の勇者として、今後活動しなくてはならなかった。もう別人です、は通用しないのだ。
「エイブルの町に、バッサンの町、ルガドークもか……? まあ、色々」
うわぁ――ソウヤは頭を抱えるのである。行けば、ジーガル島攻略の顛末も聞かれるに違いない。
艦隊の総大将として戦いました、大勝です、なんて。自慢しているようで、ソウヤの性に合わなかった。
「今回のことで、大陸の中小国も、人類連合に参加を表明しているとか」
レーラがお茶を淹れてくれる。ソウヤは一息入れる。
「耳が早いな」
「最近は、通信機のおかげで、国からも知らせが入るようになったんですよ」
――グレースランド王かな……。
ソウヤは凝りをほぐすように首を回す。
「ジーガル島の攻略で、魔王軍って存在が広く知られたってことだからな。十年経って魔王軍が再び動き出したって」
危機感。前大戦の記憶が、人々を動かしたのだろう。それも、すでに戦争は始まっているって。
今回の攻略作戦に参加した国には、無償でトルドア船を2隻プレゼントすることになっている。
すでにリッチー島へ戻ったジンが、それらの船を用意し、それぞれの国に届ける準備を進めている。
レーラが向かいの席に座った。
「参加表明した国からも、飛空艇の購入希望が来ているそうですね」
「ああ、殺到している」
国だけでなく、個人のお金持ちからも、銀の翼商会に小型の飛空艇でも、という問い合わせがきていた。
「オレらが古代文明の飛空艇墓場を見つけたってさ」
「墓場……ですか?」
小首を傾げるレーラ。
「うん、墓場。現代の飛空艇がほとんど発掘品だからな。そんな大量の飛空艇が眠っている場所なんで、誰が呼んだか、墓場なんだってさ」
勇者ソウヤの知名度が復活すると同時に、銀の翼商会もそれに引っ張られる格好で有名になった。
行ったことのない国々にも知られた結果、貴重な飛空艇を買える商会として、問い合わせが集中している。
唯一無二の品を扱う商会が有名になれば、何もしなくてもお客のほうからやってくるのだった。
「またまた儲かってしまうなぁ」
ソウヤは目を細めるのである。商会メンバーの給料は若干アップ。だがボーナスという形でドカンとお支払いする。
このあたり、きちんとしておかないと、毎月の給料がこんなにある、と勘違いされて、元に戻った時に不満を抱かれてしまう。人間は損得にうるさいのだ。
「そんなわけで、各国は魔王軍対策のために軍備を整えたりするんだが、オレたち銀の翼商会は、飛空艇や通信機などの注文に対応しないといけない」
ぶっちゃけ忙しい。一戦終わって、次までのんびり休養とはいかなかった。
「商会を名乗っている以上は、ここが稼ぎどころではある」
「商会としてはよいことですよね」
レーラはニコニコしている。
「でも、ソウヤさんは、あまり嬉しそうではない。何か気掛かりでも?」
「気掛かり? そりゃね」
飛空艇などの商品の『仕入れ』については、ジンとリッチー島の遺産のおかげで全然問題はない。
クレイマン王の遺産――というか、あの王様は、保存品を引っ張り出しているだけでなく、その豊富な資財を用いて、新しく生産しているのではないか、とソウヤは疑っている。
「商会としてはいいんだけど、勇者としてはね……。魔王軍、そして魔王の動きが気になる」
ジーガル島の大軍港を落としたくらいで、人類への報復を諦めるほど柔な魔王軍ではない。まだ見ぬ戦力を以て、魔王軍は侵略の準備を進めている。
魔族同士の内乱を収めたら、次は人類なのだ。
・ ・ ・
暗黒大陸上空。天空城の玉座に腰掛ける魔王ドゥラークは、部下であるブルハから報告を受けた。
「ジーガル島がやられたか」
「はっ。すでにウェルド大陸では、人間どもは連合を組み、有力な飛空艇艦隊を整備しております」
忌々しいことに、ジーガル島を攻め落としたことを声高に叫び、人間たちは士気を上げている。
「大陸侵攻軍はどうした?」
「恐れながら。壊滅したものと思われます。現在、現地に偵察員を派遣し、確認中です」
「そうか……」
ドゥラークは、それ以上は言わなかった。
魔族統一を果たしている間に、人間たちは先手を打ってきたのだ。後手に回っている上に、現状、ドゥラークが指示しなければ報復もできないことに、ブルハは内心悔しさを感じていた。
「よい。いずれ雌雄を決するだけのこと。今は、それでよい」
ドゥラークは、やはり現時点での反撃を命じなかった。
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