第607話、未確認魔獣との交戦


 上陸部隊の本営に、未確認魔獣の件を通報した。


 それらがジーガル島軍港敷地内に侵入し、大暴れしているので、ソウヤたち銀の翼商会の戦闘要員は、迎撃に向かった。


「あれか……!」


 ソウヤは走りながら、アイテムボックスから斬鉄を出した。


 瓦礫の山を、器用に跳躍して迫る黒い豹のような姿な魔獣。しかし、角が一本あって、そこそこ大柄。尻尾が長く、豹のように見えて豹ではない。


 それらがソウヤたちへ、真っ直ぐ突っ込んできた。その足は速い。


「うおおおおっ!」


 飛び込んできたところを、脳天から一撃で叩き割る。勇者のパワーの前に、一刀両断である。


 ミストも竜爪槍を突き入れ――地面を砕いた。


「避けた!?」


 機敏に飛び跳ね、回避する黒い魔獣ドラグゥ。


「やるじゃない! でも――!」


 ミストが瞬時にターンして、魔獣に追従。瞬きの間に槍で貫いた。


 仲間たちも、魔獣に挑む。クラウドドラゴンは、腕に風をまとわせ振るうことで、ドラグゥを2頭まとめて切断。


 その弟子であるティスも、風を足にまとわせる加速魔法で黒き獣の動きについていくと、鋼鉄の拳を叩き入れて、その頭蓋を砕いた。


 ガルとセイジも、高速で動くドラグゥの切り裂きや噛みつきを躱すと、カウンターで刃物を急所に突き入れて仕留める。


「どんどん来るわよ!」


 ミストが警告する。次々やってくる黒き魔獣。先頭にいた数頭が止まると、額の角が発光し――


「気をつけろ!」


 光弾が飛んできた。ソウヤは咄嗟に回避。ガルやティスもそれを避けた。


「セイジ!?」

「大丈夫、剣で弾きました」


 間一髪、飛来した光を手にした剣で阻止したようだ。危ないところだった。


「よくも!」


 これには、ソフィアが怒った。


「サンダーレイン!」


 雷属性の魔法が、魔獣を次々と撃ち抜き、倒していく。回避する場所がなかった。


 だが――


「危ない!」


 ソフィアにドラグゥの放った光弾が迫った。直撃コース――しかし割り込んだのはティス。腕を盾のように立てて、光弾を受ける。


「ティス!?」

「大丈夫ですか、ソフィア姉様!」

「私は平気だけど、あなたは!?」

「魔法で岩ガードしましたから、大丈夫です……!」


 その間に、ソウヤやミスト、ガルが前進し、ドラグゥを次々に倒していく。


「こっちへの第一波はこんなものか?」


 ソウヤは辺りを見回す。ミストは魔力を飛ばして周りを探る。


「障害物は多いけど、動くものはないみたい」

「よし、このまま前進。結構な数が入り込んだようだから、始末していくぞ!」


 残敵掃討にかかる。


 セイジは、ソフィアとティスに駆け寄った。


「ふたりとも、大丈夫?」

「私は平気」


 ソフィアが言えば、ティスもコクリと頷いた。


「撃ってくるのは厄介ね……」

「油断大敵」


 ティスの言葉に、ソフィアは自身の赤毛を払った。


「油断したつもりはないけど、あなたも気をつけてね。怪我は駄目よ。あんたもね、セイジ!」

「わ、わかってるよ!」


 銀の翼商会グループは前進を再開する。走りながら、ソウヤは顔をしかめた。


「魔獣は撃退できたが、なかなか手強そうだ」

「これだと、上陸した他の部隊はまずいかも」


 ミストが同意した。


「ワタシたちには楽勝だけど、他はここまで強くないから」

「ドラゴンさんと比べたら、そうなるだろうよ」


 ソウヤは右耳の通信機に触れた。


「プラタナム、上から見た様子を報告してくれ」

『了解。敵魔獣は、レッドグループを半壊状態にし、近接するイエロー、ブルーグループの担当地区に侵入。各グループと交戦していますが、状況は一進一退。増援の必要ありと認めます』


 ――やっぱり、苦戦は免れないか……。


 素早い上に、高い地形突破能力を持つ。さらに角から光弾とか、手強くないわけがない。


『さらに報告。敵の一部が本営方面に接近。救護所付近に達すれば、こちらの死傷者が増大します』

「それはやばい!」


 プラタナムは淡々と言ったが、あそこには怪我人だらけだ。治癒魔法などで手当は受けても、出血の結果、まだ動けない者も少なくないだろう。


 そんなところに、あの魔獣が数頭でも飛び込んだら、あっという間に犠牲者の山が出来上がる。


 あそこにはレーラが治療をしているほか、リアハやシルバーグループのグレースランド王国騎士団、メリンダやフラッドといった元勇者組もいるが……。


 果たして、守りきれるか?



  ・  ・  ・



「各員、配置につけ! 魔獣が迫っている!」


 リアハは声を張り上げた。今回のジーガル島攻略部隊においては、彼女は王からの要請もあり、グレースランド王国派遣の騎士団を率いている。


 騎士姫にとっては、久しぶりの部下たちがいたわけだが、前線に出られず後方待機には思うところもあった。


 魔族への怒りを隠せないリアハである。しかし、魔王軍への怒りに関しては、グレースランドの騎士たちもまた同じであり、彼らの気持ちがわかればこそ、リアハは与えられた任務を忠実にこなしていた。


 だが、ここにきて、新たな魔獣が迫っているという。


「負傷者たちを守る! 魔族と戦った戦士たちを死なせるな! グレースランド王国騎士団の力、見せてやれ!」

「おおおっ!!」


 騎士たちの戦意も旺盛である。敬愛する母国の騎士姫の前である。さらに聖女もいる場となれば、自分たちの命など、いくらでも投げ捨てられるくらいの精神状態だった。


「来た!」


 瓦礫の道を通って、黒き魔獣が現れた。

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