第596話、人類連合艦隊、出撃す


 魔王軍のジーガル島攻略作戦に向けて、ソウヤはにわかに忙しくなった。


 ジンとクラウドドラゴンを交えて、島の造船施設ならびに拠点をどう攻撃するか詳細を詰め、さらに参加五カ国の艦隊指揮官――グループリーダーたちと、戦力の確認と問題の洗い出しの打ち合わせをした。


「占領しないのですか?」


 レプブリカ国艦隊司令官ディエゴ提督は、八の字髭を撫でた。


「魔王軍の大規模拠点。手に入れられれば、さぞ得られるモノも多いでしょう」

「確かに。戦利品の回収は大いに推奨しますよ」


 ジンは鷹揚に答えた。


「しかし、ジーガル島は、我らの大陸から離れている。占領しても、維持するのが難しい。敵が奪回に大艦隊を来れば、守りきれるものでもない」


 その発言を受けて、ニーウ帝国のグニェーヴ将軍が、厳めしい顔で頷いた。


「魔王軍は完膚なきまで叩くべし。下手に占領などすれば、攻撃が中途半端になろう」

「確かに。占領できるなら、敵の造船所を無傷で手に入れられたら……なんて欲が出そうだ」


 エンネア王国空中艦隊司令官、ハングマン提督は自身の髪を撫でつけた。


「下手に欲を出すべきではない。たとえ造船ドックで完成間近な敵船があったとしても、鹵獲など考えずに破壊するくらいでないと」

「然り!」


 グニェーヴ将軍は同意した。長身かつ丸太のように逞しい体躯の男である。絶えず表情が険しく、魔王軍に対して敵意を隠さなかった。


 人類連合合同艦隊は、徹底的に造船施設を破壊して、敵が再度使用を諦めるほど徹底的にするということで、意見の一致を見た。


 ソウヤは相好を崩した。


「よかった。正直、こっちの攻撃で、選別している余裕がないだろうと思っていたから」

「と、言いますと?」


 ひょろりとした髭男、クイント王国のポルソ将軍が首を捻った。ソウヤは答える。


「うちの銀の翼商会には、ドラゴンの加護があるんですよ。もし奇襲が叶うなら、その力でジーガル島を嵐にしてやろうと思っていましてね……」


 クラウドドラゴンと話した作戦案を、ソウヤは、将軍たちに披露した。


 ジーガル島全体を大雨を風の吹きすさぶ嵐の状態にする。そうすることで、敵飛空艇の飛行を難しくし、外での活動を制限させる。


「その間に、オレたちの艦隊が島へ接近。嵐を解除したところで、今度はオレたちが電撃砲の嵐を地上に叩き込んでやるという寸法です」

「面白い!」


 グニェーヴ将軍がゴツイ表情をニヤリとさせた。


「それならば一方的に魔族どもを踏み潰せますな!」

「そのプランがその通りに進めば、こちらの被害はほぼ皆無になるな……」


 ハングマン提督は顎に手を当てて考えこむ。敵が反撃できず、こちらが攻撃し放題となれば損害は出ない――それを聞いて、ポルソ提督はホッとするような顔になった。ソウヤはその反応を見逃さない。


 ――クイント王国から、あまり被害を出さないようにやれと言われてるな、これ。


 作戦に参加すれば、トルドア船が追加で2隻無償で手に入る。飛空艇は欲しいが、今ある船を極力減らしたくない、というお国の意向だろう。


 ――まあ、ジーガル島の戦いは始まりだからな。


 魔王軍との戦いはそこからが本番である。先は長いかもしれないのだ。初戦で大きな損害を受けるわけにはいかない。


 ソウヤは将軍たちを見回した。


「奇襲で行ければ問題ないですが、やはり敵が迎撃してきた時のことも考えないといけないですね」


 道中、こちらの襲撃を察知し、待ち伏せや迎撃の態勢を整えていた場合、敵の戦力にもよるが、それと戦うのか、引き返すのか……。


「断固、戦うべし!」


 グニェーヴ将軍は強硬に交戦を主張した。敵も飛空艇を出してくるならば、正面から撃ち倒すのみ。あまりに前のめりな態度に、ポルソ将軍やディエゴ提督は若干引いていた。ハングマン提督は動じず、じっと耳を傾けている。


 ――グニェーヴ将軍、ひょっとして魔族に身内を殺された系か……?


 それぞれの将軍や提督たちのプライベートは知らないが、ここまで殺意高いグニェーヴ将軍の言動を見ていると、その手の感情が見え隠れする。


 ――これ、敵と戦っている時、ニーウ帝国艦隊の動きに注意が必要かな……。


 ソウヤはそう判断した。大まかな作戦指示は、ソウヤが出すが、個々の戦闘はグループごとに任されている。状況によっては、レッドグループの独自行動も予想できた。


 ともあれ、その後も話し合いは続いた。敵が少数ならば、1、2グループがそれらの相手をしつつ、残りのグループがジーガル島を攻撃に向かい、多数だった場合は島への到達を諦めて、魔王軍艦隊を撃滅する――という方向で流れが決まった。……あからさまにこちらの船の数倍もの大兵力と遭遇した場合などは、撤退もあり得る。


 かくて、指揮官級会議を何度か行い、細部を詰めた頃、参加する全飛空艇が集結を終えた。


 いよいよジーガル島攻略作戦の発動となった。各艦艇に、銀の翼商会が用意した無線が配布され、その扱い方を練習しながら、人類連合軍飛空艇艦隊は出撃した。


 総勢56隻の飛空艇艦隊が、西の海を目指して進撃した。



  ・  ・  ・



「そんなわけで、俺たちは先行する」


 ソウヤは、プラタナム号に乗り込み、そう宣言した。


 人類連合艦隊は、ゴールドグループを先頭に、右舷後方にブルーグループ(エンネア王国軍)、左舷後方をレッドグループ(ニーウ帝国軍)。後方をシルバーグループ(グレースランド王国&銀の翼商会+リッチー島傭兵同盟)、その右舷に、グリーングループ(クイント王国軍)、左舷にイエローグループ(レプブリカ国軍)という配置で進んでいた。


 ソウヤたちゴールドグループは、銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟の戦闘艦艇で構成されていたが、ソウヤが選んだのは、プラタナム号とサフィロ号による少数先行だった。


「その理由を聞いてもいいかしら?」


 ミストが質問したので、ソウヤは答えた。


「この船とサフィロ号が、他よりもぶっちぎりに速いからさ」


 艦隊より先行することで、敵の待ち伏せなどを早期に発見できる。いわゆる偵察機の役割だ。


「それに、ジーガル島の魔王軍には大人しくしていて欲しいからね。オレたちで先に近くまで行って、嵐を起こしておくのさ」


 ソウヤが頷けば、クラウドドラゴンも頷き返した。


 将軍たちとの作戦会議では、ドラゴンの加護と言ったが、実のところ、大嵐はクラウドドラゴンに起こしてもらう。もちろん、これは彼女も了承済みだ。


「いかに被害少なく、勝つか。それを実践する。――プラタナム。全速前進」

『了解』


 勇者遺産である超高速飛空艇『プラタナム』は風の如く、加速した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る