第529話、お別れかもしれない


 ゴールデンウィング二世号と飛空艇船団は、エンネア王国、王都に到着した。


 ソウヤは王城を訪れ、アルガンテ王と面談。10隻のトルドア船を披露した。


「素晴らしい。よくこんなに船を手に入れたものだ!」

「東の果てに、飛空艇の遺跡を掘り当てた者たちがいまして、彼らから購入しました」


 ソウヤは肩をすくめる。


「うちはその仲介ですね。まあ、いつもの行商です」

「さすがは銀の翼商会! 本当に飛空艇を行商の商品にしおった!」


 アルガンテ王は大きな声で笑った。


「この10隻は、対魔王軍戦に大いに活用させてもらう」


 トルドア船は戦闘能力も高く、現状のエンネア王国の飛空艇の主力を張れるだけの性能を持つ。それが10隻も加わった今、エンネア王国は飛空艇を集団運用する本格的な空軍が編成できるだろう。


「数は倍増したが、あくまで数字上では、だ」


 アルガンテ王は表情を引き締めた。


「乗組員の練成が必要だ。いくら船があっても、それを操る人材がいなくては意味がない」

「人員は集まりそうですか?」

「元々、飛空艇を動かした経験者が少ないからな」


 王は小首を傾げる。


「一度退役した連中を教官として呼ぶことはできようが、若手の育成もせねばなるまい」

「今回、船を輸送する際に雇った連中がいるのですが、指導のお手伝いはできますよ」


 ソウヤは、ジンとそう話を済ませている。船を売っても今度は人材が必要になると予想がついていたからだ。


「ありがたい。しかし、そうなると、その者たちを雇えないものだろうか?」


 アルガンテ王はそう相談した。いわゆる軍に編入するということだが。


「いいんですか? エンネアの人間じゃありませんよ?」

「そうだな。より言えば傭兵として、船数隻分のクルーを雇ってしまう形となるのか。指揮官は我が軍、クルーは傭兵ということで」


 そうすれば戦力化は早くなる、とアルガンテ王は言った。彼としては、魔王軍の造船施設の場所が分かっているので、早めに叩いておきたいと考えているのだろう。


「うちの人材顧問に相談してみます」


 困った時の相談役であるジンに確認である。もとを辿れば、機械人形は、ジン・クレイマンの所有物だから、一言相談しないと筋が通らないだろう。


「すまんな、ソウヤ。苦労をかける」

「いえいえ。仕事ですから」


 元勇者である。魔王軍の侵攻が迫っている中、ソウヤは自分にできる範囲でやっていこうと思っている。


「人材の話が出たので、ひとつ聞いてくれんか、ソウヤ」

「何でしょうか?」

「実はな――」



  ・  ・  ・



 ゴールデンウィング二世号、そのアイテムボックス領域。


 食堂には、サフィロ号から届いた大量のカボチャを使った料理がところ狭しと並べられていた。


 定番のカボチャのスープ、グラタン、オーブン焼き、マリネなどなど――


「うん、いいカボチャだわ」


 ソフィアは、カボチャのスープを一口飲んで、そうコメントした。


「どう、セイジ?」

「美味しいよ」


 向かいに座るセイジは、しかし眉をひそめる。


「どうしたのよ。美味しくなかった?」

「美味しいって言った。でも……」

「でも、なに?」

「個性がないなあって思って」

「あなたの?」

「酷い!」


 ソフィアの一言にセイジはショックを受ける。


「ごめんごめん、冗談よ。セイジは、この見た目でめちゃくちゃ強いのは知っているわ」

「この見た目、って失礼じゃない? 僕は僕なりに頑張ってる」


 セイジはむくれたが、それも一瞬だった。


「めちゃくちゃ強いっていうのは、抵抗があるけど。……ここは強い人いっぱいいるから」

「それ禁止。あなたに負けた私まで弱いってなっちゃうから! あなたは強いでいいの」

「ソフィア姉さんの言う通り、セイジは強い」


 ティスがセイジの隣の席で、焼けたカボチャをかじる。


「卑下するな」

「……本当のことを言っただけなんだけどな」


 セイジはスープをもう一口。ソフィアの隣にいるリアハは苦笑している。


「それで、個性がないとは?」

「うん、このカボチャ。美味しいは美味しいんだけど、何か物足りないというか、薄いって言うか」


 うーん、とセイジが唸る。ソフィアはマリネに手を伸ばす。


「味付けの問題?」

「いや、カボチャそのものの味だと思う」


 セイジたちは、ただサフィロ号からカボチャが届いたという話しか聞いていない。つまり、カボチャ製造機から作られた人工カボチャであることを知らない。


「おお、今日はカボチャが豪勢だな」


 声がしたので振り向けば、ソフィアの兄サジーだった。


「これがここでの最後かもしれんとなると、感慨深いな」

「え? 兄さん、最後って何の話?」


 ソフィアが聞けば、料理をトレイに乗せてサジーがセイジたちのテーブルにやってきた。


「ついさっき、ソウヤ殿が戻られてな、親父殿に話されていたのだが、どうも我々に、王国魔術団に復帰するよう陛下からお達しがきたらしい」

「呼び戻されるの?」

「ああ。王国は近いうちに、魔王軍と本格衝突が予想されるからな。ここで学んだことを、魔術団に反映させて、備えたいらしい」

「そういえば、そういう目的でいたんでしたね」


 セイジは頷いた。魔王軍の脅威に備え、ソフィアを育てた銀の翼商会の魔法技術を学ぶために王国の魔術団からメンバーを寄越したのだ。


「その件で親父殿は、食い下がるつもりらしいがね」


 サジーは肩をすくめる。


「まだまだジン師匠から学ぶべきことがあると。ここで帰って、その教えを受けられなくなるのが嫌なのだろう」

「本末転倒ね」


 ソフィアはすました顔で言った。


「お父様も大人になるべきだわ。自分の仕事を放り出して魔法習得にかまけて……」

「陛下は、ソフィアにも魔術団の指導をお願いできないかと打診したらしいぞ」

「冗談じゃないわ! 私はここを離れないわよ!」


 ソフィアは声を荒げた。サジーは手を挙げた。


「すまんすまん、お前に打診があったというのは冗談だ」


 なんだ――実はソフィア以上にホッとするセイジである。


 ――でもそうか。イリクさんやサジーさんたち、帰っちゃうのか……。


 寂しくなる、とセイジは思った。

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