第527話、表敬訪問するソウヤ


「ということで、よろしく」

「こちらこそ」


 ソウヤとエイタは改めて握手する。


 霧の海の海賊団から傭兵団として、銀の翼商会に同行する。


 エイタは相好を崩した。


「俺たちは、あんたたち銀の翼商会の護衛だ。期間は特にないが、もし元の世界に帰る渦なりを発見した場合は、状況によってはそこでさよならもあり得る」

「了解した。そちらの都合は優先していい。……大丈夫だとは思うが、こっちで海賊行為はしないでくれよ?」

「魔王軍以外には、だな?」

「ああ、魔王軍以外には、だ」


 敵の船に対しては、その限りではない。ソウヤやエイタがいた地球でも、その昔、政府の許可を得て、敵国船に限り積み荷を奪う海賊行為を行った者たちの私掠船が存在した。


 ――まあ、オレたちは別に政府でも何でもないんだが。


「心配するな。雇われている以上、クライアントの信用を損ねるような行為は慎むさ」


 エイタは請け合った。


 ということで、今度はソウヤがサフィロ号を表敬訪問した。


「サフィロ号へようこそ。ソウヤ商会長」


 海賊船長は演技たっぷりに、ソウヤを招いた。


 甲板は木目。外観もかなりスマートな船だったが、適度に金属のパーツもあって、どこか近未来的だ。


「霧の海の世界では、古代文明の船だって?」

「ああ、気づいたかもしれないが、サフィロ号にプロペラはなかっただろう? こっちの世界じゃ、まだレシプロ機関っぽいが」

「魔力式ジェットエンジン?」

「ジェット、になるのかあ。まあこっちじゃアストラペー機関とかって言われた。……俺は専門家じゃないから、よくわからん」


 船長であるエイタは苦笑した。


「わかんないエンジンで飛ばしているのか?」

「この船にはサフィーっていう管理精霊が積んであって、魔力を用いて整備や修理を行う。だから精霊が無事で、魔力さえあれば、人が何もしなくても修理や整備がされるのさ」

「凄いな、それ」

「ちなみに、船はもちろん精霊は売り物じゃないぞ」

「それは考えもしなかった」


 何故、そう言われたのだろうと考えるソウヤ。――そうか、オレ商人だからか。


「それにしても……」


 ソウヤは甲板にいる海賊船のクルーたちを見回して目を丸くする。


「こいつら……豚人間?」

「俺の世界じゃ、ポーキー族と呼ばれている。なかなか愛嬌があるだろう」


 身長は140から150センチくらい。二足歩行、小太りで短足。頭がやや大きく、そして豚だ。


「豚系の亜人でオークなんか聞くけど、あれと比べる確かにキュートかもしれない」

「あれで、結構臆病でね。……ソウヤはがっちりしているから、あまりビビらせるんじゃないぞ」

「気をつけるよ」


 船体後部にはブリッジがあり、側面には展開式のウイングがある。


「紹介しよう。うちの副長のヴィオラ」

「ヴィオラです。よろしくお願いいたします」


 金髪に紫の瞳を持つ凜とした美人さんだった。海賊というより、バリバリに仕事ができる系に見える。年齢は20代半ばくらいか。


「彼女は元皇国の騎士なんだ」


 元々海賊だったわけではないようだ。


「どうも。銀の翼商会の商会長のソウヤだ。よろしく」

「で、そっちにいる小っこいのが、管理精霊であるサフィー」


 名前を呼ばれたからか、サフィーという青髪の少女がブンブンと手を振った。10歳くらいに見える。


「管理精霊って言われなきゃ目を疑ったな」

「操舵輪を握っているのが、幼い子供だから?」


 エイタは自身のポケットを漁る。


「なあ、ソウヤ、もらっていい魔石とかある?」

「魔石? ああ――」


 もらっていい魔石とは、売ればお金になるんだぞ――


「ほらよ」

「どうも。……サフィー、商会長様からおやつの差し入れだ!」

「……ども!」


 エイタが投げた魔石をサフィーはキャッチすると、それを口の中に放り込んだ。ソウヤは目を剥いた。


「おい!」

「彼女は魔石が好物なんだよ」

「石だぞ?」

「燃料だよ。この船にとってはな。あんただって、水も飲めば飯は食うだろう? それと同じさ」


 エイタは頭を動かし、ついてこいとジェスチャーした。見張り台に登るポーキー船員の背中を見上げ、ブリッジを下りようとすると、黒髪をポニーテールにした、いかにもサムライな女性がやってきた。


「エイタ殿」

「よう、椿。ソウヤ、こいつは椿。妖刀だ」

「ヨウトウ……?」


 紹介としては妙な単語が聞こえた。首を捻るソウヤに、椿は頭を下げた。


「お初にお目にかかるでござる。私は椿と申す者。ソウヤ殿は強者とお見受けいたした。ぜひ私と――」

「はい、ストップだ椿。このお方はうちのスポンサー様だぞ。手合わせはなしだ」


 すまんねソウヤ、とエイタは詫びた。


「リムの話は聞いてるか? 椿はリムが作った魔法武器でな。生き血が好物という妖刀だ」

「ああ……リムね」


 ジンが警戒していた人物が作ったとかいう。見た目は完全に和風女性だ。刀には見えないのだが。


 ――爺さんのところの人形たちも人間にしか見えないから、それと同じか。


「そういえば、そのリムは?」

「椿、リムを見ていないか?」

「あちらの船に行ったでござるよ。おそらく、ジン殿に会いに行ったかと――」

「ああ、そう」


 ガックリするエイタ。ソウヤはポンと肩を叩いた。


「何か当事者たちは大変そうだな」

「因縁だからな」

「それにしても……まともな人間はほとんどいないな」


 ポーキーは見かけるが、人間がエイタと副長のヴィオラしか見ていない。


「そういえば、カボチャの化け物っていうのは? 見たところ、カボチャは影も形も見えないが」

「倉庫に行けば腐るほど見れるよ」


 エイタは皮肉げに言った。


「ここで作れるのは、カボチャしかないからな。何なら、うちのカボチャ、銀の翼商会で売ってもいいぞ」

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