第520話、霧の海の海賊
魔王軍の飛空艇が接近してくる。
ソウヤは声を張り上げた。
「戦闘用意! ゴールデンウィング号で船団の盾になるぞ! 後ろのゴルド・フリューゲル号に船団を先導させる!」
「合戦用意!」
ライヤーが船内通信機に叫んだ。
ゴールデンウィング二世号に備え付けてある電撃砲座に元カリュプスメンバーたちが配置に就く。
「しかし、旦那。1対5だぞ。さすがヤバくね?」
「エンネア行きの船に傷をつけるわけにはいかない!」
この船団は、魔王軍に対抗するための人類軍の貴重な戦力となる。ここでの喪失は、それだけ人類軍の反撃の遅れとなるのだ。
「心配するな、ライヤーよ」
アクアドラゴンがニマッと笑った。
「私たちのブレスで、あんな船一撃で砕いてくれるわ!」
「そうだった。うちには頼もしいドラゴン様がいらっしゃるんだった。よしきた!」
操舵輪を回し、エンジンの噴射口の向きを調整。さらに速度を落とし、後続のトルドア船に先に行かせる。
「魔王軍の飛空艇が飛び回っているとわかっていれば、護衛の船もさっさと連れてくるんだったぜ」
攻撃力最強のタライヤ船である『ゴールデン・ハウンド』がついていれば、もう少し不安が和らいだかもしれない。
ドラゴンたちは頼りになるが、魔王軍だって反撃の手段を持っているだろう。先日のように、飛行魔獣や魔族が出てきたら面倒になる。
『敵船4、縦列を形成。まっすぐ本船に接近中!』
見張り台からの報告に、ソウヤは思わず声を出した。
「4隻!? もう1隻はどうした!」
・ ・ ・
魔王軍アラガン級飛空艇は、全長90メートルの大型船だ。
だが実際は、角のように伸びた巨大衝角のせいで長いのであって、船内の容積自体は、実はゴールデンウィング号クラスとさほど変わらない。
ただし船体左右にある巨大翼のせいで、その巨大感と威圧感はかなりのものがある。ソウヤたちが、ドラゴンが居ながらプレッシャーを感じたのも外観から来るスケール感の影響も大きい。
青竜師団所属の略奪戦闘団、5番隊ことレーマー隊は、魔王軍以外に複数の飛空艇が飛んでいるのを確認し、驚きを覚えた。
「どこの所属だ?」
魔王軍でなければ、人間か亜人国家のものとなろう。単独ならば、どこかの組織やら個人が発掘した飛空艇を使っているのだろうで済むのだが、同じ型の船が複数とあれば、国家所有のものと見るのが妥当だ。
隊名ともなっている指揮官、ミノタウロスのコマンダー・レーマーは、即時戦闘を決意した。
「我が魔王軍以外に、航空戦力などあってはならん! 叩き潰せぃ!」
数では敵が3倍。しかし元より戦闘型として作られたアラガン級の攻撃力は、発掘船を再生して使っている人類などの船を圧倒できると思っていた。
まさか、自分たちが追尾されているなど気づかずに……。
・ ・ ・
時間は少し遡る。
ゴールデンウィング号が、まだ5隻の未確認船を確認していた頃。先行する魔王軍の船より離れて、しかし距離を詰めていた、とある飛空艇があった。
「リム、フォグ展開」
船長の命令を受け、彼の肩に乗る猫のような生き物が目を伏せた。すると空にうっすらと雲が現れはじめて、周辺空域の雲量が増えていく。
そんな中にあって、飛空艇の周りにもうっすらと霧が発生し覆われる。
「サフィー、雲中航行開始」
「よーそろ!」
その船はすっかり雲に紛れる。
「右砲雷撃戦、用意。遠隔魔法魚雷1番、2番、装填!」
船長の指示は飛ぶ。圧倒的雲の中、外に出ているのはマスト天辺の見張り台のみ。そのまま飛空艇は、魔王軍艦隊の後方に接近する。
「まずは最後尾のやつをやるぞ」
『魔法魚雷1番、2番。装填完了!』
「魚雷1番、2番発射後、本艦は雲中航行を解除。敵艦左舷側を突っ切り、砲撃する!」
『アイアイ・サー!』
「魚雷1番2番、発射!」
飛空艇の船首から先端が丸みを帯びた円筒形の物体が二つ、放たれた。それらは雲を突き抜け、意志を持った生き物のように動くと、魔王軍飛空艇へと突進する。
グングンと迫ったそれは、やがて飛空艇に激突した。
・ ・ ・
突然の爆発音が後尾から聞こえ、魔族兵らが一斉に音の方へ振り返る。レーマー隊の最後尾を行くアラガン級が片翼をもぎ取られ、傾きながら高度を落としていく。
「な、何事だ!?」
コマンダー・レーマーは目を剥いた。
自分たちは前方の敵に猛チャージを掛けていたのだ。何故、後ろの船が炎上しているのかわからない!
見張り員たちが周囲に目を走らせるが、敵らしきものは見当たらない。
事故か?
そう疑い掛け、しかしありえないとレーマーが思ったその時だった。
「浮上!」
雲の中から、それが姿を現した。
鋭角的な船だ。2本のマスト、鮮やかな青い船体に2枚の翼。船底マストは1本。
スマートで、いかにも速そうなその飛空艇は、ドクロとお化けカボチャの旗を掲げていた。
「か、海賊船だとォ!?」
驚くレーマーの見ている前で、青い飛空艇は魔王軍船に対して電撃砲を撃ち込んできた。
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