第519話、供養、そして出発
「眠ったまま死んだかもなんて、ゾッとするな」
ソウヤは、フィーアたちが破壊した巨大球体があったという遺跡深部にいた。
「結局、何だったんだろうな……」
「装置は壊れたから、どういう仕組みかはわからない」
ジンは球体の欠片を拾った。
「だが、遺跡を調べて、トルドア文字を見つけた」
それによると、ここはトルドア帝国の強制収容所であり、労働奴隷に向けた見せしめの場だったらしい。
「見せしめ?」
「死後もアンデッドにされて施設をぐるぐると歩き続けさせる……死後の安らぎもなく、永遠に苦痛を受ける……とまあ、それを奴隷たちに分からせる施設だってことさ」
このトルドア造船所には、一般工員のほかにも、多くの奴隷も作業に従事していたらしい。その連れてこられた奴隷たちを従わせる手段のひとつだったようだ。
「死んでも歩くのをやめられない死者たち、か……」
ソウヤは天を仰いだ。
「トルドア帝国ってのは、えげつないことをするんだなぁ」
「彼らがおそろしく残忍で、他の種族や国をすべて見下していたことは、前にも話した通りだよ」
老魔術師は瞑目した。
「彼らはやり過ぎたのだ……」
「レーラが、死者たちの供養をしてる」
我らが聖女と仲間たちが、アンデッドの浄化を行っている。
「ようやく、彼らにも安息が訪れたのだな」
「今回は、フィーアたちのおかげで助かった」
「まったくだな。彼女らがいなければ、君らの救出ももう少し手間取っていた」
クレイマンの浮遊島で調達した2隻目の飛空艇が、さっそく増援のゴーレムなどを運んできた。
仮にフィーアたちが失敗したとしても、最低でも眠ってしまった者たちを遺跡や造船所から回収することはできただろう。
だが、その場合はトルドア造船所で準備していた飛空艇の売買計画は、大きな見直しが必要になっていただろう。
「想定外はあったものの、これで飛空艇の輸送と販売ができそうだな」
「皆は、ゴルド・フリューゲル号が気になっているようだけどね」
皮肉げにジンは笑った。
銀の翼商会でも、一部の者しか知らなかった2隻目以降の話。睡眠騒動が終わったら、急に船が増えているのだから無理もない。
「改装する間にどういう風に編入するか考えようって思ってたんだけど、その余裕もなかったな。何かうまい言い訳あるかい、爺さん?」
クレイマンの浮遊島を実際に見たメンバーならそのまま話せるが、それ以後の面々には詳細を話せないから適当な理由をでっち上げないといけない。
「ゴルド・フリューゲル号については、この造船所を保有するT工房から購入した、でいいと思うよ」
浮遊島を知らない面々には、リッチー島のT工房から船を購入する、という話で、今回のトルドア船を入手したと説明してある。ヴェルメリオは、そのT工房の人間で、ジンはT工房にツテがある、と。
「なるほど、それでいくか」
「もう2隻も、売買船舶第二陣を運ぶ時にでも合流させよう。人員については、T工房から出向したとか、銀の翼商会で船乗りを現地雇用したとでも言っておけばいいだろう。幸い、いまの銀の翼商会には、ライヤー以外に船に詳しそうな者はいないからね」
悪くない案だとソウヤは思った。後は知っているメンバーに口裏合わせをして、ボロが出ないようにするだけである。
「それじゃ、引き渡し可能な10隻、早々にエンネア王国に運ぼう」
王国に引き渡しても、乗員の準備や訓練などの時間を考えれば早いほうがいい。それだけ早く、ジーガル島攻略計画も進むだろう。
人類側は、魔王軍より二歩も三歩も遅れているのだ。時間は限られている。
・ ・ ・
銀の翼商会は、T工房から10隻のトルドア製飛空艇を購入した。
ソウヤは、銀の翼商会のメンバーに説明した。ここで調達した船や武器は、魔王軍対策にエンネア王国に販売。また今後、その他人類勢力にも販売していくと伝えた。
魔王軍という存在について、一般人よりもその存在を痛感しているメンバーたちは、反対する者もおらず、すぐさま行動に移った。
T工房からの派遣や飛空艇乗りということで、銀の翼商会のメンバーが一挙に増えた。
もっとも、そのメンバーは全員、クレイマンの浮遊島の住人である機械人形である。ジンはメイド型を好んでいるようだが、銀の翼商会の船乗りグループは男性型である。
彼らは、主に飛空艇の操船担当なので、ゴールデンウィング二世号以外の船に乗り込む。だから、それまでのメンバーたちには、同じ銀の翼商会でもあまり接点がないだろう。
ゴールデンウィング二世号は、リッチー島を飛び立つ。出発直前に、海に行ったままだったアクアドラゴンを拾い、これで全員揃った。
「おーおー、船がいっぱい増えたなー」
人型アクアドラゴンは、珍しくブリッジに来て、後続する飛空艇群を眺める。
「一番後ろの船以外は、全部同じだ」
「最後尾は、銀の翼商会の船」
クラウドドラゴンが説明すると、アクアドラゴンは「おおっ」と声を上げた。
「例の2隻目だな!」
それぞれの飛空艇は、機械人形たちが最低人数で乗り込んで動かしている。縦に一列となり、先頭のゴールデンウィング二世号についてくる。
「親ガモに続く子ガモみたいだな」
などと呑気なアクアドラゴンである。操舵輪を握っていたライヤーがニヤニヤしていると、通信機がなった。
「こちらブリッジ」
『こちらレーダー室。北方より、飛翔体反応あり!』
元カリュプスメンバーのアズマが報告した。
『反応5。こちらに接近中!』
「旦那、北に未確認!」
ライヤーの声に、ソウヤはマストを見上げた。
「見張り員! 北方に未確認物体!」
マストにある見張り台――この船で一番高い位置にあるそれで見張りについていた当番は、サジーだった。遠距離視力の魔法で、望遠鏡で覗くように視力を拡大する。
『見えました! 飛空艇! 形状から、魔王軍の船!』
サジーの報告。クラウドドラゴンとアクアドラゴンも魔力眼でそれを見つけた。
「ダンジョンで見た形の船ね」
「私が水没させてやったやつだな!」
「こんなところで、魔王軍の船だと……!」
ソウヤは歯噛みする。まさかエンネア王国への輸送の途中で遭遇するとは。魔王軍の飛空艇が割と自由に大空を駆けているのは、ある意味ショックだった。
・ ・ ・
「――船長、魔王軍の連中、どうやら、飛空艇団を襲撃するつもりのようですぜ」
うん――船長と呼ばれた青年は口元を笑みの形に歪めた。
「そうなると、飛空艇団のほうは、魔王軍の船じゃないな。……双方の数はわかるか、サフィー?」
「所属ふめー船12。まおー軍4!」
サフィーと呼ばれた少女の報告に、船長は頷いた。
「ようし、合戦用意! 海賊の時間だ! 目標、魔王軍!」
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