第474話、魔王軍の本当の発明
アクアドラゴンのアクアブレスに破壊された城。その跡地を調べる銀の翼商会の面々。
セイジは、オダシュー、ガル、ソフィアと一緒にいた。
四散している城壁の残骸は、水の力の凄まじさを物語る。
「逆立ちしたって、この威力は人間には無理だな」
オダシューが思わず口にすれば、ソフィアは自身の髪を払った。
「私もミスト師匠も攻撃したんだけどね。さすがにここまではできないわ」
「ソフィアの魔法もかなり凄いんだけどね」
セイジは素直に言った。アクアドラゴンが規格外なだけであって、ドラゴンのブレスに匹敵するソフィアの魔法は、人類のそれでもトップクラスだと思っている。
「ま、まあね」
セイジに褒められて、ソフィアは得意げな顔になった。
「まあ究極のところは、あのアクアブレスに負けないやつ目指す?」
「おっそろしいねぇ」
オダシューは苦笑する。その時、先導するガルが止まった。
瞬時に、セイジとオダシューが警戒を強める。その時、金属の扉らしきものが開く音がした。
『あ?』
地下への扉、そこで顔を出したのは魔族兵。
刹那、ガルが駆けた。慌てて魔族兵が引き返そうとした時には、青年アサシンはその首にダガーを突きつけ――
シュッ、と音もなくその魔族兵の喉を掻き切った。セイジとオダシューも駆けつける。
「敵兵の生き残りか」
「ここ地下への階段ですね」
上は流されたが、この下は難を逃れたらしい。ソフィアが階段を覗き込む。
「結構、深そう……」
「なら、まだ敵がうようよいるかもな」
オダシューは魔力通信機を取り出した。
「ボス、オダシューです。地下への入り口を発見しました。まだ敵が残っているかもしれません」
すぐにソウヤから『そっちへ行く』と返事がくる。探索中の他グループのメンバーも集まってきた。
やってきたソウヤは状況を確認すると、地下の調査に乗り出した。地下へ通じる長い階段を下っていった先には魔族がいて、さらに大勢のエルフが捕らえられていた。
・ ・ ・
階段を下った先には巨大なドーム状の部屋があった。地下数階分の深さがあって複数の牢屋が刑務所よろしく並んでいた。
見張りである魔族兵が十人ほど、侵入したソウヤたちを迎え撃ったが所詮は雑魚であり、勇者とその仲間の敵ではなかった。
「何でエルフがこんなに……」
魔王軍の城の地下に収容されていたエルフたち。さっそく救助し、エルフの治癒魔術師であるダルを通して事情を確認する。
聞けば、エルフたちはこのダンジョンの外、魔の山と呼ばれるテーブルマウンテンから比較的近くの森に住んでいる者たちだとわかった。
「魔王軍が突如集落を襲ってきたのだそうです」
ダルが報告した。
「村のエルフたちは捕らえられて、ここに連れてこられたと」
「何故、魔王軍はエルフの方々を捕虜に?」
ソウヤが問えば、ダルはグッと表情を引きつらせた。穏やかな彼がこういう顔をするのは珍しい。
「口にするのもおぞましいのですが……」
それだけで嫌な予感しかしなかった。
「魔王軍は飛行石の代替手段を発明したんです」
どこから飛行石を手に入れているのか――その話題をしていた直後だけに気になる発言だった。
「エルフの脳を摘出して、それを装置に組み込むのだそうです」
――脳……?
一瞬、聞き違いではないかとソウヤは思った。ダルは深刻な表情のまま続けた。
「詳しくはわからないのですが、エルフに浮遊の魔法を使わせるのだそうです。その状態で脳を取り出して、浮遊装置に繋げる。その浮遊装置には膨大な魔力が貯められていて、外部から浮遊のレベルを調整できるのだとか――」
飛行石の代替。魔王軍が飛空艇を浮かべるために用いる装置がそれだ。
「つまり、同胞は……その装置を制御するためのスイッチなのだと――」
そこでダルは口をつぐんだ。これ以上喋るのが辛かったのだ。同族が装置の部品にされているのが。
ソウヤも込み上げてくる感情を抑えるように口を閉ざした。手が小刻みに震えた。こんなに煮えたぎる気持ちは、いつ以来か。ドロドロとした熱気が血液を沸騰させるようだった。
「ひっ!」
ドン、と別の部屋へ行く通路からソフィアが出てきた。こちらはガクガクと膝を震わせ、顔面蒼白である。
見てはいけないものを見てしまったかのような。
その通路の先に何がある?――ソウヤはそちらへ歩き出した。
見るなと心がざわめくが、見なければという思いが体を突き動かした。きっと後悔する。だが頭の中によぎってしまった最悪の想像が、もはや確認しなくてはどの道後悔すると察してしまった。
リアハが通路の壁に寄りかかっていた。その悲壮な表情を見れば、やはり悲惨なものがあるのだという考えを後押しする。王都魔術師団のソワンが吐いていた。
ソウヤは通路の先の部屋に入った。
ひんやりとした倉庫だ。貯蔵庫だった。大量に吊り下げられた肉は果たして何の肉だろう。
「……」
先に来ていた者たちは無言だった。セイジは口を真一文字に引き結んでいる。ガルとオダシューは吊り下げられた肉を睨むように見上げている。
最悪の気分だった。
やはり魔族とは相容れないのだ。話ができても、まったく別の生き物。彼らには人間やそれに近い亜人種は敵なのだ。
「ああ、わかっちゃいた。わかってはいてもさー」
魔王を討伐する旅で、連中のやり方は知っている。理解はしている。だから直視できる。だが腹が立たない理由にはならないし憤怒の感情を鎮めることもなかった。
この日、10年前の魔王軍との戦いを知らない若者も、かつて戦った者たちも、全員が魔族という存在を改めてその脳裏に刻んだ。
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