第467話、逃げるか戦うか
ゴールデンウィング二世号では、ちょっとした騒ぎになっていた。
使い魔を用いたダンジョン探索をしていたら、接近する魔王軍と思われる魔獣の軍勢を発見した。
「問題は、大型魔獣が約30。ハーピーや有翼人、そして魔族などが百から二百はいるということだ」
イリクが言えば、船橋にいた面々は厳しい顔になった。
「すべて空中に対応した敵だ。上から攻められれば、数の劣勢も含めてかなりの窮地と言ってよい」
「一度、ダンジョンから脱出するか?」
ライヤーが頭を掻けば、カーシュが睨むような視線を向けた。
「ソウヤたちがまだ残っているんだが?」
「そのソウヤたちがいない」
カマルが腕を組んだ。
「私もライヤーに一理あると思う。いくら飛空艇が飛べるダンジョンとはいえ、逃げ回るには狭い。かといって踏みとどまって、船を守れるとも思えん」
「……」
リーダーであるソウヤがいない。頼りになるジン、ミストもいない。彼らが戻ってくるまで、残っている者で何とかしないといけないのだ。
「でも……」
セイジが口を開いた。
「ソウヤさんたちを置いていくなんて、できませんよ」
「心配は心配だが、今はおれらの心配をしろよ」
ライヤーは息を吐き出した。
「こっちのほうがむしろピンチだ。船がなくなっちまえば、ボスたちだって帰ってこられねえ」
「せめて他のドラゴンたちにも積極的に助力を乞えればな……」
一番手を貸してくれるミストは不在。アクアドラゴンはお客さんであり、影竜親子はアイテムボックス内。
ティスを指導しているクラウドドラゴンも、銀の翼商会の一員というわけではない。
「おうおう、何を騒いでおるか」
噂をすれば何とやら。水色髪をツインテールにしたアクアドラゴンが船橋にやってきた。その後ろには従者のごとくフラッドがついている。
「魔王軍と聞こえたでござるが?」
「ああ、今こっちに迫ってきている」
カマルが額に手を当てれば、アクアドラゴンは何故か胸を張った。
「攻撃してくるなら迎え撃てばよい。簡単ではないか?」
「敵は空を飛んできているんですよ」
カーシュが畏まった。
「残念ながら、我々が対応するには空中の敵が多すぎる」
「どばーっと、大きな魔法で吹き飛ばしてやればよかろう!」
アクアドラゴンは根拠もなく笑った。
ドラゴンならブレスで薙ぎはらうとかできるだろうが――クルーたちは顔を見合わせた。
そこへクラウドドラゴンとティスがやってくる。
「ブレスなり大魔法で迎え撃てば、ある程度は一掃できるわ。でも――」
クラウドドラゴンは眉をひそめた。
「おそらく戦いには勝つ。けれど、そのために失われるだろうクルーの犠牲と、船への損害ないし撃沈される可能性も覚悟しなくてはいけない」
だから一度ここを離れて――という話が出てくるのだ。
船橋にいる人間たちは、クラウドドラゴンの指摘どおり、今回の魔王軍に対して負けるかも、とは思っていなかった。
だが無傷で勝てるとも思っていない。ガチで殴り合ったら戦力差もあいまって死傷者が多数出てしまうだろう。
それだけ飛行型の魔獣軍団を危険視しているのだ。これが地上を歩く軍勢なら、もっと楽に勝てた。三次元の機動ができる空中では、大魔法で一掃は難しいのだ。
「とはいえ、やる前からグダるものでもないわ」
クラウドドラゴンは言った。
「一同、覚悟を決めなさい。案外、やってみたらあっさり終わるもの」
案ずるより産むが易し、という言葉もある。
「先制攻撃でどれほど数を減らせるかに掛かっている。まあ、ワタシはここではたぶん死なないからやるけど、怖いならさっさと逃げてもいいわよ。アクアドラゴン、アナタはどうする?」
「むー。うーん」
アクアドラゴンが腕を組んで悩む。勝ち負けではなく、面倒くさいというのが彼女の本音だった。銀の翼商会と心中する理由はないのだ。
「アクアドラゴン様。この船がなくなると、美味しい食事がなくなるでござるよ」
フラッドが後ろから囁いた。ピクリ、とアクアドラゴンの耳が動いた。
「む、それは――」
「ここらでひとつ、アクアドラゴン様の偉大なお力を見せつけてやれば、美味しい食事が献上されるやもしれませんぞ」
「……しょうがないなぁ」
アクアドラゴンが不穏な笑みを浮かべた。
「どれ、魔族を蹴散らしてやるとするか!」
チョロい――船橋の面々は皆思ったが口に出さなかった。クラウドドラゴンは手を叩いた。
「では、迎え撃つ方向でいいわね。魔術師たちもここで学んだ魔法を駆使すれば切り抜けられる。どうすれば最善の結果に繋がるか、それぞれ考えて行動しなさい」
銀の翼商会の面々がそれぞれ動き出した。アクアドラゴンがクラウドドラゴンをジト目で見た。
「何で主が、ここを仕切っておるのだ?」
クラウドドラゴンは肩をすくめただけで答えなかった。
銀の翼商会はクラウドドラゴンを気まぐれで、あくまでお客様だと思っているが、彼女に言わせれば商会の守護竜を気取っていたりする。
何せソウヤの作った料理のためなら、四大竜でさえ見捨てると以前口にしていたのだ。――それに……あの方もいらっしゃるのだから。
・ ・ ・
「敵、侵入者!」
魔王軍飛行強襲連隊は、侵入した飛空艇――ゴールデンウィング二世号を目視していた。
点のような大きさだったそれが、徐々にその輪郭がはっきりしてくる。指揮官であるヴァトンは声を張り上げた。
「魔法には注意せよ! 物見の報告では、トレントさえ倒す強力な技を持っているらしい」
ヴァトンは槍を掲げた。
「かかれ!」
装甲ワイバーンやグリフォンを先陣に飛行強襲連隊は突撃する。一気呵成に攻め立て、そのまま押しつぶす――つもりだったが。
「?」
キラッと光がまたたいた。次の瞬間、圧倒的な光が逆に押し寄せてきた。
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