第466話、秘境ダンジョンに潜んでいたモノ
木材の加工が完全にお任せとなったので、ソウヤたちは小屋で休憩。ソウヤはジンと、市場に流す際の注意点を話し合った。今回のような木材の大量投入は、飛空艇を即時建造するための異例の処置であり、一般の加工業者の仕事を極力潰さないように気をつけてやっていく。
何せ本当なら木の加工で数カ月とかかなりの日数を使うものだから、今回はそれでは間に合わないという事情でやっている。
「数カ月もすれば、個人や商人向けの小型船の製造が増えるだろうね」
ジンは指摘した。
「飛空艇製造ラッシュの到来だ」
関連業種は大いに忙しくなるだろう。当然、それに絡む銀の翼商会も。
レーラとメリンダは敷地を散歩していたが、やがてミストが戻ってきたのでゴールデンウィング号に戻ることにした。
……したのだが。
「悪い知らせがあるわ」
ミストは開口一番そう言った。
「このダンジョン内に、魔族の拠点があった」
「……」
ソウヤはジンへと視線をスライドさせた。老魔術師の目は険しかった。
「説明を。ミスト嬢」
「飛んでいる時に、邪な魔物の気配を感じた。だから、その出所を探したのよ。そうしたら、城があったわ」
ミストは東の空へと視線を向いた。
「何とも禍々しい建物だったわ。城の中央にある塔も気味の悪い魔力をまとっていた……」
ジンや、かの友人が作ったものではなさそうな城が、ダンジョンの端にあり、魔族とその手勢がいた。
「連中は、こんなところで何をしているんだ……?」
ソウヤは自問するように呟く。ジンが口を開いた。
「魔王軍は、人類への攻勢のための秘密の拠点を様々な場所で作っている。このテーブルマウンテン地下のダンジョンも、人が来ない場所と見るなら拠点を作るには打ってつけだ」
「……」
「この辺りは魔力が豊富な土地でもある。強力な魔獣の生成や、魔道具の製造に向いている」
ひょっとしたら、と老魔術師は顎に手を当てた。
「何かとんでもない秘密兵器を作っているのかもしれないな」
例の魂収集装置とか、国ひとつの人間を魔物化する装置とか、または恐るべき破壊力を秘めた兵器――
「まさか……」
「魔力が集まる場所で、その力を集めているということはそういう可能性もあるということだ」
ジンは強い口調になる。
「これは早急に制圧すべき案件だろう」
「確かに。コソコソ隠れてやっているのが、ヤバい予感しかしねえわ」
ソウヤは頷いた。
その時、魔力通信機の呼び出し音がなった。ソウヤは慌てて取ろうとしたが、ジンが自分の通信機で返事するのが早かった。
「ジンだ」
『――ジン殿』
通信機から聞こえたのはイリクの声だった。
『――報告です。偵察中の使い魔が、こちらに接近する魔物の集団を発見しました。おそらく、魔王軍です!』
魔王軍――その言葉に、ソウヤたちの間に緊張が走った。噂をすれば影か。
『ワイバーンやグリフォンなどの大部隊とのこと。至急お戻りください』
「了解した」
ジンは通信機を切ると、頭を傾けた。
「どうやら先手を取られたようだな」
「敵も、オレたちの飛空艇がダンジョンに入ってきたのを見たんだろうな」
そこで森のモンスターの他、巨大トレントをも蹴散らしたのを見て、部隊を送り込んできたのだろう。
「急ごう。帰る場所がなくなるぞ」
急いで浮遊ボートに乗り込む。ミストが飛び上がった。
「ワタシは先に行くわ!」
翼を羽ばたかせ、風のようにミストは飛び去った。浮遊ボートの速度よりミストのほうが断然速い。彼女が先行することに異存はなかった。
「何とか無事でいてくれよ……」
そう願わずにはいられなかった。しかし、ここでジンが浮遊ボートの進路を変えた。
「爺さん?」
「ちょっと寄り道をする」
え?――レーラとメリンダが目を見開いた。ジンは淡々と言った。
「たぶん、こいつの足だと間に合わないと思う」
仮に間に合ったとしても――
「その頃には、ゴールデンウィング号はマズいことになっている」
・ ・ ・
ワイバーンにグリフォン、ハーピー、ホークマンにデーモンと飛行可能な魔獣や魔族が森を越えてゴールデンウィング二世号へと迫っていた。
魔王軍飛行強襲連隊を率いるヴァトンはデーモン・ジェネラルだった。二本の鋭くとがった角に緑の肌を持つ人型の魔族で、背中には二枚の翼を持つ。
「我が強襲連隊に演習の機会が来るとはな!」
拡声魔法で、配下の者たちにその声を響かせる。
「よもや人間がここにやってくるとは思わなかったが、来たるべき大反撃の予行だ! 全員血祭りにあげてやれっ!」
『オオオッ!』
デーモンとホークマンたちが蛮声を上げ、それにつられて魔獣たちも咆哮を轟かせる。
飛行強襲連隊は、魔王軍において空から襲撃を行う兵科だ。飛行可能な魔獣が主戦力であり、人間の地上拠点を早期に無力化する部隊として期待されている。
いかな砦や城も、地上の守りは固くても、空からの攻撃には弱い。
装甲をまとうワイバーンやグリフォンなどは、弓矢などに備えて防御力を底上げしている。
さらにハーピーや武装したホークマン、デーモンが脇を固めて、上陸戦闘をこなす。建物の中に潜む敵をも狩り出す恐るべき制圧部隊だった。
ワイバーン、グリフォン合計30体、他200名に及ぶ飛行強襲連隊は、侵入者へと距離を詰めていた。
危うし、銀の翼商会。
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