第462話、森林ダンジョンのモンスター


 ダンジョンといえば、モンスターが出没する。

 この地下の森林ダンジョンにも、それら魔獣が現れる。


「あはは、やっぱりこうでないと面白くないわっ!」


 ミストは竜爪槍を手に、森から出てきた敵の姿を見やる。


「ゴリラに、サーベルタイ――いえセイバーウルフね。あらあらラプトルまでいるわ」


 ダン、と地を蹴る。


「リアハ、カーシュ! 先に行くわよ!」


 ミストは跳んだ。弾丸の如く加速し、標的と定めたゴリラ――肥大化し巨大な腕をもつハンマーコングを刺し貫いた。


 聖騎士のカーシュは剣を抜き、盾を構えた。


「リアハ姫、ここで防衛線を張ります。伐採グループに敵を寄せ付けないように!」

「はい!」


 魔断剣を握り、リアハは魔獣の集団を睨む。


 と、そこへ二人の後ろから左右に魔獣が追い抜いていった。


 天狼てんろう大牙たいが――魔獣使いコレルの従魔だ。


 さらにホーンバードのウメルカが飛び抜け、セイバーウルフを貫き、吹き飛ばした。


「珍しい子はいなさそうだなぁ」


 コレルは遠くを見やり、敵性魔獣の姿を確認していく。魔獣使いの癖で、つい珍しい個体がないか探してしまうのだ。


「コングか……お前はどう思う、クレル?」


 ギガントコング、クレルがデンと敵魔獣の前に立ち塞がる。その巨体は、他の魔獣たちが小さく見えるほどだ。


「……なるほど、友達になれそうにないか」


 クレルの声を受けて、コレルは頷いた。


「じゃあ、やってしまおう」


 飛び込んできたハンマーコングが腕を振り上げるが、リーチに勝るギガントコングの鉄拳がその頭に食い込み、そしてぶっ飛ばした。


 まず一体を叩きのめし、クレルは吠えるとゴリラ特有のドラミングを披露。ドコドコと叩かれた音が周囲に響いた。


「……いやはや、クレル殿はご機嫌でござるな」


 リザードマンのフラッドはウォーハンマーを担ぎ、魔獣使いの青年の従魔たちの活躍を眺めた。


 天狼、大牙はセイバーウルフを翻弄し、隙あらば仕留めている。ウメルカが上から急降下して敵魔獣を牽制している。クレルはハンマーコングやラプトルを相手どり、パワーでねじ伏せている。


「これは出番がないでござるか……?」


 最前線ではミストが突出し過ぎなくらい突っ込んでいて無双している。


 前線は、カーシュやリアハがうまく阻止しており――


「訂正。セイバーウルフが数頭、迂回しておるでござる」


 このまま迂回して伐採グループや船へと向かうか。


 いや、さすがにそれは獣としてどうなのか。普通に、カーシュやリアハの背後に回り込んで襲う魂胆だろう。


「狼とは賢しいでござるからな」


 リザードマン特有の前傾姿勢で加速。素早く地面を踏みしめ、一気に距離を詰める。


「むっ!?」


 セイバーウルフたちに黒い影が襲いかかった。一体が絡め取られ、串刺しである。


「おお、カエデ殿か!」


 黒髪ポニーテールのシノビ少女が使い魔であるシェイプシフターを使って、セイバーウルフに肉薄、切りつけた。


 首を一刀で切り裂き、二体目を撃破。続いて投げナイフを投げて、三体目を仕留める。流れるような早技だった。


 とっとっとっ、とフラッドは足を緩める。手助けの必要はなさそうだった。


「やはり出番がないでござるな。これでは某は右往左往しているように見えるでござる」



  ・  ・  ・



「あのトカゲ先生は、行ったり来たりだな」


 ゴールデンウィング号の船橋から望遠鏡で覗き込むライヤー。


 モンスターが現れたという報告は船にも届いていた。伐採グループの他、ミスト率いる迎撃班が外に出ていて、いま戦闘中である。


 ゴールデンウィング号に残っている待機組は、船を守るという役目がある。


「こいつの出番はあるかねぇ……」


 ライヤーは愛用の魔石銃を用意する。ダンジョンとは思えない広大な広さがあるが、ダンジョンである以上、警戒は必要だ。


「ハノ、グリード、いつでも砲をぶっ放せるように準備しとけよ」

『あいよ』

『お任せあれ』


 ジン製作の魔力式通信機を使ってのやりとり。ゴールデンウィング号の側面に搭載されている砲座に、待機組だったカリュプスメンバーが配置につき、必要とあれば発砲できる態勢をとっている。


「ま、今のところ、こっちの出番はなさそうだがな」


 カマルが船橋に上がってきた。ライヤーは眉をひそめる。


「甲板はいいのかよ?」

「お前の機械人形ちゃんが、きちんとゴーレムと見張っているよ」


 フィーアが作業用ゴーレムに乗り、飛空艇の甲板から睨みを利かせている。ライヤーは首をかしげる。


「正直、どう思うカマル。フィーアとゴーレムが陣取っているが、その必要あるか?」

「出てきたモンスターを見る限りは、ゴーレム向きとは思えないな」


 前線の様子を眺めるカマル。


「だが彼女はあのゴーレムがお気に入りらしい」


 操縦できるゴーレム――アイアン1とは別に、フィーア用に作られた戦闘強化服とかいうやつだ。


 古代文明の研究家であるライヤーより、ジンのほうが詳しいのは、実際に動いているゴーレムに精通しているからだろう。


 フィーアは何故か、あのゴーレムを気に入っている。


「おや……」


 カマルが望遠鏡を覗きながら口を開いた。


「ひょっとしたら、彼女とゴーレムにも出番があるかもしれない」

「あ?」


 ライヤーも望遠鏡を取った。カマルが見ていた方向を見やると、ギョッとした。


「何だありゃ? 木が……動いてやがる!?」

「トレントだろう」


 歩く樹木とも言われるモンスターだ。木の化け物である。


「さあて、生半可な攻撃が効きにくいモンスターの登場だ」

「楽しそうだな、カマルよぅ」

「気のせいだろう。私は別に楽しんでいないよ」


 カマルは表情を引き締めた。


「伐採グループも応戦するだろうが……果たして船まで敵はたどり着けるかな?」

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