第440話、飛行石を作る?
やはり空からの輸送はいい。何より邪魔が入らないのがいい。
遥かな大地の上をゴールデンウィング二世号は飛ぶ。
「――どうかなぁ。ワイバーンとか出てきたら厄介じゃねえか?」
そう言ったのはライヤーだった。ゴールデンウィング号の操舵輪を握り、今日も楽しそうに飛空艇を操っている。
「て言うか、ボス。飛空艇作りなんて面白い話があるなら、おれも混ぜてくれよ。船なら色々考えてたんだぜ?」
「自分の船を持つのが夢なんだっけか?」
ソウヤは思い出す。
「とうとう、自分のオリジナル船を作って独立か?」
「どうかなぁ。おれ、この船けっこう気に入ってる」
ライヤーは胸を張った。
「こいつが飛べるようになるまで、ジイさんやフィーアと修理やメンテをしたからな。自分の手がかかっている分、愛着がある」
――この船を大事にしてくれるなら、オレも文句はないよ。
「それはそれとして、アイデアはあるのかい、ボス?」
「爺さんといくつか考えた」
ソウヤは船橋から見える眼下の景色を眺める。
「今のところ、浮遊ボートを拡大した大型ボートと浮遊トレーラーを大型化した陸上浮遊船が有力かな」
「ボートにトレーラー? それ飛空艇じゃねえだろ! ってか、陸上浮遊船って何だよ!?」
「とある異世界にな、砂上船っていう砂漠を進むボートみたいな船があってだな」
なお、古い小説やゲームのネタで知っているだけで、実物をソウヤは見たことがない。しかし複数の異世界を渡り歩いたジンは、遭遇したことがあったらしい。
「それなら別に空飛んでなくても、浮遊すれば似たようなもの作れるんじゃね、って話になったのさ」
「なあ、ボス。聞いた限りじゃ、その陸上船とやらは、単にでかい浮遊トレーラーだろ」
「そうとも言う」
ソウヤは認めた。実際は多少違うだろうが、考え方としては形が違うだけで、浮遊トレーラーも陸上浮遊船もほぼ同じだろう。
「原理は同じでも、トレーラーと船じゃ形は違うだろう」
「まあ、そうだけどさぁ」
ライヤーは頭をかいた。素直に頷けないところがあるようだ。
「飛空艇を作るっていうから、もっとマジなもん作るのではって期待したんだがな」
「お前だって知っているだろ? 飛空艇を飛ばすための重要パーツが足りないってことは」
「飛行石な。古代文明技術の代物で、まともなのは発掘したもんしかない」
それがこの世界で飛空艇が少ない理由となっている。
人工的に飛行石を作る研究はしているが、現代の技術力では、十数メートル浮くのが精一杯という有様だった。
「でも、ボス。ジイさんが飛行石を作るとか言ってなかったっけか?」
「ああ、以前そう言っていたな」
ソウヤは頷いた。
「だから大型ボート案や陸上浮遊船案を考えることができたんだ。世間がようやく作った人工飛行石レベルのものは、すでに爺さんが作っているからな」
銀の翼商会は浮遊ボートを所有している。風魔法の補助付きだが、小型ながら人工飛行石を搭載している。
「おれは完全な飛行石の話をしたんだが?」
「そっちはまだのようだ」
「なあ、ボス……。おれ、気づいちゃったんだけどさぁ」
ライヤーは改まった。
「あのジイさん……クレイマン王は、飛行石の製造の仕方、知っているんじゃないか? 本当はもう作れるんじゃねえかと思う」
「……! どうしてそう思うんだ?」
「浮遊島だよ」
ライヤーは空を指さした。
「クレイマン王の遺跡でたくさんの飛空艇を見かけただろう? つまりジイさんは――」
「純正の飛行石を作れる。そうでなければ、あれだけの飛空艇を保有できない、そう言いたいのか?」
「そうだ」
ライヤーは首肯した。しかしソウヤは首をひねった。
「普通に飛行石を発掘したものかもしれないぞ?」
「数十もの飛行石を? 自力で見つけたって? まさか……」
「どうかな。古代の飛空艇遺跡を見つけて、そこで大量にゲットしたかもしれないぜ?」
「……あると思うか?」
「ないとは言い切れないと思うが?」
確かに、とライヤーは認めた。
「ま、ジイさんに聞いたほうが早いな。……ん? 何か甲板が騒がしくねえか?」
船橋より下、ゴールデンウィング号の甲板に複数の人の気配がした。ソウヤは移動して覗き込む。
「魔術師たちだ」
魔法のトレーニングだろうか。噂をすれば、ジンが魔術師たちに指導を行っている。
それぞれが手に、手のひらサイズの物体を握りこんでいた。
「……何を持ってるんだ?」
ソウヤが呟くと、ライヤーもやってきた。
「何をしてる?」
「さあ?」
注目していると、説明が終わったらしく魔術師たちが甲板の左右に分かれた。
「おいおい、この空中のど真ん中で、船を降りるつもりか?」
ライヤーは、まさかと顔を引きつらせる。魔術師たちは甲板の左右の端まで行くと、手すりを超えて、飛び降りた!
「ええっ!?」
「おいおいおいっ!?」
さすがにソウヤとライヤーは驚いた。見ている間に、魔術師たちがひとり、またひとりと飛び降りていく。
もちろん飛び降り自殺、ということはなく、さながら空挺兵が飛行機からパラシュート降下するような感じだった。
死ぬ気でないのは、魔術師たちが真面目な顔をしていて、強張っていても正常な表情をしているのでわかるが……。
パラシュートもなしで飛び降りたら、地面に叩きつけられて即死だ。ゴールデンウィング号は、かなりの高さを飛んでいるのだから。
「おい、爺さん! 何をやってるんだ?」
たまらず甲板に残っているジンに声をかける。
「やあ、ソウヤ。空を飛ぶ訓練だよ」
老魔術師は鷹揚に答えた。
「アイテムボックス内で実際に飛行させたんだがね。高いところを実際に飛ぶ経験のために、飛び降りる訓練をさせている」
「……大丈夫なのか? パラシュートはなしだろ?」
ソウヤが問えば、ジンは頷いた。
「手に魔石を握らせている。それの魔力で飛ぶことを教えた。うまくいかなかった時のために、落下死防止のお守りも持たせてある。心配はいらない」
そこで老魔術師はニヤリとした。
「魔術師たちに人工飛行石を作らせようと思ってね。そのトレーニングも兼ねている」
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