第430話、ドラゴン会議
『――ということで、これよりドラゴン族の会合を開催する』
白きドラゴン、ミストドラゴンが厳かな声を発した。
その左右には、灰色のクラウドドラゴンと青いアクアドラゴン。向かい合う形で、黒き影竜、そして子供たち――フォルスとヴィテスがいた。
大小六体もドラゴンが集まると壮観である。
会合を見学する形で、ソウヤとレーラ、そしてコレルやイリクがいて、他にもギャラリーが会合を見守る。
議長役のミストドラゴンが口を開いた。
『……人がせっかく寝ている時に――影竜、騒動の理由を述べよ』
どうやら寝起きで不機嫌らしいミスト。その上から目線に、影竜は苛つく。
『これはいったい何の真似だ?』
『会合よ』
『カイゴウだ』
ミストに続き、アクアドラゴンが言った。クラウドドラゴンも首肯する。
『会合ね』
『……何故、会合なのだ?』
影竜は首をひねった。
『四大竜が集まったわけでもない。神竜が招集したわけでもない』
『だまらっしゃい!』
ミストドラゴンが吼えた。
周りのギャラリーたちが、その声に思わず耳をふさいだ。
『あれだけ派手に声を荒げれば、何かあったと思うもの。親子喧嘩に我々を呼び出してぇ』
『別に呼び出したおぼえはないが……。というかわかってるじゃないか』
影竜は口を曲げた。
『そもそも親子の問題だ。教育だ。口出しするな』
『教育ですって? ワタシにはあんたが一方的にフォルスを苛めているようにしか思えなかったわ』
ミストの鼻息は荒い。見守るソウヤだが、彼女もまたかなり苛立っているのを感じた。
――そんなにフォルスを可愛がっていたっけか、ミストって。
『そうだぞ、よくないぞ』
アクアドラゴンが横から言えば、クラウドドラゴンもフンと息をついた。
『大人げなかったな。アナタは神ではないのだから、自分が絶対正しいなどとは思わないことね』
客観的に、ドラゴンたちは影竜に批判的立場をとっていた。伝説の四大竜のうち二体から、そのように言われてしまい、影竜も不機嫌さが増す。
そもそも、影竜はフォルスの何に怒ったのだろうか?
・ ・ ・
要約すると、ドラゴン本来の姿での戦闘は退屈だ、とフォルスが発言したのが、ドラゴン至上主義の影竜の逆鱗に触れてしまったらしい。
人間と接する機会が多かったフォルスは、人間での姿での戦い方に興味津々だった。
というより、人間に興味津々というべきかもしれない。
もとから周囲の物事をキラキラした目で見ていたフォルスは、ここ最近人が増え、それぞれの戦闘だったり魔法だったりの訓練を観察していた。
それらを自分の中で取り込みつつ、人型でできることを増やしていた彼だったが、直接指導する影竜は、ドラゴンの姿での戦い方しか教えてくれなかった。
とても不満だった。
だから、つい人型での戦闘を教えて、と言ったら、母親が怒り出したというわけだ。
『我らはドラゴン。地上で最強の生物だ。まずはドラゴンの戦い方をマスターするのが先だ。我らより弱い生き物の戦い方なぞ、二の次でよかろう』
影竜が言えば、ぷいっ、とフォルスはそっぽを向いた。大変拗ねていた。
『とー、影竜は言っているのだけれどー!』
ミストが不機嫌に言った。
『先輩方はどう思いますぅ?』
『然り! ドラゴンは地上で最強!』
アクアドラゴンが声を弾ませた。
『ドラゴンの戦い方を覚えれば、あとは適当でよい』
『そうかしら』
クラウドドラゴンは異議を唱えた。
『他種族にも見習うべきところはある。我らドラゴン、幼き頃に世界を見て学ぶもの』
――そういや、ドラゴンが他種族の言語を理解しているのって、旅をして学ぶからだっけか。
そんな話を思い出すソウヤである。
灰色竜は続けた。
『こういうのは、本人のやる気がある時にやるのが一番』
『おや、クラウドドラゴンは、ドラゴンのやり方は後回しでよいと?』
アクアドラゴンがギロリと見れば、クラウドドラゴンは平然と見返した。
『自己の特性を生かした戦い方を覚えるのを一番とするのは基本。でも、ドラゴンとしての飛ぶ、吹き飛ばす、踏み潰す、噛みつくなどの動作は、正直後回しにしてもさほど問題ない』
後からでも充分覚えられるし、人間ほか自身より小型種族のことを知っていれば、これら基本もより効果のあるやり方に昇華させられる――と、クラウドドラゴンは発言した。
なるほど、とソウヤは思った。そういう考え方もあるのか。
『霧竜、お主の意見は?」
アクアドラゴンが、ミストに話を振った。ミストドラゴンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
『ぶっちゃけると、ドラゴン最強に異存はないけれど、人間の戦い方を下に見ている影竜が気に入らない』
『……?』
本気で意味がわからないという顔をする影竜。ミストドラゴンは睨んだ。
『そう、それよ。あなた、人間のことまるで知らないでしょう。クラウドドラゴン先輩のように、人間を理解してそれでも下に見るのは別にいいのよ』
でも、とミストドラゴンの声に力がこもる。
『何も知らないくせに上から発言するのは滑稽だわ。あなたのようなドラゴンをプライドばかり高い、身の程知らずというのよ!』
『な、なにぃー!?』
ビリビリと大気が震えた。影竜が怒りのオーラをまとう。竜の威圧である。直接向けられていないのに、ギャラリーの中には動けなくなる者が複数。
しかし、同じくドラゴンであるミストは平然と、竜の威圧をぶつけ返した。
『なに、図星? フン、怒るのだけは一丁前だけれど、人間に対する姿勢は、あなたよりもフォルスのほうが数段賢いわ。――フォルス』
ミストドラゴンは子竜を見た。
『あなたは見る目があるから人間のやり方も、ドンドン学んでいいわ。ミストお姉さんが教えてあげる』
『ほんとー!?』
『おい、貴様、人の子供に何を勝手なことを言っておるのだ!?』
ガァァァ! と影竜が突進の構えを取れば、対峙するミストドラゴンもまた迎え撃つ構えである。
本気の喧嘩かこれは――ソウヤはさすがに息を呑んだ。
いくらアイテムボックス内とはいえ、ドラゴン同士が暴れたら周囲のものが破壊されてしまう!
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