第413話、引きこもりは隣人の顔を知らない


 デュロス砦の調査に向かったジンたちから、来てほしいと言われたソウヤたち。


 念話でやりとりしたイリクに話を聞いたソウヤだが――


「何やら装置を見つけたらしいですが、詳しいことは」


 イリクの答えにソウヤは首をかしげた。


 装置、と言われて悪い予感しかしない。グレースランドの国民を魔獣化しようとした装置。エンネア王国の魔法大会で闘技場の観客から魂を収集しようとした装置が脳裏に浮かぶ。いずれも魔王軍残党のものだったから余計に。


「魔王軍のものですかね?」

「私はその装置を見ていないので何とも。ジン殿の話では魔道具の一種のようですが」

「ふむ、やはり行ってみるしかないということですね」


 どうも、とソウヤは礼を言って、その場を離れた。砦に到着する前に、コレルの様子を見に行こうと思ったのだ。


 アイテムボックスハウスまで出向けば、コレルが大狼『天狼』を抱きしめていた。


「よかった……本当によかった」


 コレルの涙声。天狼のほうも青年に体をこすりつけて喜びを露わにしている。優しく見守るレーラの姿もあって、心温まる光景だった。


 大牙とウメルカは、近くでまだ横になっている。体の色が紫でなくなり、聖女の治癒が効いたのだろう。後は目覚めるのを待つだけか。


「うわぁ!」


 素っ頓狂な声な声が聞こえた。見れば影竜の子供であるフォルスが、ドタドタと近づいた。


「動物がいるー!」


 天狼がグルルと威嚇の声を上げ、近づこうとしたフォルスが立ち止まった。


「なんだ、やるかー!」


 尻尾を立てて、こちらもファイティングポーズ。大狼VSドラゴン――


「ドラゴンの子供!?」


 コレルが天狼をなだめつつ、驚きの表情を見せた。


「あれ、会ってなかったっけ?」


 ソウヤが近づきながら、フォルスの頭を撫でてやる。


「聞いてない!」

「引きこもっているお前が悪いんだぜ」


 ソウヤは肩をすくめる。コレルの目が光った。


「このドラゴンはどういう関係なんだ?」

「……お前、フォルスを自分の従魔に加えようと思ってね?」

「もちろんだ!」


 肯定しやがった――ソウヤは首を横に振った。コレルは早口になる。


「魔獣使いにとって、ドラゴンを相棒にするのは永遠の憧れなんだぞ」

「へぇ」


 あまり興味なさそうな返事をするソウヤである。十年前の魔王討伐パーティーの時も、コレルは珍しい魔獣や動物に目がなかった。


 彼の家族と呼ばれる従魔たちを見れば、一目瞭然である。


「その子は人語を喋れる。賢い」

「諦めろ。ドラゴンは総じて人間よりプライドが高い。お前、親に殺されるぞ」


 影竜ママは、たぶんお怒りになる――それを予想できるくらいには影竜親子に詳しい。


「親がいるのか?」

「いたよ、かなり前からオレたちと一緒にいたぞ」

「知らなかった……」


 コレルの表情が歪んだ。魔獣使いなのにドラゴンがそばにいても気づかなかったことが相当悔しかったようだ。


「ふうん、奇妙なニオイがすると思って来てみれば――」


 灰色髪の美女――クラウドドラゴンが現れた。さらに隣には水色髪のツインテール美少女のアクアドラゴンもいた。


 ――この二人、何気にセットで動くこと多いな……。


 ソウヤは思ったが、クラウドドラゴンとアクアドラゴンは、コレルの前へと移動した。天狼がその場でペタンと地面にくっついた。吠えも威嚇もせず、抵抗しないという意思表示のようにも見える。


 ――やっぱ動物にはわかるんだなぁ、強い奴って。


「魔獣使いか。どうやって獣を従えているのか、興味がある。ちょっとお話しましょ」


 クラウドドラゴンは淡々と言った。アクアドラゴンは眉をひそめる。


「えー、従えるって、ちょっと威嚇したら大抵のやつはひれ伏すじゃん」

「……ソウヤ、紹介してもらえるか?」


 コレルが助けを求めてくる。


「この、あからさまに人間の姿をした何かの正体を教えてもらえるか?」

「わかるのか。この二人は、伝説の四大竜と言われる古竜――風のクラウドドラゴン、水のアクアドラゴンだよ」

「四大竜!? で、伝説の!?」

「然り! 頭がたかーい!」


 アクアドラゴンがお調子者のお子様のような態度で胸を張った。


「ははーっ!」


 すると、まったく別のところから平伏する声が聞こえた。


 見ればリザードマンの戦士フラッドだった。


 ――え、お前、いつからいたの?


「フラッド……?」

「太古の竜神、我らが守り神たるアクアドラゴン様ーっ!!」


 リザードマンが土下座している。


 ――ああ、そういえば、リザードマンって水竜を神聖視しているんだっけか。


 伝説の四大竜のひとつ、水を司るドラゴンともなれば、リザードマンには神も同然なのかもしれない。


「ソウヤ殿、ソウヤ殿」


 フラッドが膝をついたまま、小声でソウヤに呼びかける。


「何故にここにアクアドラゴン様がいらっしゃるのでござるかー?」

「どうしてって、まあ、成り行き?」


 ソウヤは、アクアドラゴンの隣に立った。人化しているアクアドラゴンは、長身のソウヤから見ると小さい。


「住処に閉じこもっていたが、空腹に耐えかねお引っ越しをしたんだ。いい住処が見つかるまで、うちの商会と同行しているのさ」

「ここの肉は美味いからな!」


 アクアドラゴンは相好を崩した。


「ここはいいぞー」


 本当に伝説の四大竜かと言いたくなるほど軽かった。人化している姿もあってか、威厳は欠片もない。


「ソウヤ殿がドラゴンとも打ち解けられる御仁であることは知っていたでござるが……」


 フラッドが頭を上げた。


「とうとう、ドラゴンと一緒に行動していようとは、さすがの某も吃驚でござるよ」

「その打ち解けたドラゴンというのは、ミストドラゴンのことか?」


 勇者パーティーの一員だったフラッドである。霧の谷での霧竜との経緯も知っている。


「そのミストドラゴンもここにいるぞ」

「なんと!?」


 大人四人、子供二人のドラゴンが、銀の翼商会と行動を共にしているのだ。

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