第401話、証言とこれから


 フルカ村廃墟を根城にしていた盗賊団は壊滅した。その地下にいた魔王軍の秘密拠点も制圧し、この地は一定の安息を得た。


 ソウヤはアイテムボックスの転送ボックスシステムを利用して、カマルへ報告書を送った。


 それから少しして返信があり、魔王軍拠点の制圧への労いの言葉と共に、捕虜について引き取ると書かれていた。


 カイダの証言にある複数の敵拠点については、王国でも調査、制圧に動くらしい。


「さすがに全部、こっちに丸投げはしなかったか」

「そりゃあ、そうだろうよ」


 ライヤーが操舵輪を握りながら笑った。


 ゴールデンウィング二世号は、空にあって王都へと向かっている。捕虜の引き渡しと、情報交換のためだ。


「むしろ、後は国がやるからお前ら手を出すなって言われないだけマシなんじゃね? まあ、おれとしちゃあ、そっちでもいいんだけど」

「こっちは対魔族戦のスペシャリストだからな。手伝うって言ったら王国だって無視はしないさ」

「でもそいつは、ボスが王様から認められているからだぜ? そうじゃなきゃ軍の将軍様あたりが、武装した商人や冒険者が勝手をするなって言うところだ」

「やっぱそういうもんかな」


 勝手ができるのも国王陛下と友人だから、ということか。


「それにしても、この国だけで他に拠点が六つもあるって?」

「国の大きさからしたら、多いのか少ないのかは意見が分かれるところだな。だが問題はこの国だけじゃなくて、他の国にも複数同様の拠点があるってことだ」


 盗賊団の料理番だったナールも、エンネア王国ではなくブレタ王国の出身だと言う。当然、そちらにも魔王軍の秘密拠点があるだろう。


「連中、本当にこの世界を征服しようってんだなぁ……」


 世も末だ、とライヤーはぼやいた。


「そういやあの料理番、雇ったって?」

「まあ、他に行き場がないっていうし」


 ソウヤは苦笑した。


「助けてもらった恩を返したいってさ」

「へえ、おれが見たところ、胡散臭い奴に見えたぜ」

「外見で損をしているところはあるな」


 小男で、顔を見れば神経質そうというか、小狡さを感じさせるというか。


「盗賊だったんだろ?」

「それを言ったら、うちは冒険者や暗殺者、勇者に聖女もいる」


 ソウヤは肩をすくめた。


「確かにいざという時は逃げそうではあるがな、そう器用でもないさ。じゃなかったら魔族やオレたちに捕まらなかっただろう?」

「ちげぇねえ」


 ライヤーは快活に笑う。


「心配しないでも、爺さんに頼んで保険はかけてある。何か商会にとって利にならないことをしたり、犯罪をやらかしたら国に引き渡す」

「それならいい」


 まったく警戒していないわけではないのがわかって、ホッとしたようだった。


「それにしても、あのトカゲの魔術師は何だって心臓を抜く魔法なんて使っていたのかね? 新手のコレクターか?」

「実験だってさ」


 ソウヤは尋問でのそれを思い起こす。


「あの心臓を抜き取る魔術ってのは、元は対象を奴隷として従えるものとして作られたものらしい。あの魔術師は古代の魔術を研究し、それを人間で試したんだってさ」

「人で実験か、胸くそ悪いな。で、それで何かわかったのか?」

「アンデッドと同じように、時間と共に腐っていくらしい」

「それは体の話か? それとも心臓?」

「両方だ。だから心臓を特殊な溶液につけて保存していたらしい。そうすると体のほうも劣化速度が落ちて長持ちする」

「へぇー」


 ライヤーは目を回してみせた。


「じゃあ、腐れば最後は死ぬのか?」

「一応な。心臓を破壊すれば体のほうも死ぬ。逆に心臓さえ無事なら体のほうは再生するらしい」

「でも腐るんだろ?」

「そこは例外らしいな」


 案外、不便なのかもしれない。


「これで体が腐らなければ、権力者が欲しがる術だな。人間の心臓を奪って言うことをきかせる上に、戦場では死なない無敵の軍団が作れるってんだから」

「兵を使い捨てにしていいというなら、今のままでも充分使えるだろうな」


 ソウヤは眉間にしわを寄せる。


「他の国の民とか、奴隷とか犯罪者を生きた屍にして歩兵として突っ込ませる……。魔王軍の研究はまさにそれだ」

「あまり愉快な魔法ではないな」

「まったくだ」


 ライヤーの発言に、ソウヤは同意した。


「爺さんもやってみせたが、あの術は弟子たちにも教えるつもりはないらしい」

「弟子?」

「イリク氏や同席していた魔術師たちがな、そりゃあもう目を輝かせていたよ」


 魔族が使っていた未知の魔法を、人間が使っていたわけだから。


「爺さん曰く、使い道が限られる上に難しいから、教えないとさ」

「でも、ジイさんは皆の前で使ったんだろう? 尋問でも使えるってのを証明したんじゃね?」

「別にあれで、相手が嘘を言わなくなるわけじゃない。脅迫の材料にはなるが、普通に尋問するのとやっていることにさほど違いはない。むしろ失敗せずにこなすほうが難しいから、従来どおりのやり方のほうが手間も変わらず、楽だってさ」

「じゃあ、何で今回やったんだ? 使わなきゃ、周りにも期待を持たせずに済んだだろうに」

「あのトカゲ魔術師がその術の使い手だからさ。抜き取りをやったことがある奴だから、逆にやられる恐怖ってのを煽ったんだと」


 心臓を抜く魔術を実験していたからこそ、メリットのみならずデメリットも理解していた。そのデメリットを強調してやれば、普通に尋問するより早く口を割るだろうとふんだわけだ。


「知っているからこそ、か」


 なるほど、とライヤーは頷いた。


「そういや話は変わるが。例の領主の調査隊の生き残りから何か言われたか? 帰してやったんだろ?」


 捕虜になっていた地元の騎士。彼らは治療の後、銀の翼商会から離れ、帰還の途についた。


「今のところは何も。領主に今回の件を報告するのが先だろうさ。そこでオレたちの話は出るだろうが、どうなるかは先の話だろうよ」


 その領主に呼び出されることになるかもしれない。とはいえ、しばらくは銀の翼商会も忙しいので、話がくるのがどれだけ先のことになるかはわからない。

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