第402話、カマルとかつての仲間たち
王都に帰還したソウヤたち銀の翼商会。飛空艇の発着場にゴールデンウィング二世号が着陸すると、さっそく王城からの遣い――カマルが乗船した。
「お早いお帰りだったな、ソウヤ」
「来いと言ったのはお前だぞ」
甲板で出迎えたソウヤは、カマルを船室へと招待した。
一にも二にも、フルカ村廃墟の魔王軍拠点の話である。盗賊を利用した魔族の企み、拠点で押収した物品、捕虜から得た証言などの情報を開示する。
「さすがだな、ソウヤ。アジトをひとつ潰した件を報告したら、陛下もお喜びになられた。報酬も出すそうだ」
「そいつはどうも。……こっちも人数が増えたからな。もらえるものはもらっておくさ」
ソウヤは、王国からの報酬については受け取る旨、応じた。
「カマルさん、お久しぶりですね」
「これはレーラ様。ご無沙汰しております」
カマルが一度席を立ち、頭を下げた。
レーラが来客用のお茶を用意した。聖女用神官服をまとっているが、やっているのは秘書かお手伝いさんのようである。
お茶だけ用意して退出するレーラ。カマルは、ソウヤを睨んだ。
「お前、聖女を何だと思っているんだ? お茶くみ係じゃないんだぞ?」
「別にオレが指示したわけじゃねえよ。彼女が自分で考えてやってくれていることだ」
本人の意思は尊重するソウヤである。
「――それで、捕らえた魔王軍の捕虜についてだが……」
「ああ、こちらで引き取る。魔王軍についてはこちらも知りたいことが山ほどあるからな」
カマルは頷いた。ソウヤは地図を広げる。
「で、その捕虜から聞き出した王国内にある連中のアジトの場所だが――」
「手紙で送った通りだ。まず偵察隊を派遣して、本当にそこに敵の拠点があるのか調査する。証言どおりに奴らの拠点ならば、部隊を送り込んで襲撃する」
「それでいいと思う。あの魔術師の証言だけだから裏付けが取れていない。そのまま鵜呑みにするのは危険だ」
ソウヤはカマルにそう告げた。きちんと確認せずに目の前の情報に飛びつき、失敗するのを過去何度も目にしている。それによって出さなくてもいい犠牲をどれほど払ったか。
敵が嘘をついている可能性を考え、その上で行動する。
失敗の原因を探れば、大抵は焦りが墓穴を掘る結果に繋がっているので、慌てず冷静になるのが大事だ。
カマルが地図から、ソウヤへと視線をスライドさせた。
「それで、お前たち銀の翼商会はこれからこの拠点を回るつもりらしいな?」
「ん? 王国が対処するから、商人は余計なことをするなってか?」
「いや、お前たちほど頼りになる者はいない。こちらとしては銀の翼商会の参加は大いに歓迎する」
「そりゃどうも」
国の安定、平和なればこそ安心して商売できる世界である。戦場は商人にとっても少なからず利を得る機会ではあるが、個人的にはやはり戦争はないほうがいい。
「で、王国からうちらに希望とかあるのか? どこの拠点を調べてきてほしいとか」
「それはあるが……その前にこれを」
神妙な調子でカマルは懐から一枚の手紙を出した。王家の封蝋で留められている手紙だ。――機密書類ってやつか。
「この手の手紙って面倒事の予感しかしないが……。お前、内容はわかる?」
「もちろん。私のことが書かれているからな」
「へぇ……」
封を開けて手紙を確認。――なるほど、確かにカマルのことだ。
「お前を銀の翼商会に派遣する、と」
「出向というヤツだ。世話になる」
「まだお世話してやるとは言ってないぞ」
カマルが銀の翼商会に来る。手紙ではそうなっている。
「監視か?」
「何かよからぬことを企んでいるのでなければ問題はないだろう。アルガンテ陛下の本音を言えば、魔王軍との戦いに赴くお前と王国側の連絡役を私に要求しているのだ」
相互の情報の共有や連絡などを、よりスムーズにしていこうというのが狙いだ。カマルは元勇者パーティーの一員であり、ソウヤや他の仲間たちとの交流があるので、意思の疎通も図りやすいと考えたのだろう。
「もちろん、お前にとっても損ではないぞ。王国への報告書は私が引き受ける。魔王軍絡みで地方にゴリ押しも、私の権限を利用するといい」
「なるほど、報告書から解放されるのはいいな」
ペーパーワークは得意ではないソウヤである。カマルが意地の悪い顔になった。
「お前の報告書は、読みにくいからな」
「へいへい、どうせヘタクソですよ」
軽く拗ねてみせるソウヤである。だがすぐに好意的な表情で笑みを浮かべる。
「じゃあ、これからもよろしく頼む、カマル」
「こちらこそ。またお前と共に戦えて嬉しい」
カマルは相好を崩した。
・ ・ ・
カマルが同行すると聞いて、かつての勇者パーティーにいたメンバーたちは、概ね歓迎した。
「やあ、カマル。君もこっちへ復帰か」
カーシュが微笑すれば、カマルも手を上げて軽いハイタッチ。
「まあ、懐かしい顔ぶれが増えてきたな。別に所属したおぼえはないが、復帰というのもわからんでもない」
イケメン諜報員の視線は、レーラやメリンダへと向く。
「先ほどはどうも。そちらもお元気そうで」
「ええ、元気ですよ」
にっこり微笑む聖女様。一方のメリンダは眉をひそめた。
「先日は、故郷の様子を教えてくれてありがとう」
「ソウヤから手紙を受け取ったか? お礼を言う割には不機嫌そうだな」
「別にあなたが悪いわけではないが……わけではないが、あの報告書は思い出しただけで気分が沈む」
「婚約者を妹に寝取られた件か?」
「言わないで!」
両耳を塞いで座り込むメリンダ。信じていた婚約者が、十年ぶりに目覚めたら妹と結婚していた。
「十年も音沙汰がなかったのだ。仕方あるまいよ」
「やだ、あなたは妹の味方なの?」
「今も毎日、名誉の戦死を遂げたお前へ祈りを捧げている健気な娘だ。日々の報告が日課になっている。死んでも慕ってくれているいい妹ではないか」
「……」
メリンダは思い切り渋い顔になる。これにはレーラもカーシュも苦笑いである。
そこへダルがやってくる。
「これは、カマル殿! お元気でしたか」
「ダル殿、ご無沙汰しております」
カマルが、エルフの治癒魔術師には仲間というより上司に対する態度をとった。
かつての勇者パーティー内にも、色々立場があったのだ。
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