第383話、人を動かすこと


「いやはや、ソウヤ殿は人を煽てて使うのがうまい」


 イリクが、そんなことを言った。


「商売をさせられると緊張していた者たちも、むしろ自分たちの本業に近いことをやればいいとわかって、だいぶ落ち着いたでしょうな」

「まあ、適材適所って奴ですよ」


 ソウヤは皮肉っぽい顔になる。


「オレの世界の言葉に、餅は餅屋ってのがあります」

「ほう……。どういう意味でしょうか?」

「餅という食べ物があるんですが、それは餅を専門にしている餅屋が作ったのが一番うまいって意味です。要するに、得意な奴に得意なことをさせたほうがいいって話ですね」

「まさに!」


 イリクは頷いた。


「冒険者上がりには、モンスター狩りはまさに上得意ですな。さらに狩りをしながら訓練で学んだことを実践するとは、一挙両得というもの」


 一石二鳥とも言うな――ソウヤは頷いた。


「ソフィアやセイジ君も、そうやってモンスター狩りをしながら、技と魔法の実践をしていたのですね。なるほど、短時間で強くなるわけだ」

「まあ、今回は魔族が絡んでいるかも、ってことで動いているけど、本当のところは『仕入れ』目的だから、そこのところは忘れてもらっては困りますが」

「きちんと商人の仕事をしているわけですな」

「自然のモノを仕入れるって危険がつきまとう」


 特に銀の翼商会のお肉製品は、さまざまなモンスター肉である。


「料理にしてよし、販売してもよし。モンスター討伐は、治安維持やスタンピード阻止の観点から大いに推奨されているから、やらない手はない」

「商人の仕事をしながら、冒険者としての治安維持活動も並行して遂行できる。何と効率がよいのでしょうか!」


 ――ほんと、一石何鳥だろうな、これ。


 ソウヤは苦笑する。


「ところで、ソウヤ殿。私は仕入れメンバーに入っていませんが……」

「やりたかったですか?」


 人数が多いから全員を送り出すことはしなかった。魔王軍が絡んでいた時のために予備戦力として残しておこうと思ったのだ。


「実は私も個別レッスンを希望したい口だったので」

「なるほど」


 宮廷魔術師殿は年甲斐もなく勉強する気満々らしい。そのためにここへ来ているのだから当然か。


「今回に限らず、活躍を認められた者には個別レッスン権利を与えましょう」

「わかりました」


 イリクはまんざらでもない顔で頷いた。


 何だか馬の目の前にニンジンをちらつかせているようで複雑な気分だが、これで人のやる気に火がつくのなら、そう悪い手でもない。



  ・  ・  ・



 エイブルの町のダンジョンの仕入れ兼、探索に向かったのは24名。


 6人で1組。それが四つに分かれる。


 班のリーダーはミスト、ジン、カーシュ、オダシューが務めた。


 ミスト班には、リアハとソフィア、新人が3人。


 ジン班は、セイジと新人4人。


 カーシュ班はガルとダル、新人3人。


 オダシュー班はアフマル、アズマと新人3人である。


 リーダーにはそれぞれアイテムボックスを持たせてあって、仕入れで仕留めたモンスターはそちらに全部ぶち込めるようにしてある。


 ソウヤは、アイテムボックスハウス近くでまったりお茶をしている。


「レーラのいれてくれるお茶は落ち着くなぁ」

「ありがとうございます、ソウヤ様」


 微笑み天使。聖女様は今日も癒し空間を提供してくれる。魔法の効果ではないが、ポカポカしてくるのだ。


 近くには同じように休憩中の者がゆったり過ごしている。いや、正確にはそれぞれあるモノをガン見しているというのが正しい。


 かたや、クラウドドラゴンとアクアドラゴンが、人間形態で組み手をやっていた。


「見たことがない型ですね」


 レーラがドラゴンたちの武術を見やる。ソウヤは答えた。


「ドラゴンの姿と人間の姿じゃ動きが違うからな。クラウドドラゴンが長年の人間観察で磨きあげたオリジナルだってさ」

「アクアドラゴンは……?」

「ありゃ人間の姿での格闘が不得意ってんで、クラウドドラゴンに教わっているらしい」


 ドゴォッと凄まじい衝撃音がした。アクアドラゴンの鉄拳が地面にぶつかったのだ。アイテムボックス空間の地面は土ではないのでへこんだりはしないが、もしこれが普通の地面だったら、どうなっていたことか。


「格闘が不得意……?」

「パワーは人間のそれとは違うからな」


 苦笑いするしかない。ドラゴンたちの格闘を熱心に見つめる新人たち。


 一方で、ガシャンガシャンと機械音を響かせているのは操縦型ゴーレム『アイアン1』の量産試作モデルだ。


 ちなみに乗っているのは人間形態のフォルスである。


「がしゃーん、がしゃーん!」


 子供が玩具で遊んでいるようにしか見えない。なお、アイアン1量産モデルのすぐ近くには、機械人形であるフィーアと彼女専用のゴーレム。


 ゴーレムの使い方を教えているらしい。


「しかし、フォルスはゴーレムの動かし方なんて教わって何をするつもりなのかねぇ」

「好奇心じゃないですか?」


 レーラがやんわりと言った。


「男の子って、ああいう強そうなもの好きですし」

「わかる」


 ロボットとか戦隊ヒーローとか。単純に乗り物も好きだ。しかし、それはドラゴンもどうなのだろうか? 


「人のやっていることを無性にやりたがるところがあるよな、子供って」


 なお、これは子供に限った話ではなかったようだった。


 操縦型ゴーレムが動いているのを、イリクとその息子サジーが、食い入るように見つめていた。


 兵器に使えるとか、そういうことを話しているのだろうか。いや、イリクの目は好奇心そのもので、傍目にもキラキラしているように見えた。


「そういえば、ソフィアもアイアン1を初めて見た時、やたら興奮していたな」


 段差が登れるとか、走れるだったか。記憶を掘り起こし、ソウヤは生暖かな目になる。


「親子だなぁ」


 ソウヤはお茶を飲み干すと席を立った。筋肉をほぐして、ちょっとした運動を――と思っていたら、新人の戦士ナダがやってきた。


「ソウヤ殿! ぜひ、手合わせをお願いいたします!」


 竜の威圧にびびりながらも屈しなかった東方出身の彼は、実にやる気がある。


「おう。お前、死ぬぞ」


 心意気は買うが、魔王をぶっ飛ばせる豪腕とまともにやったら人間など即死である。突っ込んでくるトラックにはねられても無傷、くらいでなければ。


 ――はてさて、ダンジョンに行った連中は今頃どうしているだろうか?

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