第384話、今回は白でした
結論から言ってしまえば、エイブルの町のダンジョンに魔王軍の残党は確認できなかった。
二日ほど仕入れ作業を行ったが、大量のモンスター素材を回収できた。これにはアイテムボックス様々だと、特に冒険者組からの発言が相次いだ。
「モンスターを丸々持ち帰れるって、やっぱり凄いなぁ」
「まったくだ。これまでは希少部位か、撃破証明の部位しか持って帰れなかったからな」
その収容容量については黙っておく。言わなきゃ案外、聞かれなかったりするものである。アイテムボックスを持っているのが古参組だから、適当なことを言ってはぐらかしたのだ。
ソウヤは班長を務めた四人を集めて話を聞いた。
「新人たちはどうだった?」
「手のかからない子たちだったわ」
ミストがそう評した。
「まったくの素人じゃないもの。弟子入りを志願するだけあって、皆モンスター相手の戦闘は経験済みだし」
「なるほど」
ソウヤが頷くと、カーシュが口を開いた。
「個人プレーに走る者もいたけどね。そこは集団での経験があまりないパターンだろうね」
「おれのとこにもいましたね」
オダシューが腕を組んだ。
「なまじ腕がいい奴らばかりなんですが、自分の力で解決してきた経験と自負ってやつでしょうな」
「特にトラブルにはなってないか?」
「問題というほどではないですね」
オダシューはこめかみをかいた。
「まあ、その辺りは慣れでしょうな。繰り返しますが、奴ら腕はいいんで、あまり制限をかけずにやらせたほうが上手くいくこともあるでしょう」
王都の精鋭魔術師、腕に覚えのある者たち――少なくとも、今回採用した者たちは後方支援や商人業務採用を除けば、ズブの新人はいない。
「即戦力という点では頼もしいな」
「基礎から教える必要が少ないという点は助かる」
ジンがあごひげを撫でた。
「まあ、学校卒業者ならともかく、指導が師匠によっててんでバラバラなのがネックではあるがね。意外なところで知識の抜け落ちがあったりする」
「そういや、爺さんの班にはティスがいたな」
魔法格闘士の少女。格闘が基本だが、その拳や蹴りに魔法を重ねたり飛ばしたりする一風変わったスタイルを持つ。
「あれは格闘の延長と考えているから、他の魔術師とは分野が違う。ただ魔力の応用の仕方がユニークだから、他の魔術流派を取り入れたりすると面白くはある」
「へえ、それは興味が出てきたわ」
ミストがニヤリとほくそ笑む。ジンは微笑した。
「魔法について学びを深めると、大化けするだろう。ソフィアやセイジのような」
「お、注目株か」
ソウヤが言えば、ジンは頷いた。
「まだ若いからね」
「最年少だっけ」
「12……らしいから、そうだな」
老魔術師はミストを見た。
「ティスのスタイルは、むしろドラゴンのそれのほうが近いかもしれない。クラウドドラゴンあたり」
「彼女、人間に教えるつもりなんてないと思うわよ」
「ソフィアには教えていなかったか?」
「あれはワタシが教えていたからよ。あの人、基本気まぐれなんだから」
ドラゴンは人を下等な種族と見ている。ミストなどは積極的に関わっているが、他のドラゴンたちに過度な期待はしないほうがいい。
――まあ、そのドラゴンたちはアイテムボックス内で気ままに暮らしているがな。
そう考えると実に奇妙な光景だろう。伝説の四大竜のうちのふたりが、同じ場所にいて、影竜が子供たちを育てている。
このような環境は世界でも類がないだろう。そもそもドラゴンは単独でいることがほとんどで、複数いる銀の翼商会が異常なのだ。
・ ・ ・
エイブルの町冒険者ギルドへ行ったソウヤは、ギルドマスターにダンジョン内に異常が見られなかったことを報告した。
魔族の姿はなし。そう聞いて、スタンピードの再発かと警戒していたガルモーニはホッと息をついた。
「そうか、それは何よりだ」
「とはいえ、今は確認されなかったってだけで、これからもそうとは限らん」
病気と同じだ。今は健康でも突然かかってしまうこともある。ずっと安心が続くわけではないのだ。――続いて欲しくはあるが。
「そういうわけでオレらは次へ移動する。……何かあったら知らせてくれ」
文字通り、飛空艇で飛んでいくから。
ソウヤはガルモーニに連絡用アイテムボックスを渡した。取引先に渡しているそれと同じで、アイテムボックスの共有化スペースを利用して手紙などをやりとりする。
「これからどこに行くんだ?」
「街道に沿って取引のある集落を巡りながら、東かな」
集落巡りは行商としての付き合いはもちろん、魔王軍残党が悪さをしていないかの確認でもある。魂狩りによって滅びてしまった集落もあるから。
「なあ、ソウヤ。ひとつ、頼まれてくれないか?」
「何だ?」
「カエデは覚えているか?」
シノビ少女。記憶違いでなければ14歳で、冒険者をやっている。以前カリュプスとウェヌスという暗殺組織同士の衝突の際に巻き込まれて怪我を負った。あれからしばらく経っているが――
「もちろん。……彼女に何かあったのか?」
「それを含めて相談なんだが……」
どこか歯切れの悪いガルモーニ。やがて意を決したらしく言った。
「彼女を、銀の翼商会で預かってはくれないか?」
「うちで?」
まんざら知らないわけではないが、かといって親しいというほどでもない。
「説明してもらえるか? こっちも、理由も聞かずに、いいよと頷けるほど、慈善団体じゃねえし、託児所でもないんだが」
「それはそうだ。だが、これはあくまでこちらの個人的な都合というか……」
奥歯に物が挟まったような言い方をするのは個人的な事情だからか。ソウヤはある程度納得した。
「わかった。話を聞かせてくれ」
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