第376話、面接会


 魔法大会優勝者への弟子入り希望で銀の翼商会を訪れた者たち。発着場関係者を巻き込んで、面接の日時を通告した。


 バラバラの時間にやってこられて、それをいちいち相手をしていると、こちらが仕事ができない。


 だから、いついつやりますよ、と伝えることでソウヤたちは自分たちの時間を作ることができた。


 かくて、面接当日。


「はい、お集まりの諸君。まずは銀の翼商会へようこそ。私はジン。見てのとおり魔術師だ」


 老魔術師は集まった者たちを見回した。冒険者、魔術師、商人らしい者もいる。ざっと四十人くらいか。


「六色の魔術師やティーガーマスケに憧れてやってきた者も多いだろう。だが先日通告した通り、弟子入りの条件には、この商会での労働をする義務が発生する。ただ修行したい、強くなりたいだけのために来た者は、お引き取り願う」

「おーい、じーさん、話なげーよ!」


 志願者のひとりが野次を飛ばした。


「死にかけ老人より、早くソフィア様から教えてもらいたいんだ――」

「……」


 すっとジンは目を細めた。野次を飛ばした男が急に首を押さえて黙り込む。周囲は訝しむ。


「ちなみに、私はソフィアの師匠でもある。六色の魔術師を上回りたいと思うなら、私の機嫌を損ねないことだ」


 集まった者たちの表情が驚きに変わる。あの六色の魔術師ソフィアの師匠自らが現れたのだから。


「ちなみに、ソフィアは私ともうひとりの師匠のもとで今後も修行を続けるので、正直に言って魔法関係の指導は私から君たちにすることになる。いい子にしていれば、ソフィア並に強くもできるが、死にかけ老人の指導が嫌なら、今すぐ帰ってくれ。私も暇人ではないのでね」


 さあどうだ、と言わんばかりにジンが見渡せば、誰も反論も野次も飛ばさなかった。


「よろしい。とはいえ、全員が魔法が目当てというわけではないだろう。ティーガーマスケことセイジ君の師は別にいるから、そちらからも指導を受けられる。だが、その前に面接と簡単な試験を受けてもらう」

「試験……?」


 声が上がった。老魔術師は頷いた。


「先にも言った通り、うちは銀の翼商会、行商だ。ソフィアもセイジも商会の一員で仕事をしている。君たち志願者も商会のための仕事をしてくれないと不公平だろう?」


 志願者たちは、またも驚いたような顔になる。魔法大会を制した魔術師と魔法戦士が商人の仕事をしている――それに軽い驚きを受けたのだ。


「あの……質問をよろしいでしょうか、ジン殿」


 年かさの魔術師らしき男が手を挙げた。ジンは頷いた。


「どうぞ」

「具体的に、仕事とはどのようなことをするのでしょうか?」

「我が商会は行商。つまりはそれに関係することだ。ただ、仕事内容は多岐に渡るので、簡単には説明できない。各人の能力や才能に応じて変わるのでね」

「つまり、商人の経験がなくても、さほど問題はないと?」

「それが理由で、落とされることはない」


 何人かがホッとしたような顔になった。ジンは笑みを浮かべた。


「ちなみに銀の翼商会は、魔術師のほか、騎士や治癒術士、元暗殺者、研究家など、およそ商人と関係なさそうな者たちが多くいる。……これで安心したかな」


 複数の志願者が苦笑した。


「それでは諸君、まずは簡単なプロフィールを作ってもらう。冒険者の諸君は、ギルドへ登録した時の受付のようなものだと言えばわかるだろう」


 ジンは全員を見回した。


「我々は諸君ら全員を採用できるほど余裕がない。だがきちんと見た上で判断したい。のちの面接に使うので、情報は正しく書いてもらいたい。あまりに虚偽がひどい場合は素質関係なく落とすのでそのつもりで」


 ジンは振り返り、待機していたオダシューを見た。


「ようし、新人ども! プロフィールを作ってもらう! 字が書ける者は右の机で書け。書けない者は左の机で係の者に代筆してもらうように!」


盗賊の親分のようなオダシューが語気を強めた。


「行儀よく並べよ。ここでの順番は採用には関係ないから、他人を妨害したり蹴落とすような行動はするな。ここは商人の集まりだ。お行儀よくできない奴は即刻、不採用だ!」


 ゾロゾロと志願者たちが動き始める。係の者はカーシュやダル、カリュプスメンバーである。いずれも戦場経験が豊富で、そこらの冒険者や魔術師に臆することがない面々である。


 志願者の中には、採用に有利になろうと係の者に話しかける者も何人かいた。特に声をかけられたのは、係の中で唯一の女性であるトゥリパだった。


 しかし仲間内から『微笑みの殺し屋』の異名を持つ彼女は、ただニコニコしているだけで突っ込んだ話はしなかった。だが、しつこく聞いてくる者もいて――


「いいから黙って書け」


 笑顔全開で威圧し、黙らせていた。


 特にこれといってトラブルもなく、プロフィールができた者から、ゴールデンウィング二世号の甲板へと上がった。


 そこから順番で、中の船室――面接会場に通された。


 ソウヤがいて、ミストがいて、ジンがいた。記録係で機械人形のフィーアがいて、オダシューが警備員よろしく立っていた。


「ようこそ、銀の翼商会へ。リーダーのソウヤだ」


 まずは挨拶から入り、作成してもらったプロフィールを受け取る。


 ――バーガデッシュ。何だかお腹がすいてくる名前だなぁ。二等魔術師。従軍経験あり、か……。


 書類を一通り見ながら、時々口頭で確認を入れる。


「今回の志望の理由は……やはりソフィアの活躍か」

「はい。彼女は大会の間、素晴らしい活躍でした。六属性を操るという、それだけでも特筆に値します」

「九属性だよ」


 ジンが口を挟んだ。


「ソフィアは九つの属性の魔法が使える」

「!?」


 バーガデッシュ魔術師は、目が点になっていた。ソウヤは手を振った。


「『友好的なドラゴンがいた場合どうするか』の質問に、あなたはこう書いた。『ドラゴンは獣であり、友好的などはあり得ない』と。これはそのままの意味か?」

「ええ、もちろんです」


 若き魔術師は自信たっぷりに答えた。


「私は戦場で、亜種のワイバーンと遭遇したことがありますが、あれはまさしく凶暴な獣でありました。その上位種であるドラゴンも、実際のところは魔獣の類いです。ゆえに、友好的なドラゴンなどいません!」


 ――あ、こいつ落ちたわ。


 ソウヤはそれとなく隣のミストを見た。黒髪美少女姿の上位ドラゴンさんはご機嫌斜めである。


「ひとつ、忠告しておこう、バーガデッシュ君」

「はい?」

「ドラゴンは優れた知能を持った種族だ。うちの商会は、そんなドラゴンとも取引があるんだ。……ちなみに、ドラゴンはワイバーンと一緒にされるのが大の嫌いだ。覚えておくように」

「は……はい」


 ミストが無言で威圧をぶっ放していた。哀れ青ざめるバーガデッシュ魔術師である。

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