第372話、棚からぼた餅な銀の翼商会


 セイジとソフィアが公認カップルとなった。


 よかったね、と淡泊ながら祝福したソウヤであるが、これからが大変だろうと、アルガンテ王に言われた。


「魔法大会優勝者二人が、銀の翼商会に所属しているのだ。セイジとソフィアが注目されるなら、当然、銀の翼商会も注目されるだろう」

「商売のチャンス……とばかりは言えないでしょうね」


 ソウヤは皮肉っぽく言う。アルガンテ王は頷いた。


「知名度は上がっただろう。大会の結果は国中に知れ渡る。大会初の六色の魔術師が出て、さらにそれを倒した魔法戦士が出た、など話題には事欠かん」


 その二人が、銀の翼商会にいるというのも噂として広がる。結果、予想されるのは――


 ソウヤが、老魔術師に視線を向ける。


「弟子入り、あるいは銀の翼商会への入社希望者が複数現れる」


 ジンはそう答えた。


「天才魔術師に弟子入り志願というのはよくある話だ。そしてセイジの戦いぶりもまた、その技を学びたいという者もいるだろう」

「そうですなぁ」


 イリクが真面目な顔になる。


「許されるなら、我が一族や王都魔術団からも、いきの良い者を何人か鍛えてもらいたいくらいです。そう考えるのは、何も私だけではないでしょうな」


 どうですか、という視線をソフィアの師匠たちに向ける。ミストは口をへの字に曲げた。


「大勢の面倒を見る気はないわ」

「ジン殿?」

「まあ、十数人を見るのは面倒ですが、何人かなら。……もちろん、社長であるソウヤの意思が優先ですし、商会の仕事もしてもらうことになると思いますが」


 ――おいおい、ここでオレに振るのかい?


 ソウヤの言いたいことが顔に出たのか、ジンは肩をすくめた。


「もちろん、面倒が見切れないと断ってくれてもいい。銀の翼商会は君のものだからね」


 魔術を教えるということは、必然的にその弟子たちが商会についてくるということになる。大所帯になるとなれば、長であるソウヤが決めるのは当然だった。


 責任者に話を通しておくのは筋である。ジンに決定を委ねられたことを、ソウヤはそう理解した。


「ソウヤ」


 アルガンテ王が期待の眼差しを向けてくる。ソウヤが元勇者で交友関係になければ、国王命令とか無茶もあり得た。だが王はそれをしなかった。友情の賜物である。


「爺さん、ひとつ聞くが……何故、弟子を受け入れる気に?」

「今後の情勢を考えると、王国には優秀な魔術師が必要になる」


 老魔術師は真剣だった。


「今回の魔法大会でも、魔王軍が密かに活動していた。そこでの行動を見る限り、魔族が人間に牙を剥くのも、さほど未来の話ではない」


 人間の魂を集めて魔王を復活させようと企んでいた魔族。魔王軍の影がちらついている。来たるべき戦いに備えて、国の魔術師の戦力アップを図ろうというのだ。


「我々から学んだ魔術師が、さらに国の魔術師たちにその技を伝える。それによって国の魔術師のレベルを上げる。今回の大会でソフィアが見せた魔法とその技術が、余すところなく広がれば、それも可能だ」

「うむ、素晴らしい!」


 アルガンテ王が手を叩いた。イリクは驚愕した。


「なんと……魔術の積極的な開陳。魔術師ならば、己の術を他人に見せるのを避けたがるものですが、ジン殿は、国のために教え広めようとなされる。真に偉大な魔術師とは、あなた様のことだ!」


 突然、イリクは膝をついてジンに頭を下げた。


「このイリク、感銘を受けました。私にできることならば、何なりとお申し付けください」

「承知した。……いいかな、ソウヤ?」


 ジンは確認を取る。ソウヤは頷いた。


「いいも悪いもない。それで魔王軍との戦いで犠牲が減るっていうなら、ドンドンやるべきだ」


 決して他人事ではないのだ。それだけ魔法大会の裏で進行していた魔族の企みが、ショッキングだった。表に出ていないだけで、魔族は暗躍している。


「ソウヤ、貴様には助けられてばかりだ」


 アルガンテ王は言った。


「先の褒美もそうだが、お前と銀の翼商会には我が国であらゆる支援と便宜を図らせることを約束しよう」

「税金は?」

「免除だ免除。こちらの依頼絡みで魔術師たちの指導の報酬も支払う。頼んだぞ、ソウヤ」

「承知いたしました」


 ソウヤは一礼した。とっさに税金のことを聞いてしまったが、王族相手でも商人らしくなってきたのかもしれないと思った。



  ・  ・  ・



 その後の大会祝賀会は、参加者のほか有力貴族ら商人らも招かれていた。


 大会上位者たちには、スカウトや装備の提供などの申し出があって、今後の人生にもかかわる。


 当然、シューティング全制覇、バトルロイヤル優勝者であるソフィアと、トーナメントの優勝者であるセイジは一番注目された。


 が、その二人のそばにはソウヤがいて、イリクがいて、さらにアルガンテ王がいることで、機先を制した。


 二人が銀の翼商会の所属であり、カップルが成立したことをアルガンテ王が大々的に宣言した。自分の息子、娘を、と狙っていた貴族たちを牽制したのだ。


 さらに銀の翼商会は王室御用達の行商であることが宣伝されたことで、ソウヤへの挨拶が増えた。


「お噂はかねがね――」

「飛空艇を保有されているとか――」

「浮遊バイク。あれは取り扱っていないのですか――」


 魔法大会はソフィアとセイジが主役だったはずだが、気づけばソウヤの銀の翼商会が目立つ格好となった。


 ――いや、これはチャンスだ!


 有力な商人たちと接点ができる。彼らが扱っている商品を、アイテムボックス経由で取り扱う『欲しいものは何でも取り扱っている銀の翼商会』というスーパー行商に、また一歩前進である。


 ――そう考えると、社交界とかセレブパーティーって、やっぱ大事なんだなぁ。


 それなりに力を持っている人や、専門家など色々な人物と出会える。


 面倒そう、というか、あまり縁がなかったと済ませてきたが、これからはそちらも積極的にかかわっていくべきだろう。


 いきなり飛び込んでも相手にされないが、王室御用達というだけで周りが放っておかない。これを利用しない手はない。


 アルガンテ王は貴族たち、ソウヤは商人たちに囲まれた。ソフィアとセイジはといえば、魔術師や一部貴族らと親交を深めていた。


 豪勢な食事が出たが、ソウヤはそれらを楽しむ余裕がなかった。


 終わってみれば、メンバーの個人問題だけに留まらず、銀の翼商会の発展に大きく影響することになった。

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