第356話、ベスト8、出揃う
何が起きたのか。
早撃ちのフルグルが、開始早々に魔法を放った。だがティーガーマスケは剣でそれを防ぐと共に、反射の魔法がかかっていたそれで撃ち返した。
結果、フルグルは自分の放ったライトニングを食らってやられたのだった。
「恐ろしく速かった」
ジンは感心した。
「相手の早撃ちもだが、セイジもよくあれを跳ね返したものだ」
「ガルたちに鍛えられたからな」
ソウヤは言ったが、正直、あそこまでセイジが腕をあげているとは思っていなかった。
「恐ろしく度胸はいるな。どこに飛んでくるか、予め想定していたにしても」
「セイジは、どこにライトニングが飛んでくるかわかっていたというのかい、ソウヤ?」
「ああ、フルグルの奴は、相手の額を狙った」
ソウヤは自身の額を指さした。
「2回戦で、奴は、そうやって相手を倒した。爺さんも言ったろ? ライトニングは意外と命中範囲が狭いって」
「言ったな、うん」
「それなら、的が小さい頭を狙うより胴を狙ったほうがいいんだ。護符が発動すれば勝ちなんだから、命中しやすいところを狙うべきだろ、普通」
「にも関わらず、フルグルは相手の頭を狙った……」
「自分の早撃ちと、その命中精度によほど自信があったんだろうな。的が小さくても、百発百中なら、好きなところを狙えるわけだし」
「それで相手魔術師に確定的にわからせるために頭を狙う、か」
ジンは顎髭を撫でた。
「なるほど、実に魔術師らしい思考だ」
「だが、その自信が奴の足をすくったわけだ。どこを攻撃するかわかれば、そこに反射の魔法をかけた武器を置くだけで、跳ね返してくれる。何せ、狙いは正確だからな」
ソウヤは口元を歪めた。
――もっとも、その跳ね返した弾の軌道を、相手に当てるって芸当は、セイジの腕なんだがな。
角度が違えば、明後日の方向に跳ね返る。軌道をきちんと敵に当てたのは、偶然か、それとも狙ったのか。
「何にせよ、ティーガーマスケは相手の魔法を利用して勝利。これでベスト8だな」
「素晴らしい。だがここから先は、一筋縄ではいかんと思うよ」
老魔術師は鷹揚に告げた。
ここまで来れば、もはや運のみで勝ち残っている者などいない。
全員実力者。それも独自の魔法や戦術を持っている者もいるだろう。
セイジはここまで手札を温存してきたが、果たして決勝まで戦い続けることができるだろうか?
・ ・ ・
3回戦は進行する。これまでより試合数は減っているが、長引く試合も少なくなかった。上位術者ばかりだから、実力が拮抗してきたのか、激闘が繰り広げられる。
ソフィアもまた、上級魔術師として知られる男、スゴンと対戦した。
「舞え! ウォーターサーペントッ!」
水の巨大へびが噴水の如くわきあがり、頭上からソフィアを襲う。
防御魔法を展開。土砂降りのように降りかかる水竜、もとい水流を弾いて流す。
「ファイアランス! ×10!」
水流を避けて、炎の槍が投網のように広がって、スゴンに迫る。
「シールド!」
スゴンは多重の防御魔法を使い、ソフィアの炎の槍をすべて防ぎ、相殺する。
「やるじゃないか、グラスニカのお嬢さん! だが、これはどうかな? ダブルスペル!」
スゴンは右手から雷、左手に氷の塊を形成し飛ばした。
二種類の攻撃魔法を同時に使う。無詠唱しつつ、別の魔法を具現化させるは高等魔術だ。
「障壁!」
ソフィアは防戦を強いられる。スゴンはさらに火の玉、衝撃波と別属性を繰り出す。
「速度の違う魔法だ! どうするね!?」
「ふ、フン! 同時に二つ。それを連続して使ってるってだけで、要は全部防いだら同じよね!」
ソフィアは後退する。魔法の速度差を利用して回避しやすくするために距離をとったのだ。
「二つ同時に思考するのは簡単じゃない。あなたもいっぱい練習したんでしょうね。でも、残念!」
ソフィアは魔力を凝縮して不可視の巨大キューブを放つ。
「あいにくと、私の知り合いには、トリプルで同時魔法を使っていた奴がいたのよね!」
「トリプルスペルだと? フフ、そんな馬鹿な――」
スゴンはかすかに驚くが、はったりだろうと思った。だがそのわずかな動揺は、次に起きた現象によって驚愕に変わった。
「な!? 魔法が消える!?」
スゴンの放った魔法が、何もない空間で突然、爆ぜた。防御魔法か、と思ったが、スゴンの攻撃魔法がみるみる消されて、さらに迫ってくる。
「透明の壁!?」
「浸食ー、からの! 爆発!」
スゴンの防御魔法を飲み込み、透明の壁――キューブは爆発魔法に変わった。
魔力の塊を投じて、形を変えて発動する。原理は魔法カードと同じだ。
爆発魔法により、スゴンは護符発動の退場となった。観客たちは、決まり手が何かはわからなかったが、最後は派手な爆発でスゴンが退場したので、何らかの魔法が発動したのだろうと歓声を上げた。
ソフィアは、ふぅと息をつき、審判の勝利宣言を背にリングを後にする。
ミストとリアハが待っていた。
「お疲れさまです、ソフィア!」
「ありがとう、リアハ」
「だいぶ手こずったようね」
ミストが意地悪く言うので、ソフィアは口を尖らせる。
「師匠知ってます? あのスゴンって人、大会初日で四属性に参加していたんですよ」
「だから?」
「ここまで勝ち残ってきた通り、強い人だったんですよ?」
「でも、あなたは初日に六属性全部を制したじゃない。つまり、あれはあなたに全部負けたってこと」
ミストはニヤニヤした。
「そして今もね。あなたが勝った。誇りなさい。あなたは強い」
「強い……」
魔法が使えなかった。ミストやジンと出会い、魔法を教わった。偉大すぎる師匠二人に教わった影響か、自分の実力についていまいち実感がなかった。
六色の魔術師の名を得たが、シューティングは魔法そのものを見せる種目。昨日のバトルロイヤルや今日のトーナメントは、『戦える魔術師』としての腕の見せどころだ。
百戦錬磨の上級魔術師相手にどこまでできるか、ソフィアは確信が持てていなかった。だからバトルロイヤル優勝後のインタビューで強気な発言をしたことで、めちゃくちゃ動揺したのだ。
ただ、1対1でも自分が上級魔術師たちと互角以上に立ち回っている。それについて、ミストの言葉に嘘はなかったと、ようやくソフィアは実感しはじめていた。
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