第355話、残り32人


 1回戦が終了した。有力者は軒並み勝ち進み、2回戦が始まる。


 セイジ――ティーガーマスケが先陣を切る。


 対戦相手は、疾風のメテオーラ。風を操る女魔術師だ。


「魔力よ、我を守る盾となり、敵の攻撃を阻め、プロテ――!?」


 開始早々、防御魔法を詠唱するメテオーラ。だがティーガーマスケは何かを投げた。


 しかしそれは、ティーガーマスケとなり、メテオーラの眼前に、瞬間移動のように現れた。


 もうほとんど目の前に飛びかかってきた虎マスクの戦士の姿に、メテオーラは驚きのあまり詠唱が途切れてしまった。


 ぶつかる――!?


 防御魔法を失念してしまい、身構えたメテオーラだったが、意外なことに衝突はなかった。


 うっすら目を開けた時、剣を構えたティーガーマスケがいて、次の瞬間、斬撃を食らって転送退場となった。


『おおーと、ティーガーマスケ、またもや相手を瞬殺ぅっ! しかしぃ、今のはいったい何だったのでしょうか?』


 実況者も困惑する状況。観客たちも歓声半分、戸惑いも大きかった。


『一瞬、ティーガーマスケが二人になったように見えたのですが……』

『ええ、メテオーラ魔術師は、驚きのあまり、とっさに詠唱を中断してしまいましたねぇ。ティーガーマスケは、分身の魔法を使ったのかもしれません』

『分身というと、東方のニンジャなる影の戦士が使うという……?』


 などと実況席で実況と解説者がやりとりをしている。


 ソウヤは苦笑した。


「そりゃ、女からしたら目の前に男が飛びかかってきたら、ビックリするだろうよ」


 わかってやってたのなら、セイジはエゲつないな、と思う。


「爺さん、今の魔法は、解説者のいった通り分身か?」

「魔法カードに、自分の姿を投影したものだろう。効果としては分身みたいなもので間違いない。加速魔法で肉薄するより速く相手の懐に飛び込んで虚を衝き、怯んだ隙に、本体が接近し、切る」

「あの投げ方、カリュプスメンバーから教わったのかな?」

「ああ、暗殺者の投げ方だったね」


 ジンは目を細めた。


「魔法大会ではなく、普通の武術大会だったら、投げたのは投げナイフや手裏剣だったかもしれないね」

「勝つには勝ったが、手のうち見せていいのかね?」


 ソウヤは首をかしげる。


「1回戦と同じ勝ち方もできたんじゃね?」

「かもしれないし、そうではないかもしれない。セイジは、相手がライトニングの早撃ちを警戒していた時のことを考えたのだろう」

「というと?」

「ライトニングは弾速は速いが、その命中範囲は意外と狭い」


 ジンは目を細めた。


「相手がライトニングを使う、と確信できるなら、防御魔法が間に合わなくても回避できる可能性が出てくる。開始早々に左右どちらかに逃げれば、直撃を避けられるかもしれない」


 もちろん、避けきれない可能性もあるが。


「そしてセイジが警戒したのは、疾風のメテオーラ、彼女が1回戦で見せた、見えない風の斬撃、カマイタチだろう。ライトニングを回避すると同時に、カマイタチを放たれたら、逆にやられてしまうかもしれない」

「なるほど……」

「分身は、その目くらましだと思う。彼女がとっさにカマイタチを使ったとしても、狙われるのは肉薄した分身のほうだろうからね。その隙に、セイジ本体は距離を詰めて、メテオーラを切る、と」


 対策された場合を想定しての行動、というわけか。ソウヤは腕を組む。


「よく考えているなぁ」

「そりゃあ、観客気分の君と、実際に戦う彼では考えの中身が違うさ。君だって、自分ならどう戦うか、と真剣に考えたら、君なりのやり方を突き詰めていくだろう」

「そうだな。まあ、大会に出ないから、部外者気分だったのは認める」


 のんびり優雅に観戦である。


 ――次にセイジがぶつかりそうな相手を、ちゃんと見ておかないとな。


 ソウヤが見守る中、2回戦は展開される。その結果、ティーガーマスケが次にぶつかる相手は、早撃ちのフルグルと言われる雷魔法使いになった。


 無詠唱でライトニングを撃ち込み、こちらも相手を瞬殺して2回戦を突破した男だ。


 会場では早くも早撃ち対決が見れるか、と観客たちの中から聞こえてきた。


「相手が防御魔法を展開する前に、その頭を撃ち抜く……。厄介そうだな」


 果たして、セイジはどう対応するか。


 さて、トーナメントは続く。2回戦の最後の試合となり、ここで今日初のソフィアの魔法が炸裂した。


 相手の炎使いが展開した炎を、腕の一振りで巻き起こした強風で吹き飛ばし、サンダーボルトの魔法で一撃撃破。


「こりゃまた派手だね」


 ソウヤは、そうソフィアの魔法を評した。観客は大歓声である。彼女の魔法は非常にわかりやすく、観客の受けが大変よいようだった。


「圧倒的強者感があるな」

「誰に似たんだかね」


 ジンが苦笑している。


「私じゃないぞ」

「ミストかな?」

「ああ、きっとそうだ」


 老魔術師は、そう真面目ぶるのだった。


 2回戦が終わり、続く3回戦の開始である。


 トップバッターはティーガーマスケなので、ソフィアの試合のすぐ次に、彼の試合となる。


 3回戦、残っているのは16名である。


「勝てば、ベスト8」


 東側からティーガーマスケがリングに上がれば、西側からフルグルが上がってくる。


 黒いローブをまとう長身の青年だ。日に焼けた肌と、引き締まった体躯。ただの魔術師とは一味違う空気を感じさせる。


 観客たちは珍しく押し黙っている。どちらも開始早々に決着をつけるタイプ。おそらくこの戦いは、数秒以内にケリがつく。


 その瞬間を見逃すまいと、皆、固唾を呑んでいるのだ。


 二人を見守る審判も、緊張が表情に出ている。


「始め!」


 その瞬間、フルグルがライトニングを放った。


 詠唱していたのではとても間に合わない刹那の魔法。またばきの間に、勝負は決まった。


 フルグルが額にライトニングを食らい倒れながら、転移して消えた。


 残ったのは、一歩も動かず、抜いた剣を顔の前で構えているティーガーマスケのみ。

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