第344話、大会初日


 その日はよく晴れていた。魔法大会が開催の日。


 王都にある円形闘技場は王都住民が集まり、朝から賑やかだった。ソウヤは、民衆でごったがえす場を見回し、息をついた。


「でかい闘技場だ」


 収容人数が何万人規模はありそうである。


「初日は、シューティングって話だったな」


 ソウヤは、売り子勢であるカリュプスメンバーたちへ振り返った。


「では、昨日練習したように、声かけと販売を頼む!」

「了解です、ボス」


 オダシューが頷いた。それぞれバッグ型のアイテムボックスを持ち、見た目以上に飲み物や食べ物を運んでいる。


 ちなみに飲み物は、コップに具現化する魔法カードで配る。魔力で作ったものなので、一定時間で自然消滅するようになっている。ゴミも出ないし、回収の必要もないという実にエコロジカルだ。


「串焼きー、串焼きはいかがっすかっー! 飲み水もありまーす!」


 ソウヤ自身も売り子をやる。


 高い場所にある王族用の席を見ればアルガンテ王らの姿があった。イリクも側近としてそちらにいた。


 初日はソフィアも出場するから、父親としてもイリクは目が離せないだろう。


 一方、セイジはシューティングには参加しないと聞いている。


 これについて師匠であるジンが言うには――


『見世物としての魔法を、セイジはやったことがないから、出ても疲れるだけだ』


 実用性重視。そして正道とはやや外れたセイジの魔法スキルは、むしろバトルで輝く。


『初日に手の内を見せるのも、二日目以降に不利になるしな』


 じゃあ、ソフィアはいいのか? と初日から参加する彼女について聞いてみれば――


『彼女は一族の者たちの前でアピールする必要があるからね』


 それに初日から飛ばしてもへばるような魔力量ではないのも影響している。


『世間にも、グラスニカ家にソフィアあり、と印象づける必要があるのさ。特に魔術師たちの間ではな」


 その界隈で有名なグラスニカ家である。その娘であるソフィアが表舞台に立つのだ。思い切りやれ、ということなのだろう。


「まあ、頑張ってくれ」


 ソウヤは呟くと、仕事に戻った。



  ・  ・  ・



 アルガンテ王から、大会開催のありがたい挨拶の後、初日、シューティング競技が始まった。


 最初は火属性から。時間なども考慮すると、複数の属性を同時に進行させたいところだが、参加者の得意属性がひとつとは限らず、複数にエントリーしている場合、ダブルブッキングを避けるためにも、それぞれ順番となるのだ。


 待っている参加者は、イメトレをしたり、二日目以降の偵察をしたり、あるいは休んだりと時間を潰した。


「全部よ。全部に出るのよ!」


 ミストは、ソフィアにそう言った。


「あなたの魔力量が破格なのを見せつけてやりなさい!」

「はーい」


 師匠がテンション高くて、逆にソフィアは落ち着いていた。


「でも、ぶっちゃけ、私はそんなお行儀よい魔法は使えないんですけど」

「思う存分やりなさい」


 ミストは愛弟子の肩を叩いた。


「あなたが主役よ」


 第一種目、シューティング。簡単に言えば的当てだ。最初は三十メートル先。クリアするごとに的の距離が離れていき、届かなかったり、外れたら失格。最後まで残った者が優勝である。魔法は火属性の魔法なら何でもよい。


「遠距離の標的に正確に当てるのを競う競技だ」


 観客前列にいるジンは、同じく観戦するセイジに言った。


「距離が離れれば離れるほど、魔法に込める魔力を強くしないと届かない」

「しかもこれ、結構、回数撃ちますよね?」


 最後のひとりになるまで繰り返すことになるから。


「そうだ。まあ、それでも百メートル前後が限界だろうがね」


 的も小さく当てづらくなる。特に火属性は、命中までの魔力消費も大きくなる傾向があるので、長距離投射は向かない。


「ただこの競技、穴があるんだ」

「穴?」

「火属性魔法なら何を使ってもいいんだ」


 ジンは、始まったシューティングを眺めて笑みを浮かべた。


「そして、それは何も白線から撃たなければならない、というわけではない」


 ソフィアが指を鳴らした。すると的の近くに火の球が具現化し、的に命中した。数メートルもない、すぐ目の前と言っていい距離で。


「セリアの防御障壁を抜いて魔法をぶつけたのと同じ方法だ」


 ジンは顎髭を撫でた。


「的の至近で具現化させれば、燃焼による魔力ロスも最低限に抑えられる。ソフィアも力まずに済むから魔力温存になる。ぶっちゃけ、この種目、威力は関係ないしな」


 結局、第一種目はソフィアが制した。


「なんだ、あの娘!? 短詠唱だと!?」

「いや、思考詠唱だ! 呪文を唱えていないぞ!?」


 他の魔術師が、杖を使い、仰々しく詠唱するのをよそに、ソフィアはつまらなさそうに淡々と進めていった。


 無詠唱で魔法を使うというだけで上級と見られる魔術師世界。突然現れた美少女が勝ちをさらったことに、周囲の魔術師たちは大いに驚いた。


 第二種目、アイスブレイク。直径1メートル、高さ2メートルの氷の柱を、火属性の魔法で溶かすというもの。


「火力が物を言う競技とされている」


 ジンは解説した。


「第一段階は制限時間内に氷の柱を溶かすというもの。それをクリアすると、次は氷の柱の中に埋まっているものを、燃やさずに氷だけ溶かすという、ちょっとした技術も必要とされるものになる」

「段階的に、難しくなっていく、ということですか?」

「その通り。ただ溶かすだけなら、溶岩魔法でも発生させればすぐなんだがね……。中にものが入っている第二段階の場合、ただ溶かすだけでは駄目ということだ」

「僕には向いていない競技です」


 セイジは自虐的な笑みを浮かべた。


「僕を参加させなかった理由がよくわかりました」

「なに、一日目よりも、二日目以降のバトルで優勝するほうが遥かに注目される」


 ジンはやんわりと言った。


「いまはライバルになりそうな者たちを観察して、明日以降のために準備すればよい」

「はい、マスター」


 セイジは、得意の観察をフルに活用して、参加魔術師たちの魔法を見た。

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