第331話、真犯人がいる……?


 アクアドラゴンは、新しい住処を探すのだそうだ。


 その間の仮住まいとして、ソウヤのアイテムボックス内にテリトリーを置く。


 どこかで聞いた話だとソウヤは思った。


「まあ、古竜がテリトリー探して、あちこちウロウロすると、他の種族がびっくりしちゃうもんな」


 場合によっては自衛のためと称してアクアドラゴンに剣を向け……返り討ちにあう未来が見えた。


「いいじゃないか」


 ジンは言った。


「ドラゴンと仲良くしたって」


 この異世界放浪魔術師は、さらりと言ってのけるのである。ソウヤも、ミストとの交流を含め、ドラゴンとも話し合えると理解しているから、さほど驚くようなものでもなかった。


 もっとも、そう思っているのは限られた人間だけだったが。


「まず、ドラゴンと仲良く、という発想が浮かびませんな」


 イリクは真顔だった。


「ソウヤ殿はそれをいとも容易く実行してみせた。さすがは勇者殿、と言わざるを得ません」

「勇者は関係ない気がするけどなぁ」


 話が通じるなら、まず話してみるのはアリだと思うのだ。ただし魔族には、うまくいった試しがない。


 もちろん、お怒り状態のドラゴンには聞く耳を持たない場合もあるのだが、比較的、話してみたら何とかなるパターンが多かった。


「まあ、支配しようとか従わせようとか、そういう感情なしで接しているのが大きいんじゃないかな」


 ソウヤはそう自己分析する。言われて、イリクは「なるほど」と頷いた。


「確かに、ドラゴンの力を戦いや、自軍の戦力に利用しようと考えてしまいがちですな。銀の翼商会にはドラゴンが複数いて、これらがもし魔族との戦いに参加してくれたら……などと考えてしまいました」

「オレとしては、共に戦ってくれるなら歓迎だけど、参加を強制するつもりはない」


 そもそも、戦ってくれで、うんと頷くものでもない。


 影竜などは、魔族に若干の恨みがあって参戦したが、あれが毎度続くという保証はない。自分のテリトリーと子供たちが優先されるだろうし、事実そうすべきだとソウヤは思っている。


 ミストは、ソウヤと共に戦うだろうが、クラウドドラゴンはわからないし、アクアドラゴンもその立ち位置は不明。古代の四大竜たちに限れば、とくに魔族と接点があったわけではないから特に。


「そういうスタンスだからこその距離感というわけですか」


 考え深げにイリクは頷いた。


「今後の参考にさせていただきます」


 いったい何の参考だ、と思うソウヤである。イリクは宮廷魔術師として、アルガンテ王にも注進することもある立場だ。ドラゴン絡みで何かあった時に、という意味と受け取っておこう。


 かくて、ゴールデンウィング号は孤島を離れ、エンネア王国へと向かった。


 イリクを王都に送り届けて、ソフィアに罪を着せようとしているらしいセリア・グラスニカの犯罪を明らかにするのだ。



  ・  ・  ・



 ゴールデンウィング号の船室に、ソウヤはいた。


 イリク、ジン、そしてミストがいて、話し込む。


「セリア・グラスニカは、バロールの町のグラスニカ屋敷を炎上させた。そしてその罪をソフィアに被せようとしている……。ここまではいいか?」

「はい」


 イリクは頷いた。


「共謀した使用人たちの話ではそうでした」

「だが理由はわからない」

「だから捕まえて、締め上げるんでしょ?」


 ミストが口を開いた。


「イリクのもとを訪ねて、ソフィアの仕業と嘘をつこうとしている」

「ああ、それで逆に捕まえて、ソフィアを陥れようとした理由と、盗難されたグラスニカ家の秘術書について関与しているのか尋問する」


 ソウヤが言えば、ジンは首肯した。


「秘術書のことで、ソフィアが持っている、などとセリアが言った場合は、十中八九、秘術書を盗み出した当人か、その関係者とみて差し支えないだろう」

「そうですな」

「そう、それについては尋問いかんでわかると思う」

「何か気になることでもあるの、ソウヤ?」


 ミストは、ソウヤの微妙な言い回しに気づく。


「わからないことがあるんだ」


 ソウヤは首をひねる。


「……ソフィアに、魔法封じの呪いをかけたのは誰だろうか?」

「そりゃあ、セリアが怪しくない?」


 何かとソフィアに対して、意地の悪い言動が目立つ人物。今回の屋敷炎上でも、罪をなすりつけようとするくらいだから、ソフィアの不幸を望み、呪いを用いた可能性はあった。


「動機の面では、考えられなくもないが……それだと、おかしくないか?」

「何が?」

「ソフィアは物心ついた頃には、もう魔法が使えなかった。……そうだろ?」

「ええ、あの子は生まれてしばらくは豊富な魔力に、高い才能を秘めていたと我らは喜んだものです」


 イリクは遠くを見る目になる。


「しかし、気づけば魔力はあっても、魔力をコントロールできず、魔法が使えなかった。私たちは大いに期待していましたが、そうはならなかった」


 以後、ソフィアは期待外れ、落ちこぼれとして冷遇街道まっしぐらだった。


「イリク氏、セリアは、ソフィアと歳は同じくらいと言っていたな?」

「そうです」

「それだと、おかしくないか? ソフィアは物心つく頃には、もう魔法が使えなかった。それは呪いが原因だが、呪いを、幼い少女が使うなんて、ちょっと考えにくい」


 幼女が、人の体に刻む類の呪いを習得しているというのは、不自然だ。


「しかも、この呪いは、ソフィアの服を脱がせた上で、彼女の気づかないうちに直接描いている。……爺さん、可能だと思うか?」

「子供には難しいね」


 老魔術師は認めた。


「ソフィアの呪いを診断した時の精緻かつ正確な呪いを見ているが……確かに子供がやったものてはとても思えない。これは明らかに、大人の、高度な術者の仕業だろう」

「すると何? セリアをとっ捕まえれば、すべて解決じゃないってこと?」


 ミストが苛立った。ソウヤは頷く。


「ああ、セリアを捕まえるのはもちろんだが、それで解決しないってことだ」


 幼女時代のセリアが、ソフィアに呪いをかけれたのならともかく、普通に考えれば、もうひとり、ソフィアを貶めた犯人がいる。

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