第306話、グラスニカ家の異変?
ソウヤとレーラは、アルガンテ王と世間話をし、ペルラ姫はフォルスと遊んでいた。
なお、フォルスは人化を解き、本来の姿に戻っていた。ペルラ姫からの希望で、ドラゴンの姿が見たかったらしい。二人で絵巻を眺めていて、ペルラ姫が何て書いてあるのか説明していた。
「……情報を集めているが、魔王軍の残党のアジトはつかめていない」
アルガンテ王はうなる。
「時々、魔族絡みの襲撃などが報告されている。ただあまりに小規模で、軍を投入して対処するような事態は起きていない」
「かえって不気味ですね」
ソウヤは思ったことを口にした。軍を投入するまでもない、ということは、現地の治安組織や冒険者で処理できているということだ。
「連中、絶対なにか企んでますよ」
「同感だ。……奴らは必ず仕掛けてくる。それが攻撃だったなら、おそらく十年前の大戦に匹敵する大攻勢ではないか、と思うのだ」
「……」
ソウヤはゴクリと唾を飲み込んだ。
――十年前と同規模かそれ以上って、ガチの大戦争じゃねえか……。
「何もないことが、かえって悪い予感がする。始末が悪いのは、それが数年後なのか、あるいは明日なのか、現時点では予想がつかないことだ」
「でも何か予兆はあるはずです」
レーラが静かに言った。
「大きなうねりが起きる時には、前触れがあります。それを見逃さないこと、いざ事が起きた時に対処できるように準備しておくこと。それが肝心です」
「うむ」
アルガンテ王は頷いた。ソウヤは言った。
「オレらは、行商しながら各地を周って、何か予兆がないか見ていくつもりです。もちろん、魔王軍の拠点なども探っていきますが」
「今は、やれることをやっていかねばなるまいな」
王はそう締めくくった。
「さて、難しい話はこれまでにしよう。……デザートが食べたいな」
ちら、とアルガンテ王はソウヤを見た。
――はいはい、ちゃーんと準備してありますよっと。
アイテムボックスからプリンを献上。……実に安い品。しかし味はピカ一。
ペルラ姫とフォルスがやってきて、プリンを食する。こういうところを見逃さないあたり、子供である。
「そう言えばソウヤ。お前、カマルに、グラスニカ家のことを調べさせているそうだな」
「……カマルが話したのですか?」
情報畑のカマルが、仕事内容を他人に明かすとは思わないが、警戒するソウヤ。アルガンテ王は言った。
「カマルを責めないでくれ。実は、前々からあの家の動きが気になっていたところだったのでな。そこでソウヤ、貴様がグラスニカ家を探ってほしい、などと頼んでくれば、これは絶対何かあると睨んだのだ」
前々からマークしていた、ということか。ソウヤは一応納得した。
「前々から、と言うと……何かあったのですか?」
「イリク・グラスニカは、一等宮廷魔術師だ」
アルガンテ王は眉をひそめた。
「グラスニカ家の当主であり、我が王都魔術団の長を務めている」
――ソフィアの親父さんか。
「その彼が、ここのところ、どうにも変なのだ……」
「変とは?」
「妙に、疲れている。宮廷魔術師ともなると、相談役やら何やら仕事も多いが、それとは別にやたらと疲労しているようなのだ」
「それは……心配ですね」
「ああ、仕事は完璧にこなしているし、きちんと休日も与えている。にもかかわらず、ここのところ、いつ見ても疲れている。そんなことは、それまでなかったのだが……」
「今は、傍目にもわかるほど疲労している、と」
「そういうことだ」
頷くアルガンテ王に、レーラが質問する。
「陛下、それはイリク様の問題のように思えますが、先ほどあの家の動きが気になっているとおっしゃられましたよね?」
「うむ。何故かは知らんが、イリクを除くグラスニカ家の魔術師たちが、王都を離れておるのだ」
――王都を離れている?
訝るソウヤを見て、アルガンテ王は捕捉した。
「王都魔術団に所属しているイリクの子供たちも、暇をとって王都を出ているのだ。戦時でもないのに、揃っていなくなるというのは、どうにも解せん」
「グラスニカの……イリク殿には聞かなかったのですか?」
「知り合いの魔術師の家でトラブルがあっただの、母方の実家でトラブっただの、適当に煙に巻かれた」
アルガンテ王は気にいらないのか、眉をひそめた。
「奴の疲労の原因かと、最初は思ったのだがな、そのわりには長引き過ぎているというか、いまも解決している様子もない。……で、そこに貴様からの手紙だ。何故、グラスニカ家を探る? 何かあったのか?」
「こっちは、個人的な問題です」
ソウヤは、ソフィアのプライベートにかかわる話なので、少しためらう。関係ないといえば関係ないのだが、アルガンテ王がとても気になるという顔をしたので、簡単に説明することにした。
「うちの銀の翼商会に、グラスニカ家の娘がいるんです」
「ほう、そうなのか?」
「ええ。ただ彼女、ちょっとした呪いをかけられていまして……今は解決したのですが、その呪いをかけた人間が、彼女の家かそれに近しい者の可能性がありまして」
「なんと……」
「それで、その犯人の正体を探ろうと、手掛かりを求めてカマルに、あの家のことを調べるよう頼んだのです」
ソウヤの説明を受け、アルガンテ王は考える。
「……ひょっとして、かの家が慌ただしいのもそれが原因だったりするのか……?」
「と、言いますと?」
「たとえば、その一族の者に呪いをかけた不届き者を、イリクは一族総出で捜索している、とか?」
それっぽくあるが、どうだろう、とソウヤは思う。ソフィアは呪いのせいとはいえ魔法が使えなかったことで冷遇されていたと聞く。
呪い自体は、彼女が幼少の頃からだと言うし、グラスニカ家の魔術師たちは、呪いであることさえ気づいていなかった。
最近になって一族上げて動き出した、というのは、時期的に合わない。今になってようやくソフィアが実は呪いのせいで魔法が使えなかったというのを知ったのでなければ……。
――これは、イリク・グラスニカ本人に直接確認したほうがいいのかな……?
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