第283話、浮遊島の機械人形たち


 フィーアに似た、しかし違う機械人形がざっと十数体。


 飛空艇コレクションから引っ張られたライヤーは、ここでも驚愕させられた。


「こりゃあ、また……」


 驚きつつ、機械人形を観察するライヤー。ミストが口元を歪めた。


「なんだか、いたいけな少女に迫る変質者みたいね」

「言い方!」


 ソウヤが言えば、こちらのやりとりを聞いていなかったのか、ライヤーがブツブツと言っている。


「見た目は人間。だがこのパーツや作りが、フィーアとは違う。時代が違うのか、いやしかしこれも――」

「……確かに、ちょっとアレだね」


 ソウヤも、ガチ過ぎるライヤーに引いた。機械人形が少女なのが、ミストのいう変質者っぽいという言葉に拍車をかける。


 そのミストが歩き出した。


「あんまりだから、ワタシは奥を見てくるわ」

「あー、オレも行く」


 興味深くはあるが、機械人形はライヤー先生に任せよう、とソウヤは思った。残っても、できることがあるとは思えなかったからだ。


 そして奥へと行けば、またも広い部屋に出た。通路になっていて下を覗き込める形になっていたが。


「あー、これ、既視感あるわー」


 ソウヤは思わずため息をついた。


 遺跡にいた人形、そしてゴーレムが、ずらりと並べられていた。兵士が整列しているかのように、人形は人形、ゴーレムはゴーレムで分かれている。


「バッサンの町のゴーレム工場遺跡みたいだ」

「でも、こっちのほうが綺麗よね?」


 ミストが率直な感想を言った。


「あー、言われてみれば確かに。あっちは普通に遺跡って感じだったけど、こっちはピカピカのSF感がある」


 遺跡地下では朽ちた人形もあったが、ここのは新品でキラキラしている。命令ひとつで、軍隊のように動きそうではある。


「……ここのは動いてないな」

「何だ、見た目だけ?」


 ミストが苦笑した。ソウヤは首を振る。


「でも、動かしたら、すぐにでも行動できそうではあるな」


 クレイマン王の遺産。王の間から行ける先にあったから、その保存についても厳重だったのかもしれない。


「動かしてみる?」


 ミストが、さらりと恐ろしいことを言った。


「いやいや、前も工場のゴーレムが一斉に動き出して、面倒なことになっただろう。安全と保証できなきゃ、動かさないぜ」


 動いたゴーレムを全部ぶち壊す羽目になった、バッサンの町近郊の工場遺跡。切り抜けたからいいものの、あんな苦労はしたくはない。


 奥に進む。


 ついた先は、そこそこ広い部屋。そして、そこには……先ほども見た少女型の、おそらく機械人形が二体、立っていた。


「何故にメイド服!?」


 黄髪と緑髪の少女メイドが、立ったまま眠っているようにただずんでいる。


「どうせこれも動いてないんでしょ?」


 ミストが近づくが、不意に、二体のメイドの目が開いた。


「ようこそ、不法侵入者様」

「どなたの許可を得てこちらにいらっしゃったのでしょうか?」


 黄髪がペコリとお辞儀をし、緑髪もまた頭を下げたが、言っていることはかなり挑発的だった。


「ここの探索に許可が必要だとは知らなかった」


 ソウヤは皮肉げに返した。


「なにぶん、ここはずいぶんと寂れた場所でね。オレの記憶違いでなければ、ウィスペル島は所有者がいなかったはずだ」

「ウィスペル島が何かは存知あげませんが――」

「ここはクレイマン王の宝物殿。そしてそれを不埒な侵入者から守るのが――」


 二体のメイドが跳んだ。


「「我らが使命!」」


 ソウヤ、そしてミストは後方に跳躍した。黄髪メイドが手甲を振り回して、ミストに。緑髪メイドが、ソウヤに向かって突然ハンマーを出して振り下ろしてきた。

 床に亀裂が入るほどの打撃が炸裂。ソウヤは斬鉄を出して身構える。


「いきなりご挨拶だな!」

「ソウヤ! やっつけるわよ!」


 ミストが竜爪槍を振り回し、黄髪メイドに突き出す。しかしメイドは両手の手甲から爪を出して、ミストの攻撃を弾いた。


「へえ、やるじゃない」

「お褒めに与り恐縮です」


 黄髪メイドは、人間離れしたスピードで踏み込み、連続して爪を突き出す。槍という武器の特性上、ミストは防ぐものの窮屈そうだった。


「よそ見とは感心しませんが、そのまま逝ってくださると――」


 ガキン! ソウヤの斬鉄と緑髪メイドのハンマーがぶつかった。


「――仕事が早く済むのですが」

「降伏してくれたら、こっちこそ早く終わるんだがな!」

「私のハンマーを受け止められる人間がいるとは……あなた本当に人間ですか?」

「元勇者だ!」


 横薙ぎに払うと、緑髪メイドは素早く下がった。ソウヤは追い打ちをかけ、さらに一撃を叩き込むが、迎撃にハンマーを当てられ、またも金属の衝突音を響かせた。


「オレの攻撃を器用に弾くとはね……!」


 吹っ飛ばない相手というのも珍しかった。


 緑髪メイドは機械人形ながら、ふっと笑みをこぼした。


「一筋縄ではいかないご様子。では、これで如何でしょうか?」


 メイドの後方の空間から、魔法の槍が具現化した。それも四本。


「おいおい、ちょっと待てぇー!」


 打撃と魔法の同時攻撃に、ソウヤも距離をとらざるを得ない。力同士のつばぜり合いなどやっていたら、魔法の槍で左右から串刺しだ。


 ――おいおい、機械人形ってのはここまで強いのかよ。


 意外に手こずるな、とソウヤは思う。何だかミストもやりづらそうにしているようなので。


「んじゃ、ここらで本気だそうか!」


 次に受け止めるなら、ハンマーごと砕く剛力をお見舞いする。もうお宝とか遺跡がどうとか遠慮はしない。


 ソウヤが意識を集中した時、その声は降りかかった。


「アマレロ、ヴェルデ、そこまでだ」


 大きな声ではないのに、よく通る声。しかもソウヤにも聞き慣れた声だった。


「ソウヤにミスト嬢も、武器を下ろして」

「……なんであんたが」


 振り返れば、そこには老魔術師――ジンが立っていた。

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