第282話、天空人、驚異の技術力


 クレイマン王の黄金の間は、天空人の栄えた時代の象徴だったのかもしれない。


「凄い……。こいつを夢見てたんだ!」


 ライヤーは王座の前で、うずくまった。


 ソフィアは、リアハを見た。


「こんな金でできた部屋なんて、見たことがないわ」

「格の違いを見せつけられる気分です」


 壁に設置された、黄金の騎士像を見上げる。


「王の中の王。クレイマン……世界を支配していた、と言っても信じるしかないですね」

「でも、滅びた」


 ソウヤは、座る者のいない王座、誰もいない王の間を眺めた。


「天空人は栄えたのは確かだけど、もう存在しない。何があったかは知らないが、天空人はいない」

「いったい、何故滅びてしまったのでしょうか?」

「さあね。……専門家先生はどう思う?」


 王座の前に立ったライヤーに問うてみる。


「おれにも見当がつかねえ」


 ライヤーはすっと、黄金の王座を撫でた。


「伝染病や奇病でやられたって説があるが、これといって確かなものは何も見つかってない――」


 その時、突然、ゴゴゴ、と轟音がなった。


「地震? いや、ここ、浮遊島だぞ!」


 地震など起こるはずがない。直後、王座の間にあった黄金騎士の像が倒れた。


「いや……気をつけろ!」


 倒れたのではない。動き出したのだ。黄金騎士の像が腰の剣を引き抜くと襲いかかってきた。


 完全に虚を突かれた。


 ライヤーが慌てて飛び退く。あやうく騎士像の剣が、彼を両断するところだった。


 ガルが素早く、その騎士像に切りかかり、ライヤーへの追撃を阻止する。


「どうやら、番人はいたらしいな!」


 ソウヤは斬鉄を構える。これまで案山子も同然の人形ばかりだったから、気が抜けていた。


「こいつもゴーレムかしら!?」


 ミストが竜爪槍を手に跳躍。黄金騎士の胴体を一突きにした。だが槍は貫通せず、像の中で止まる。


「それで止めたつもり? ぬんっ!」


 次の瞬間、槍から衝撃波が走り、黄金騎士が砕けた。


「注意しろ。まだいるぞ」


 ミストが倒した黄金騎士の像と同じものが、他に七体。


「黄金のゴーレムってか?」

「いや、むしろガーゴイルかもしれねえ!」


 ライヤーが魔法銃を騎士像に向けた。ソウヤは襲いかかってきた一体を、斬鉄で砕いた。


「ガーゴイルって、石像に化けている化け物か?」


 醜悪な悪魔を模った像で、ゲームとかだと侵入者に牙を剥く。


「そう、その化け物の騎士バージョンなんだろうな!」


 ライヤーが一発、黄金騎士像に撃ったが弾かれた。


「おいおい、堅い上に魔法対策も施されているのかよ!」

「じゃあ、それ以上の打撃を与えるしかないな!」


 ソウヤ、そしてミストが、次々に黄金騎士を破壊していく。


 ガル、ソフィア、リアハも騎士像を攻撃するが、厚い装甲に阻まれて有効なダメージを与えることができないようだった。


 結局、ソウヤとミストだけで、黄金騎士の像を全部壊した。


「油断した! 侵入者を撃退する仕掛けがあるかもしれない、って考えもしなかった」


 ライヤーは悔しそうだった。ソウヤは砕けた騎士像の欠片を拾う。


「元気だせよ。この欠片だって金だ。売れれば儲けになるぞ」

「慰めてくれてありがとう」


 皮肉げに言うライヤー。


「それにしても、黄金の護衛とはね……」

「金持ちの考えることはわからんな」


 ソウヤは首を振った。


「それで、ここが終着点か?」

「あとは王の私室くらいか」

「ソウヤ」


 ガルが、王座の後ろにいた。


「ここに通路がある」

「噂をすれば、ってか」


 ライヤーが早速、そちらに向かう。


「――ここまで来たんだ。付き合いましょう」


 ソウヤは、ソフィアとリアハに『行こう』と首を振って合図した。



  ・  ・  ・



 王の私室ではなかったが、発見の度合いで言えば、それ以上のものがあった。


 抜け道のような細長い通路の先は、飛空艇用の広大な港。


「おいおい、これ全部、飛空艇か?」


 ゴールデンウィング二世号より一回り大きな銀色の船。それより少し小さいが、ルビーのような輝きを持つ船と、同じくサファイア色の船、エメラルド色の船が並べられていた。


「凄い」


 ソフィアが、ほっと息をつき、リアハも絶句している。


「金持ちが車をコレクションするってのは聞いたことがあるが……」


 ソウヤも度肝を抜かれた。


「飛空艇のコレクションってか。さすが伝説のクレイマン王だ」


 宝石カラーの飛空艇の下には、様々な形の飛空艇が十、いやそれ以上が見えた。まさにコレクション。これがひとりの王が所有した船とでもいうのか。


 この専用と思われるドックの大きさ、そして深さも常軌を逸している。


 ミストが鼻で笑った。


「まあ、天空人というだけあって、飛空艇は当たり前のように持っていたわけね」


 他の面々に比べて、驚きは小さいようだった。


「……」


 ライヤーなどは驚き過ぎて固まっている。


 通路に沿って移動するミストに続くソウヤ。飛空艇が見える港から、またどこぞの施設に入る。


「これは……人間――じゃないか」


 ソウヤは、それを見て目を見開いた。


 遺跡や城にいる人形が、ただのお掃除メカのようで落胆したが、ここには人間――少女の姿をした機械人形が複数、安置されていた。


「人ではないのは、わかるわ」


 ミストがしげしげと、その少女たちの体を眺めた。外観は人だが、一部、中のパーツが剥き出しになっている。


「フィーアに似ているけれど、それとも少し違うみたいね」

「ライヤーを呼んでこよう」


 ソウヤは腰に手を当て、首をかしげた。


「こりゃまた驚くぞ」

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