第279話、お宝見つけたら終わりじゃないぞ


 宝物庫というより、アリーナや闘技場にも匹敵する巨大空間に、いくつもの金の山。ソウヤたちは、クレイマンの遺跡のお宝と遭遇した。


「不思議だな……。これだけの金があれば、飛空艇の一隻どころか十や二十余裕で買えそうではあるのに、おれは、考えもしなかった」


 ライヤーは自嘲した。


「何だろう。……銀の翼が気に入ってるのかな」


 愛着でも湧いたのだろうか。金を前にはしゃいだライヤーは、すっかりトーンがいつも通りになっていた。


「もちろん、莫大な財宝があったのは嬉しいよ。だけど、銀の翼商会とゴールデンウィング号は、おれの夢を叶えてくれたっていうか。それで結構、満足してたっていうか」

「ワクワクした?」

「そう! この広い世界にはまだ見ぬお宝があるんだってな」


 ライヤーは手にした金貨を水を流すようにじゃらじゃらと落とした。


「……ガキの頃からの憧れつーものを、この場所が叶えてくれた。……早過ぎるんだよな、お宝が手に入っちまうのが」

「おいおい、さっきから聞いてりゃ、何をもう終わりみたいなことを言ってるんだ?」


 ソウヤは苦笑する。


「有名な謎だったクレイマンの遺跡を見つけてしまったかもしれない。だが世界には、それだけじゃないだろう? また見ぬ秘境! まだ見ぬ財宝が、世界には眠っている!」

「……!」

「俺は、正直クレイマンの遺跡について知らなかったが、世界を自由に飛び回りたいって願望はあった。クレイマンは、そんなロマンのひとつに過ぎない」


 ソウヤは金貨を手にとった。材質は金で間違いない。天空人の金貨だろう。ふだん見慣れたそれとは違う。


「自由にできる金ができた。引退してもいいだろうし、これを元にさらなる冒険に出かけてもいい。人生は、まだ終わっちゃいない」

「……敵わないな、旦那には」


 座り込んでいたライヤーが、すっと手を伸ばした。ソウヤはそれを掴むと、彼を立たせた。


「旦那といれば、もっとワクワクすることに出会える気がする」

「楽な道じゃないぞ」


 特に魔族とぶつかったり、騒動とかち合う確率のほうが高いだろう。


「それも含めて冒険だ」


 ライヤーは、指で銃の形を作ってソウヤを指した。


「まあ、嫌になったらその時は自由にするさ。潮時は、おれが決める」


 それでいいんじゃないかな、とソウヤは思う。根っからの冒険野郎みたいで、ちょっとライヤーを見直した。


「それじゃ、先に行こうぜ」

「あ、ちょっと待って。持てるだけ持っていこうぜ、旦那!」

「何だよ、締まらないなぁ」

「それはそれ、これはこれだよ」


 などと現金なライヤーだった。なお、他の面々はミストを除いて、特に反対しなかった。


 全部とは言わないまでも、大なり小なりの金は持ち帰りたいと思っていたようだった。なおミストは興味がなかった模様。


「お前ら、オレのアイテムボックスが容量無限でよかったな」



  ・  ・  ・



 探索は続く。


 馬鹿でかい宝物庫を抜けた先は、またも奇妙な巨大通路。真っ直ぐ道を作ることを知らないのか、とクレイマン王への不満を覚えつつ、先に進む。


「今度は地下都市か?」


 もれなく廃墟だったが。大地震にでもあった後か、崩れている建物ばかりが見えた。


「天から落っこちた時の衝撃でやられたのもね」


 ミストが言えば、ダルが口を開いた。


「それなら地上の都市も、似たような状態だったかもしれませんね。夜だったので、よく見る余裕はなかったですが」

「ゴーレムや人形もいたからな、仕方ない」


 ソウヤは周囲に注意を払う。ここにも地上と同じく、人形らがいる可能性もある。用心深く進むが、幸い、発見されることもなかった。


 廃墟都市を超えた先には長い登り坂となっていて、その先に建物がある。


「神殿か?」

「あるいは、クレイマン王の城かも」


 ライヤーが声を弾ませた。ソフィアが眉をひそめる。


「ここ、地下でしょう? 王の城が地下になんてあるの?」

「……それを言われちゃうと、確かに神殿かもしれん」


 あっさり同意するライヤー。見たところ、城よりも神殿が近い外観だ。ひたすら登っていく。


「あー、もう無理! もう歩けない!」

「よく頑張りました」


 ソフィアを慰めるリアハ。ようやく一番高い位置まで来て神殿らしきに到着したが――


「どうも神殿でもなさそう」


 行き止まりだった。だが床は石ブロックが敷き詰められていて、真っ平らだった。その上に、魔法陣らしき文様が描かれている。


「ライヤー、専門家のご意見をどうぞ」

「転送の魔法陣だな」


 ライヤーはしゃがんで、魔法陣を確かめる。


「たぶん、そこの柱が起動の鍵だろう。どうやって動かすかは、知らんが」


 魔法陣のそばに一メートルくらいの高さの小さな柱があった。


 ――なるほど、起動端末か。


 ソウヤは歩み寄るが、そこには先端に球体がはまっていた。スイッチの類いは他にはない。


「これを握ったら、転送が発動するとか?」


 たっぷり埃が乗っているそれを触るのは勇気がいる。そこへダルが歩み寄った。ハンカチ程度の大きさの布を出すと、球体の上の埃を落とし汚れをぬぐった。


「私たちエルフにも、この手の魔力起動式の装置があるんですよ。ちょっとやってみましょうか」


 そう言うと、ダルは球体に手を置いた。


「起動せよ」


 ダルが魔力を注ぐと、魔法陣が急に光り出して、そこに乗っていたソウヤ、ライヤー、ミストの姿を消した。


「ええー!?」


 目の前で三人が消えて、ソフィアが素っ頓狂な声を上げた。


「消えちゃったわ!」

「転移してしまった……?」


 リアハが、ダルに顔を向ければ、エルフの治癒魔術師は肩をすくめた。


「そのようです。まだ使えたんですねぇ。朽ちて動かないと思っていたんですけど」

「まだ転送できるか?」


 ガルが魔法陣の上に立つ。ソウヤたちの後を追うつもりだろう。ソフィアは少しためらったようだが、リアハはすぐにガルと同じく魔法陣に入った。


 そこで、ダルは自身の髪をかいた。


「飛ばすのはいいんですけど、これ操作する人は置いてけぼりですね……」

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