第280話、転送先にあったものは――


 転送魔法陣で飛ばされたら――


「空の上ぇぇー!」

「はい、ライヤーさんのリアクションいだだきましたー!」

「旦那! なんで落ち着いてられるのっ!?」

「うるさいわよ、ライヤー」


 ミストが顔をしかめた。


「とりあえず、状況を確認しましょう。転送で飛ばされたら、地下ではなく地上に出た」

「空の上だよー」


 ライヤーが目の前に広がる青空を指さした。


 そうなのだ。ソウヤたちは陸地の上に立っている。十数メートルほど先が崖になっているようで、普通ならそこから見えるのは陸地か、あるいは海というシチュエーションだろう。


 だがそこに見えるのは空と白い雲。多数の雲がソウヤたちのいる高さと同じくらいか、それより下に見えるというのは、普通はありえない。


「浮遊島だぞ、これは!」

「ライヤー、黙れ」


 ミストが睨みつける。ソウヤは少し歩いて、崖のほうに近づいて頷いた。


「ああ、浮遊島だろうな。空の上だこれは」


 空の上に島があった――かつて存在していたという天空人の浮遊島に、ソウヤたちはいるようだ。


 振り返れば、そこには大きな城がそびえ立っていた。


「……空の城だ」

「ここ、どこだと思う?」


 ミストがソウヤの隣に立った。


「魔法陣の転送先ということは、ここも天空人に関係する場所ってことよね?」

「クレイマンの遺跡の転送装置っていうなら、ここもそれなんじゃないか?」

「でも、旦那。クレイマンの遺跡は地上に落ちたって伝承だぜ」


 専門家先生は言った。しかしな、とソウヤは首をかしげた。


「オダシューが以前、クレイマンの遺跡は今だ空を漂っているっていう伝承を教えてくれた。つまりだな――」


 ソウヤはくっつけた両手を離した。


「浮遊島は真っ二つになった。片方は地上に落ちて、もう片方は浮き続けている……」

「そんな馬鹿な!」

「落ちたほうは、ウィスペル島に。残ったほうはここ」


 視線が、巨大な城へと向けられる。


「なあ、それを確かめる方法はあるだろ?」

「……あの城に行って、クレイマンのレリーフがあれば、旦那の説は立証される」


 自分でそう口にして、ライヤーは頷いた。


「やべっ、何か柄にもなくドキドキしてきやがった。マジでクレイマンの遺跡が二つになっちまったかもしれないだって!」


 城に向かって歩き出そうとした時、魔法陣が光った。


 現れたのは、リアハとガルだった。


「ソウヤさん!」

「リアハ! ……ガルと二人だけか?」

「ソフィアとダルさんは、魔法陣のところに残っています」


 リアハが説明してくれた。装置の操作にひとり残らないといけない仕様らしい。ただダルひとりというのも何かあると困るので、ソフィアも残ったらしい。


「ソフィアが残った?」

「へえ、優しいところがあるじゃねえか、あの嬢ちゃん」


 ライヤーが微笑したが、ミストは眉をひそめた。


「修行が足らない!」

「かなり歩きましたし、相当しんどかったのでは……」


 リアハが友人をフォローするが、ミストは首を横に振った。


「体の中の魔力循環を意識すれば、疲労がたまりにくいし、回復だってできるわ。これは教育が必要ね」


 不敵に笑うミスト。リアハは何故か視線をそらした。ミストの教育というのが、いまいちピントこないソウヤである。


「しかし、二人に連絡手段がないのは問題だな」

「あー、いいわ。ワタシが念話で繋げるから」


 そう言うと、ミストが瞑想するように目を閉じた。おそらくソフィアと念話でやりとりできるようにしているのだろう。


 ――あ、連絡手段と言えば……。


 ソウヤは、待機しているジンたちに、クレイマンの遺跡を探索することを伝えていなかったことに気づいた。


 アイテムボックスの転送ボックスに、クレイマンの遺跡の件を簡単に手紙にして送っておく。


「……!」


 ふと、そこでソウヤは違和感を抱いた。


 青空が広がっている。雲が漂い、ポカポカとした太陽の日差しが降り注ぐ。


「どうしました、ソウヤさん?」


 リアハが気づいたのか声をかけてきた。


「おかしい……。おかしいぞリアハ!」

「なっ、何です?」


 ビックリするリアハ。ソウヤは言った。


「ここはどこだ?」

「え、どこって……」

「浮遊島だろ? クレイマンの遺跡かもしれないっていう……」


 ライヤーが、おかしなものを見る目になる。ソウヤは問うた。


「遺跡に入ってどれくらい経った?」

「どれくらいって、さあ……数時間程度じゃね」

「そう、数時間程度だ。4、5時間か、それくらいだろうよ。……じゃあ、いま何で晴れてるんだ?」

「……?」

「オレたちは、遺跡に入る前、クラウドドラゴンの巣穴に入った頃の都市遺跡は夜だった。明け方っていうなら、わからんでもない。だが、真っ昼間ってのはおかしい!」

「あああっ!?」


 ライヤーが気づいて声を上げた。


「そうだよ! おれら、夜になってそれほど経っていない時間に入ったんだ! 真っ昼間のわけねえじゃねえか!」

「どういうことだ?」


 ガルが聞いてきた。ソウヤは言った。


「世界ってのは平面じゃなくて丸いんだ。で、世界は回っていて、太陽の当たる場所と当たらない場所ってものができる。ウィスペル島は夜だが、この浮遊島は昼。つまり両者はかなり離れた場所に存在しているってことだ」


 要領を得ない顔になる一同。


 今のはオレの説明が悪かったかもしれん――ソウヤはため息をついた。


「要するに、ここから飛び降りても、真下にウィスペル島はないってこと」


 時差の話をしたら、思い出したように眠気がこみ上げてきた。遺跡探索の興奮で気にならなかったが、そういえば、体内時間だと深夜でお眠の時間だ。


「……まあ、転送装置で行き来できるんだから、別にこの島がどこにあろうと、あまり関係ないんだけどね」


 落ち着いてみれば、さらにおかしなことに気づく。


 高空にいるはずなのに、強い風にさらされることなく、寒くもない。空気が薄いということもなく、地上にいるのとさほど変わらない環境なのだ。


 不思議だ……。

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