第273話、人形は生きている?
ウィスペル島に都市遺跡が存在した。そしてそこには人形とゴーレムが住んでいる。
「人形たちの都市」
リアハが不安げな顔をすると、ダルは逆に目を輝かせた。
「それはぜひ見てみたいですねー」
「我々は、クラウドドラゴンを探している」
ジンは腕を組んだ。
「観光目的で来たわけではない」
「わかってますよ」
苦笑するダルがライヤーに視線を向ければ、彼も肩をすくめた。遺跡と聞いて、俄然好奇心が疼いているのだろう。
「その都市遺跡が、先の敵性飛空艇の基地でもあるなら、避けていくのがいいだろう」
老魔術師は言った。
「使い魔で偵察したが、地上に墜落した飛空艇の残骸を複数発見した。こちらが近づけば、彼らは攻撃してくる」
「目的がクラウドドラゴンである以上、今回は回避だな」
ソウヤは言ったが、ミストは困ったような顔になる。
「ところが、そうもいかないのよ」
「どういうことだ?」
「その都市遺跡、クラウドドラゴンのテリトリーなのよ」
それを聞いた瞬間、一同がしんと静まり返った。
「つまり……?」
「クラウドドラゴンの住処に行って確認するには、都市遺跡に侵入しないといけない」
「爺さん、近づいたらどうなるんだっけ?」
「十中八九、攻撃されるだろうね」
「なんてこった……」
ソウヤは首を振った。
「ミスト、魔力眼でクラウドドラゴンの巣の中は見れないのか?」
「濃厚な魔力が漂っているせいで、魔力眼では視界ゼロ」
ミストがお手上げという仕草をとった。
「霧竜であるワタシが言うのも何だけど、魔力眼では霧の中にいるみたいな状態。ほとんど見えないわ」
濃厚な魔力がカーテンのようになっているようだ。ソウヤはジンを見たが、発言する前に否定された。
「ミスト嬢が無理というほどの魔力が漂っているなら、使い魔では厳しいな。魔力に溺れて、制御不能になる恐れがある」
魔力に溺れる、とか、よくわからない表現をされた。専門家の意見としては不可、ということなのだろう。
オダシューが発言した。
「しかし、何故そんなに魔力が漂っているんです?」
「世界には、魔力の流れというものがあるのよ」
ミストは答えた。
「龍脈とでもいうのかしら? まあ、とにかく強い魔力の流れがあって、往々にして強いドラゴンとかは、その流れの上とか近くをテリトリーにするものよ。だから、別に不自然ではないわ」
「なるほど」
オダシューは納得したようだった。ソウヤは頭をかく。
「結論としては、クラウドドラゴンの安否確認のために、人形たちの町に行き、巣の中に入らないといけないってことだな」
「飛空艇の例もある。人形やゴーレムに察知されないように行動する必要があるだろう」
ジンが、改めて指摘すれば、ミストは鼻をならす。
「邪魔するなら叩き潰せばいいでしょ。相手は人形でしょ?」
まことにドラゴンらしい強行説。ジンは顎髭に手を当てた。
「人形やゴーレムを、命ある者として扱うか、物として見るか、にもよる」
「どういうことです?」
オダシューが首をひねった。
「人形やゴーレムって人工物だから、命はないのでは?」
「そう、それが問題だ」
ジンが頷いた。
「人形やゴーレムたちを、この町の住人とするか、ただの警備システムとして見るか、ということだ。前者ならば、それはひとつの種族として見るべきだし、後者ならばミスト嬢いわく、破壊もいいだろう」
聞いていたメンバーが皆、要領を得ない顔になった。
――ひょっとして、爺さんの言っている意味を理解しているのってオレだけか?
乱暴な言い方をするなら、人形やゴーレムをAI、人工知能として見て、そこに人権を認めるかー、みたいな話をしているのだ。
そもそも、AIと言っても、異世界からきたソウヤとジンにしかわからない概念ではある。
――前者だとするなら、そこに乗り込んで破壊とか、完全にこっちが悪党になっちまうなよな。
いわゆる侵略に破壊行為。
「現物を見てみないことにはな」
ソウヤはそう判断した。
「もし、人や亜人みたく、意思を持って生活しているというなら別だが、与えられた命令に従い行動しているだけなら、遠慮はいらないと思う」
「……そうだな。これは私の考え過ぎだったかもしれない」
ジンは頷いた。
「とはいえ、都市にいる人形やゴーレムの数が数だから、まともに正面からやり合うのは無謀ではある」
「都市を奪回するとか、そういうことをしに来たわけじゃないからなぁ。あくまでクラウドドラゴンが目的だ」
ソウヤが視線をやれば、そこは認めるらしくミストも首肯した。
「やっぱり、極力戦闘は避けて忍び込むのが最善だろう」
「仕方ないわね。で、どうする? 全員で行く必要はないと思うけど?」
潜入調査チームを編成しよう。全員で移動するのも手だが、人数が増えればその分、忍んで近づくのは難しくなる。
ソウヤは一同を見回した。
「オレが行く。クラウドドラゴンがいた場合の交渉にミストも必要だ。で、目的の場所が遺跡の町ってこともあるから、ライヤー」
「おう、遺跡には興味があるからな、任せてくれ」
「遺跡調査が目的じゃないんだぞ」
「わかってるよぅ」
で、ライヤーを連れていくとなると――
「正直、爺さんにも来てほしいんだが、船のことがわかる人間を残しておきたいところではある。何かあった時に対処できるように」
「心得た。船は私がみておこう」
「本当は、鑑定が使える爺さんにもいてほしいだがね」
「念話でやりとりはできる。何かあればアイテムボックスに持ち帰ってくれ」
ジンはそう言った。話を興味深そうに聞いていたダルが手を挙げた。
「ドラゴンの巣穴に行くほうに志願しますよ。治療魔術師を連れていかないのは、ナンセンスだ」
「本当は、おめえも遺跡が見たいだけじゃねえの?」
ライヤーがからかうと、エルフの治癒魔術師は肩をすくめた。
「貴方ではないんだ、そんなわけないでしょう」
――いーや、その顔は珍しもの見たさだろう。
付き合いから、ダルの考えが想像ついてしまうソウヤである。だが、確かに回復手段の持ち主としてエルフの魔術師は頼もしい戦力だ。
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