第272話、ウィスペル島は謎だらけ


 接近中の飛空艇がどこの所属かはわからなかった。


 ミストが魔力眼で見てくれたが、シンボルとか旗などが見つからなかったせいだ。


 そして悪いほうの予想というものは当たるもので、飛空艇は、こちらに発砲した。


 しかも、電撃砲で。


「撃ってきやがった!」


 不明飛空艇の放った紫電は、ゴールデンウィング二世号の展開する防御障壁に弾かれた。


「向こうさんも電撃砲かよ!」


 ライヤーが唸った。火薬式の大砲ならば、もう少し射程は短いし、命中精度も落ちる。


 ソウヤは伝声管をとった。


「爺さん、障壁が敵の電撃砲を防いだ」

『おそらく距離のせいだろう。電撃砲は射程は長いが、遠ければ遠いほど威力が下がる傾向にある。もっと近づかれたら、障壁は抜かれるだろうね』

「なら、こっちも反撃だ!」


 ゴールデンウィング二世号の右舷側の電撃砲を動員して、お返しだ。威力が多少下がろうが、相手に同じような障壁がなければダメージを与えられる。


「敵さんも、防御障壁を持っていたら?」


 ライヤーが言ったことは、ソウヤも思った。だが――


「当てなきゃわからん!」


 ゴールデンウィング二世号の艦首側旋回砲が右へ指向。右舷側の電撃砲とともに、近づいてくる敵性飛空艇に電撃が放たれる。


 電撃弾は、敵船に吸い込まれたように見えたが……果たして当たったのか?


「ミスト」

「命中したけど、弾かれた。あちらも障壁があるみたい」


 魔力眼で観測していたミストが答えた。


 一番厄介なパターンだ。お互いに同じ武装と装備がある。ダメージを与えるには距離を詰めなくてはいけないが、その分、こちらも被害が出る。飛行能力を失えば、この島に――取り残されることはないか。


 少なくとも、ミストが無事なら、ドラゴン形態で戻ることはできる。仲間たちはアイテムボックスに収容していけば、全員帰ることはできる。


「効かねえなら、逃げようぜ、ボス!」


 ライヤーは言った。


「攻防決め手に欠けるなら、数で勝る敵さんのほうが有利だ。二対一はさすがにマズイ!」

「相手はゴーレムだろ? 逃してくれるとも思えんが……」


 しかし、敵性とはいえ、正体がわからない相手には違いない。どこかの大国のものという可能性もあるわけだ。


 ――とっさに反撃してしまったが……まあ、殴られたら普通は殴り返すもんだ。


「ようし、攻防は同じなら、スピードはどうだ? こちとらジェットエンジンだ。ライヤー、反転して距離をとれ。それでも追ってくるようなら、その時はぶっ潰してやる!」

「了解!」

「ええっ!? ソウヤ、反撃しましょ! やられたらやり返すものよ!」


 ミストが言葉を強めた。ドラゴンは売られた喧嘩は買う主義なのだ。


「追ってきたらな。……よくよく考えたら、ゴールデンウィング二世号は軍船じゃない。戦闘は極力避ける」

「……」

「そんな顔をするなって。さっきも言ったが、しつこいようなら沈めてやる! オレもやられっぱなしってのは趣味じゃないからな」


 ゴールデンウィング二世号は敵性飛空艇より距離を取る。ジェットエンジンの出力をあげて、その速度で引き離しにかかる。


 ――さて、振り切れればそれでよし。だが、そうならなかった時のことを考えようか。


 二隻を相手に、こちらの損害少なく勝つ方法を。



  ・  ・  ・



『ソウヤ。どうも追っ手は追撃を諦めたようだ』


 伝声管を通して、ジンが報告した。


 ジェットエンジン全開のゴールデンウィング二世号は、追尾船を引き離しつつあった。魔力レーダーの観測で、完全に引き返したらしい。


「ふぅ、助かった」


 ライヤーが一息つくと、明らかに不満顔のミストが、ほとんど見えなくなった敵性飛空艇のほうを睨んだ。


「腰抜けー!」

「いや、逃げたのおれらだから……」


 苦笑するライヤーだが、ミストにギラリと見られて黙った。


「せっかく返り討ちにする算段がついたんだがな」


 ソウヤは首を傾けた。障壁、電撃砲持ちの飛空艇相手に、被害少なく勝つ方法を考えたが、実践することなく終わってしまった。


「ミスト。魔力眼で敵を追尾。連中の正体が知りたい」

「わかったわ」

「ソフィアー!」


 甲板で、追っ手の様子を見ていた少女魔術師に、ソウヤは声をかける。


「使い魔を出して偵察。オレたちが進めなかった辺りを探ってくれ」

「りょーかい!」

「ボス、これからどうする?」


 ライヤーが聞いてきたので、ソウヤは頷いた。


「ここで待機だ。まずは情報が欲しい」


 クラウドドラゴンを探しにきたのに、まだ見つけていない。このまま何の成果もなく帰るわけにもいかないのだ。


 甲板に降りると、リアハがやってきた。


「やはり、この島から人が帰ってこないのは、先ほどの飛空艇の仕業なのでしょうか」

「かもしれない。肝心のクラウドドラゴンがどうしているかにもよるな。……当の昔にくたばっているってオチじゃないよな」


 精霊の泉を囲む嵐を取り除くためにも、生存していて欲しいのだが。


「まずは、偵察だな」


 すべてはそれからだ。



  ・  ・  ・



 ミストによる魔力眼の追跡、ソフィア、そしてジンの使い魔によるウィスペル島の偵察が行われた。


 その結果、敵性飛空艇は巨大な都市遺跡を拠点にしているのが判明した。


「遺跡?」

「そう、古い都市、その遺跡ね」


 魔力眼で見たミストは、そう報告した。


「そしてそこに人間や亜人、魔族などはいなかった。いるのはゴーレムや自動人形ばかりだったわ」

「人が誰もいない!」


 どういうことだ。ソウヤは首をひねる。


「人が居ないなら無人だけど、確かにそこに存在している!」


 いったい、どうなっているんだ、この島は!

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