第250話、ゴブリン拠点攻略


 地下空洞のゴブリンの大拠点。数百を超えるゴブリン軍団が今なおいて、やがて外に出てくる。


「白銀の翼全員で殴り込んでどうにかなる、と思うのはさすがに慢心だろう」


 数が多すぎる。ある程度は蹴散らせるが、やがて疲労やダメージが重なり、ちょっとした綻びから一挙に壊滅……という未来が見える。


「援軍を呼んで、数対数の戦いに持ち込む」


 カーシュが提案した。オダシューが口を開いた。


「援軍ですか?」

「ゴブリン軍団は、王国にとっても脅威だからね。ソウヤが、アルガンテ王陛下に知らせれば、王国が軍を派遣すると思う」


 いいですか?とアズマが挙手した。ソウヤは「どうぞ」と頷いた。


「出入り口を全部塞いで出られなくすればどうです? 通路を爆破なりすれば、全部と戦わなくて済みますぜ」

「それが楽そうではあるな」


 真面目に全部戦わなくても、ここから出られなければ結果は同じではないか。


 ガルが言った。


「だが、それではいつかはゴブリンたちが地面を掘って表に出てくる可能性もある」


 事態を先延ばしにするだけでは、ということだ。ゴブリンの数が減ったわけではないから、一度出てきたら、結局は元の木阿弥である。


「でも、案外いいアイデアかもしれない」


 ソウヤは考える。


「ゴブリンってのは繁殖力がすごいって話だ。閉じ込めたら、その中で増えて、食べ物を食い尽くして、餓死地獄になるんじゃないか?」

「それ、出入り口がワタシたちが入ったところのみだったら、の話でしょ」


 ミストは目を細めた。


「他にも出入り口があれば、それを見つけて潰さない限りは、閉じ込めたことにはならないのではないの?」


 ――案外、いい案だと思ったんだがな。


 ソウヤは苦笑する。セイジが言った。


「ここじゃ、飛空艇を飛ばすことできませんもんね……」


 カルデインの町を包囲するゴブリン軍団を撃破した、ゴールデンウィング二世号からの艦砲射撃。


「いくら広いといっても、さすがに飛空艇を浮かせるのは難しいんじゃないかな」


 まったく動かないことを考えるなら、出せるかもしれないが、電撃砲の斜角の問題から、あまり効果的な射撃はできないかもしれない。


 ミストが腰に手を当てた。


「やっぱりワタシがドラゴンになって、ブレスを吐いて回るのが一番じゃないかしら」


 その気になれば、町ひとつを蹂躙できるドラゴンである。怪獣映画のそれの如く、暴れ回るというのは実にそれっぽい。残りのメンバーはミストドラゴンをサポートすれば、何とかなりそうに思える。


 オダシューが、ポンと手を叩いた。


「ボス、ゴブリンを食う魔獣を使うってのはどうです? グレースランドの、ハンドゥワーの森でしたっけ? あそこのマンティコア、ゴブリンも食ってましたぜ」


 ――おお、マンティコアを放って、ゴブリンを狩らせるというのか。


「中々面白いアイデアだ。オレのアイテムボックスなら、マンティコアを生きたまま捕獲して、連れてくることもできる」

「ですよね」

「だが、少々パンチが足りないな。あの森にどれだけのマンティコアがいるかはわからないが、十や二十程度では、ゴブリンの数が圧倒的過ぎて、やがて飲み込まれてしまうだろうな」


 ああでもないこうでもないと、意見を出し合っていたら、ゴブリンの斥候が近づいてきた。


 いい案が出るまで、なし崩し的に戦闘になるのが嫌だったので、岩などの陰に身を隠していたソウヤたち。しかし、時間切れのようだった。


「ミストの案でいく」


 そう決めたら、後は早かった。ミストがドラゴンの姿になり、下層のゴブリン拠点に飛び去る。


 突然、ドラゴンが頭上をかすめたことに驚くゴブリン斥候たち。そこへグリードがナイフを投げて、ゴブリンの頭蓋と首をそれぞれ吹っ飛ばした。


「お見事」


 ソウヤは、グリードに頷くと自分たちもゴブリン拠点へと下る。


 一足先に拠点――町のような遺跡群に飛来したミストドラゴンがブレスによる攻撃を開始した。石造りの建物が吹き飛ぶさまは、さすがドラゴンのブレス。某怪獣を思い起こさせる威力だ。


「ほんと、ドラゴンってのはおっそろしいな!」


 敵でなくて、本当によかったとソウヤは思う。ドラゴンが町を襲った時の絶望感というが想像できてしまうだけに余計に。


 ソフィアが皮肉げに言った。


「もうこれ、ミスト師匠だけでよくない?」


 人間とは違う、圧倒的な火力を目の当たりにする。


 ソフィア自身、人としてはかなり高い魔力を持ち、その広範囲魔法もすでに一線級と呼べるレベルだが、上級ドラゴンの力は、それらを軽く凌駕しているのがわかる。


「大ざっぱに焼き払うには、ドラゴンの力は凄まじいけどよ」


 ソウヤは下層へと降りながら告げる。


「案外、あれで攻撃されたほうも生き残っているもんだぜ」


 建物や広いスペースを派手に吹き飛ばしているが、建物でも地面に部分とか、直撃しなかった部分というのは結構残るもので、それらを盾に生き延びているパターンも多い。


「それに、地下室とかに隠れられたら、ドラゴンブレスだって届かないしな」


 だから、ソウヤたちが後詰めとして、ミストが打ち漏らした敵を始末する必要がある。


「この世の地獄みたいな光景ですな」


 オダシューの言葉に、ソウヤは同意する。つくづく、ゴブリンの拠点でよかった。


 このゴブリンたちが何をした? カルデインの町を襲い、その周辺をも攻撃しようと動いていた。ここにいる連中も、近いうちに人間テリトリーへの侵攻をする。


 だから、そうならないように叩くのだ。やらなければ、やられてしまうのは人間も同じだ。


 これは戦争だ。



 ・ ・ ・



 ミストドラゴンが暴れ回り、ゴブリン拠点の多くは廃墟と化した。


 その過程で多くのゴブリンが焼死体となった。


 ソウヤたちは、生き残りの――そして果敢にも襲ってくるゴブリンを返り討ちにしつつ、掃討を行った。


 それでも数十はいたのだが、そこまで減ってしまえば白銀の翼の敵ではなく、間もなく外の戦闘は終結した。


 あとは、上からの攻撃の影響を逃れていた大きな地下道の先の確認を残すだけとなった。

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