第235話、ゴーレムと唾液を売ってみた

 せっかく王都に来たので、ソウヤはエアル魔法学校を訪れた。


 カロス大臣から、聖女レーラの魔力欠乏を回復させる方法などが記された書物などがあるかもしれない、と助言を受けたのもある。


 が、これまでの行商で手に入れたもので、魔術師が興味を抱くものがないか、その反応を見たかった。


「ようこそ、ソウヤさん」


 学校の教官であるシートスが歓迎の笑みを浮かべてやってきた。魔道具を担当する魔術師教官であり、眼鏡をかけた青年である。


「ご無沙汰しています」

「こちらこそ。よく来てくださいました。……例の魔法カード、面白いですね。学校で使用するために、百枚から二百枚ほど注文したいのですが、よろしいでしょうか?」


 百から二百とは、ざっくりした数である。


「ありがとうございます。二、三日程度で揃えてお届けしますよ」


 さすがに三桁枚数は、在庫として持っていない。銀の翼商会の一部メンバーが複数保有しているのもあるが、それは商品として扱わないので、新規にストックを増やさねばいけない。


 ソフィアなら、一日で百枚程度は出せる。


「そういえば、ソフィアの呪い、解くことができました」

「おおっ、それはよかった!」


 シートスは相好を崩す。


「学校の魔術師も調べたのですが、どうにもうまい手が見つからなかった」


 どうやったんです?と聞かれたのだが、ソウヤは専門家ではないので、魔術師が解いたとしかいいようがなかったが。


 後で図書館で資料探しをすると告げた後、シートスの研究室へ。そこで談笑しつつ、こちらが保有している珍しい品を披露する。


「これは……?」

「マカリー文明時代のゴーレムの部品です。バッサンの町近くの遺跡から発掘されたものです」

「おお! いにしえの文明のゴーレムですか! それは希少な」


 研究素材としても、ゴーレム製作の参考にも使えるだろう。そう思って出したら、案の定シートスは食らいついた。


「これはぜひ買い取らせていただきたい!」

「もちろん、そのつもりで持ってきました」


 ジンが製作したアイアン1ではないが、そのベースとなったゴーレムである。本体とコアは切り離してあるので、勝手に動いたりはしない。ゴーレムのマスター登録とか、所有者がカスタマイズできるように、という判断だ。


「普通に構造や仕組みを研究したいので、もう一体あるとよいのですが……」


 シートスが残念がる。


 いやいや、勝手に一体しかないと思い込まれても困る――ソウヤは首を振った。


「複数ありますよ。もしお金に余裕があるなら、予備も含めて三体ほど売れますよ」

「本当ですか! それならばぜひ!」


 目がキラッキラッに輝いているシートス。貴重な古代文明のゴーレムが複数手に入る機会など願ってもないことかもしれない。


「で、次のレアものですが」


 ソウヤは、とある容器に入れた液体を見せる。


「これは?」

「アースドラゴンの唾液です」

「なんとっ!?」


 シートスは飛び上がるほどビックリした。


「アースドラゴンの、唾液ですって……!?」

「そもそもアースドラゴンとは――」


 四大竜に数えられる古竜。そんじょそこらのドラゴンとは格が違う、超希少な存在だ。世界の果てとも言える孤島にひっそり棲んでいるので、ここ最近の目撃例などあるはずがない。


「石化の魔獣ばかりが棲む島にいまして、アースドラゴンは石化を解く力があるのです。そしてその石化を解く成分が、この唾液に含まれていると」

「で、では、これは石化を解除する薬の材料ということでは!?」


 希少な古竜というだけで驚くべきものだが、石になったものを解除する液体とセットとなれば、魔術師ならば興奮しないわけがなかった。


「では、成分を分析し、もし量産することができれば、石化対策が普及することに繋がるわけですね!」


 ずり落ちそうになる眼鏡を直し、シートスは声をふるわせた。


「素晴らしい!」

「ええ、効果は保証します。ただ、石化の症状自体、レアケースですから、簡単に見せられないのですが……」


 シートスは、鵜呑みにしそうな勢いであるが、ソウヤとしてはきちんと効果を証明してから売りたいと思っていた。


 ただ透明な液体を用意して、「これは石化を解除できます」と宣伝するだけでは、詐欺師でもできることだ。


 というか、まともな人なら、アースドラゴンの件も含めて『その話、本当?』と疑ってかかるものではないのか?


「いやあ、あのヒュドラをも仕留めた銀の翼商会さんを疑うなんて、とんでもない」


 シートスは明朗だった。


「それにこんな希少な品を手に入れられる銀の翼商会さんなら、詐欺などしなくても稼げるでしょうし」

「恐縮です」


 ソウヤは苦笑した。理由はどうあれ、信頼されるのはいいものだ。


「石化解除薬は作れればよいのですが……。自分で言うのもなんですが、需要ってあるんですかね」

「まあ、一般のポーションなどよりはないでしょうね」


 はっきりとシートスは言った。


「ですが、コカトリスなどが生息する森を通過する必要がある場合は、あれば心強いですよね。むしろ、必需品になるんじゃないんですか」


 言われてなるほどと、ソウヤは思った。コカトリスやバジリスクなどの魔獣は、例のアースドラゴンの島以外の場所にも生息している。そういった場所では、石化解除薬も需要がある可能性が高い。そこに行って行商するのも充分アリである。


「考えてみます」


 移動できるのが行商の強みと言える。需要がない、ではなく、需要がある場所に乗り込め、である。


 それはそれとして商談だ。ゴーレムについては、シートスの魔道具の研究費から購入となり、計三体が売れた。


 アースドラゴンの唾液については、魔法薬担当の魔術師教官が呼ばれた。石化解除薬製造は興味がないわけではないが、シートスの担当分野ではないのが原因だ。その教官と交渉の末、こちらもバケツ一杯分をお買い上げいただいた。


 これをもとに研究して、アースドラゴンに会いにいかずとも手に入る石化解除薬を作ってもらいたい。


 他に、珍しい素材ということで、アースドラゴンと影竜の鱗を出したら、これもまた学校が買ってくれた。多少古い鱗とはいえ、希少なドラゴンのものというだけで高額買い取りである。

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