第216話、メンバーが増えた!


 聖女レーラが復活したことで、アイテムボックスに収容していた瀕死者全員を、その力で治癒させることができた。


 ただし、この者たちは魔族の呪いをかけられた上で殺されかけたという経緯があって、死の危険を脱したものの、意識は戻っていない。


 といっても、後は時間の問題であり、そのうち目を覚ますだろうということだった。時間制止から、通常の時間の流れのあるアイテムボックス内へ収容先は変更である。


 さて、銀の翼商会に加入した元カリュプスメンバーは、ガル以外に八名。彼らは暗殺者集団にいた頃のスキルを活かして、銀の翼商会の商売、白銀の翼での冒険者業に活躍してもらう。


 当面の仕事などについては、ガルにお願いするとして、ソウヤは新メンバーのためにアイテムボックスハウスの増築をやっておく。


 オダシュー、アフマル、アズマ、ハノ、グリード、ニェーボ、スナーブ。トゥリパ。


「オダシュー」


 リーダー格の男。組織では複数いたサブリーダーのひとりだったらしい。三十二才。荒くれ者のような厳つい顔、長身かつ逞しい体躯をしている。盗賊団のリーダーと言っても信じられそうな外見だが、根は真面目らしい。


「アフマル」


 浅黒い肌に、細い体つきの男。三十代らしいがよくわからない。というのも、かなり寡黙で、ソウヤもまだ彼の声を聞いたことがない。喋れないわけではないらしい。一見丸腰にみえて、常に短剣を隠し持っている。


「アズマ」


 どこか日本的な響きだが、金髪碧眼の平凡男。仲間うちではフォロー役のようで、喋らないアフマルの通訳だったり、他メンバーの手伝いなどしていた。


「ハノ」


 男に見えるほどの短髪だが女性。胸もとを見るまで、男だと思っていた。体格はその辺の男に劣らず、一見する限り、セイジには悪いが彼女のほうが強そうだ。二十五才。


「グリード」


 長身かつ、そのあたりにいそうなチンピラ風の二十六歳。他のメンツに比べて、お喋りで、人前だとどこかお調子者のよう。学生時代のソウヤなら敬遠するような外見だが、話してみると口調が代わり、理知的な雰囲気さえ感じる。


「ニェーボ」


 どこかドワーフを思わす体格の持ち主。横に太いが、動きは軽快そのもの。力持ちでありながら、手品師でもあり、割と目立つ男だ。丸顔で、三十から四十に見えるが、本人は二十代らしく、そのあたりを気にしているという。


「スナーブ」


 小悪党じみた風貌の三十代。ニェーボと違い、かなり目立たない男だ。仲間内では情報収集に長け、尾行や偵察などを得意とするという。口数はあまり多くないが、子供には優しい紳士らしい。


「トゥリパ」


 二十前の少女。茶色の髪をポニーテールにしている。いつもニコニコしているが、仲間たち曰く、空気を吸うように人を殺せるらしい。彼女の笑顔に見とれて、切られたり刺されたりしたのに気づかず、殺された標的は数知れずらしい。


 以上八名となるが、機械人形のフィーアはすぐに全員を覚えたが、ライヤーなどは、『一度に八人も増えても覚えられねえよ!』と言っていた。


 そのうち慣れるだろう。ソウヤとしては、嫌いにならない程度に仲良くしてほしいと思っている。商会内で、ギスギスするのは嫌だから。


 ――といっても、人数がいれば、そういうところ出てくるんだろうなぁ……。


 少し偏見が入っているが、元カリュプスメンバーが、一般人と同じ空気に馴染めるのかどうか。死生観もかなり違うだろうし、些細な言動で苛立つこともあるかもしれない。


 そもそも、銀の翼商会には、貴族もいれば、ドラゴンだっている。


 ――そう考えると、ガルはうまくやっているよな。


 お喋りではないからかもしれないが、文句もなく、物事に前向きにあたっている。セイジやソフィアも普通に接しているのが、敬遠されていない証拠と言える。


「あらあら、そうかしら?」


 ミストはそんなことを言った。


「いままでだって、皆が仲良しだったわけじゃないわよ?」

「そうなの?」


 特にギクシャクしたところは知らないソウヤである。


「ギクシャクはないけどやっぱり、新参のライヤーとフィーアとの距離がね……」


 ミストは顎に指先を当てた。


「飛空艇をいじっている期間が長いせいか、ワタシ、ライヤーと喋らないのよね。彼に関しては、ソフィアもそうね。オジサンは敬遠しているのかしら? ワタシはフィーアとよく顔を合わせるけれど、そういえばプライベートな話はしないわね」


 ――機械人形はまあ、ね。


 しかし、ライヤーか。確かにソフィアやミストが、お喋りしているところは想像しにくい。


「新参って言ったらカーシュは?」

「人当たりはいいんだけれどね……。そう言われると、踏み込んだ会話はないわね。彼はどこか距離をとっているような印象があるわ」


 でも時間の問題だろう、というのがミストの見立てである。


「むしろ、カーシュには、セイジとソフィアが懐いている感じね。聖騎士様に憧れるというやつ?」


 ミストの語るところ、フィーアはライヤー以外に対しては態度は変えない。事務的で、いや機械的と言うべきか。一方でマスターであるライヤーには、やや毒舌だ。


 話せば答えてくれるが、自分からあまり声をかけないのは、ジンとガル。ジンは話しかければ話題を広げてくれるが、ガルは基本、無口なので話を振らないとすぐに会話が途切れる。時々「もういいか?」と素で言うので、会話自体、あまり好きではないようだ。


「じゃあ、ソフィアとセイジは話しかける方?」

「比較の問題ね」

「……というと?」

「相対的に話す方になるけれど、それは質問するというきっかけがあるから。それがないと、あまり積極的じゃないのよ。どちらかというと聞き上手」


 ミストは、ソフィアにとって魔法の師匠である。そのソフィアはミストとジンに、魔法の話を振ることができる。


 セイジは、フィーア以外満遍なく話しているが、それは魔法だったり戦闘技術だったり、機械だったり、色々学習しようという結果だ。プライベートをお喋りするわけではない。


「特にセイジって、『見る』時間のほうが長いわね。誰かが話していると、じっと聞き耳を立てて観察している感じ。会話が途切れないようにフォローしているところもあるわね」

「なるほど……」


 セイジは、縁の下の力持ちというか、周囲を見ているなとソウヤも思っている。


 自分はどうだろう、と考える。


 まず浮かんだのがミストとは他愛ない話ができる。他は、ライヤーとジンの二人とも親しいと思う。機械いじりや物作り関係の人間とはよく話す。


 セイジやガルとも話すが、言われてみればプライベートな話はない。ソフィアに関して、接点があまりない。


 カーシュも、以前の勇者時代に比べると、ちょっと壁がある印象がある。


 フィーアは……よくわからない。まるでメイドのように手伝ってくれるが。


「影竜は?」

「あれは別に、仲間じゃないし」


 ミストが案外、冷たい。しかし銀の翼商会に所属していないというのも事実だ。言ってみればご近所さんというのがしっくりくる。食事の時に顔を合わせるくらいだが。


「でも、結構喋ってる印象があるな。彼女、人間のこと聞いてない?」

「食を通じて興味を持ってはいるみたいね。でもワタシとあなたとフィーアくらいよ。他の面々は、まだ若干距離を置いているし、そういう人には影竜も関わらないし」

「フィーアも?」

「質問したら答えるからね、フィーアは」

「そういうことね」


 色々あるんだな、とソウヤは改めて思った。


 特に触れなかったが、レーラとリアハ姉妹については、聖女とか王族とかの肩書き以前に、交流期間が短過ぎてまだわかっていないのだろうと思う。


 ここに新メンバーが一気に加わった。果たして、どうなることやら……。

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