第196話、影竜を仲間たちに紹介しよう


 ワイルド系お姉さんに人化した影竜。それに対して、ミストは何やら『身長』が気に入らなかったようで、彼女に食ってかかっている。


「嘘おっしゃい! 人化の魔法で背の高さくらい調整できるでしょ?」

「何故、我がお前の背に合わせねばならんのだ。我はこのサイズがちょうどよいのだ」


 言い返す影竜。聞いていたソウヤは腕を組む。


 ――確かに、身長を合わせる必要はないよな。


 だがミストの非難じみた物言い、それをガンと受け付けないような影竜の態度。ドラゴンには体の大きいほうが偉いとか、そういう種族なのだろうか?


 普通にドラゴンの姿だと、地上の生物の中でドラゴンを上回る種はいない。ゆえに、いつもドラゴンは物理的にも上から目線である。


 ――でも、ミストは人化状態だと、特に他より大きくとかしないんだよな……。ドラゴン限定かもしれないな。


 と、ソウヤは完全に部外者を決め込むのだった。種族の感覚に、別の種族が口出ししてもろくなことがないのだ。


 ミストと影竜の不毛な争いはともかく、ソウヤは事件後の処理を進めることにした。


 ダンジョンの行方不明者は、影竜のテリトリーを侵したため、全滅した。現場に残っていたわずかな遺留品を回収し、それを証拠として持ち帰ることにした。


 その後、カーシュら後方に待機していた組と合流して、今回の件が魔族の侵入による災厄であると説明した。……ここでは影竜のことは伏せておく。


 ダンジョンから撤収して、ルガードークの冒険者ギルドへソウヤたちは戻った。ドワーフのスコルツらギルド職員に、クエスト報告をする。


『魔族が、ダンジョンに新たなルートを開いたのが事件の発端。その先にいたドラゴンが魔族と、後から来た冒険者たちを殺した』


 捜索隊も、ドラゴンのテリトリーに入ってしまい、同様の運命を辿った――と、ソウヤは遺留品を提出した。


「ドラゴンが……」


 顔面蒼白になるギルドの職員たち。本当は影竜だったのだが、そこのところはボカすソウヤ。


「ドラゴンは倒せなかったが追い払うことはできた。あのダンジョンにはもういない」


 その点は嘘はついていない。影竜はアイテムボックスにいるので、ダンジョンにいないのは間違っていない。


「そうですか、もうドラゴンはいないのですか」


 安堵したようなスコルツに、他のドワーフや人間のギルド職員らは頷いた。


「討伐隊を編成しなくてはならないかと思いましたから。冒険者の数が一気に減った直後なので、ほんといなくなって助かりました……」


 地元のドワーフの男衆を含めて四十人近くが死亡では、ギルドとしても偽りのない本音だったのだろう。


 ドラゴンと戦って、どれだけ犠牲が出るか、ギルド職員たちでも見当がつかない。


「白銀の翼の皆さんには、感謝してもしきれません!」


 不明者捜索の報酬をギルドは払ってくれた。ドラゴンを追い払った件について、スコルツはギルドから追加報酬として払うと言ってきた。


 だがソウヤは、それを辞退した。追い払ったというか引き取ったというのが正しい。倒してもないのに報酬を受け取ると、詐欺みたいだと思ったのだ。


 こちらも嘘はついていないが、大事な部分をぼかした手前、少々後ろめたかったこともある。もともと、捜索依頼であって討伐依頼ではなかったし、ドラゴンに関して証拠の品もないので、結局はソウヤたちの望む形で決着した。


「それでは、オレたちはこれで」


 ルガードーク冒険者ギルドのクエストも終わったので、ソウヤは早々にギルドから退散した。


 で、問題はここからだ。


 ミストとジン以外のメンバーに、影竜のことを伝えなくてはいけない。ギルドにはああ言ったが、仲間たちには話しておかねばならないとソウヤは思った。


 同じアイテムボックスを利用する者同士である。なかよくなれとは言わないが、挨拶くらいはしておくべきだ。



  ・  ・  ・



「ドラゴン?」


 一同が驚く中、ソウヤは敢えて淡々と告げた。


「上級ドラゴンの影竜だ。今回の不明者量産の原因のひとつではあるが……一番悪いのは、人様のテリトリーに侵入して勝手に入り口を作った魔族だけど」

「ドラゴン……」


 今度は、ライヤーが言葉を失っている。ソウヤは続けた。


「魔族に狙われ、あのままダンジョンにいても騒動にしかならないので、子供が生まれるまで、アイテムボックスで引き取ることになった」

「それって大丈夫なの?」


 ソフィアが不安に眉をひそめた。セイジは緊張した面持ちだが、ガルは例によって平然としている。


 事情を知っているジンとミストは事実を受け入れている口なので、こちらも自然体。霧竜の一件で、ドラゴンと協調できることを知るカーシュもまた落ち着いている。


 そして特に思うことはないのか、フィーアが皆にお茶をいれていた。


「こっちが怒らせるようなことをしなければ大丈夫さ」


 ソウヤは自信をにじませて強調する。


「ドラゴンだからって、必要以上にビビることはないよ。上級ドラゴンは下手な人間より話がわかる」


 だから――ソウヤは、一同を見回した。


「上級ドラゴンが珍しいからと、それを金儲けの道具にするなどとは考えないことだ。オレはドラゴンでも話が通じている以上は、人間のそれと同じように扱う。もしその考えに同調できないなら、ここで商会を抜けてもらう」


 影竜の卵を売ったら、とか、何か貴重な素材をどうこうしたいという下心を持つような者がいるなら、今後トラブルにしかならない。影竜にダンジョンから離れさせ、こちらで預かる以上、誠意は見せなくてはならない。


「ま、旦那がそう言うんなら、おれからはないな」


 ライヤーがお茶をすすった。


「ミストの嬢ちゃんやジイさんが、反対しねえなら、問題ねえってことだろ」

「それもそうね」


 ソフィアが姿勢を正した。


「その影竜が暴れるようなことがあったら、ソウヤが責任もって押さえてくれれば、それでいいわよ」

「ああ、お前らも余計なちょっかい出すなよ」


 丸投げ感があるが、反対されないだけマシというもの。それなりに信頼されているのだろうと、ソウヤは前向きに思うことにする。


 カーシュは……聞くまでもなかった。ミストという前例があるからだろう。


 セイジやガル、フィーアも反対はなく、晴れて全員の理解を得られた。


「住む場所については、別々にするつもりだ。卵のことで、影竜も神経質になっているからな」


 ソウヤが言えば、ジンも頷いた。


「あれで母親だからね。生物として、ごく自然なことと言える」

「とはいえ、一応、アイテムボックスの管理者として、多少は交流を図ろうとも思っている」


 そこでソウヤは、ニッコリ笑った。


「そんなわけで、今夜は影竜と晩餐を共にしようと思ってるんだけど、誰か付き合う?」

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